第135話~訪問者F~「F**kin' Perfect」
「それで? 話ってなぁに?」
………………
…………
……
絶望学校で初めて風を知った時の、
理の風への印象は、
あまりはっきり覚えていないけれど、
精々街によくいる「生きる屍」の一人程度……、
……だった様に思う。
……ただしばらく経つと、ふたつの違和感があった。
風はいつも独りで、それがどんな類のものでも、
笑った顔を、一度も見た事が無い……。
泡小波町で、
両親のぬくもりとやらも知らず育てられて、
物心がつく頃には、「人は先ず疑ってかかれ」が処世術になっていた。
例えばあたいが一冊の本だったなら、
街の有害図書指定を免れえない光景を、
反吐が足りなくなる程見て育ってきた。
今思えばあたいが幸運だった事は、
将来的な商売道具として見い出された事と、
それまでの期間の首輪のお陰か、
多少泡小波町の中では、
特別な存在の一人になっていた事だった。
しかし絶望学校に入った頃から、
選択の余地のない仕事に迫られた。
つまるところ覚醒剤の売人だ。
あたいの愚かでくだらない人生へようこそ
正しいとか間違っているとか、そんな言葉は麻痺していく。
血を燃やして毎日を過ごしても、明日は法に裁かれる身かも知れない。
自身の判断に自信が持てず、「それでもいい」と言い聞かせる。
ぞんざいに扱われて誤解されて認めてなどもらえるはずもなく、
「ああジョークだよ。平気さ」と振舞う。
誤り非難されて過小評価される日常。
憎しみと嫌悪でまみれた、本当に出来の悪いゲームよ。
「氷茶」の値段は、ガキには早々手が出せない。
純度の高い代物だが、時には金持ちの無知なクソガキに、
「法には触れていない」と囁いたりして、帰ったら洗面所を見るなり、
反吐であたいの醜さを飾ってやったりもした。
だけれど反吐を繰り返していく度に、疑念を抱く。
結局影のない所に光も無い様に、
これは都市ぐるみの出来レースなのではないかと。
だからといって、誰も責める事なんてできやしない、
結局人は独りなんだ。
都市の豊かさは、そのまま闇の深さ。
本当に皆、ご苦労様々だぜ……。
もうそんな狂った日常を死ぬ程やめたいと思っていた時に、
風があたいの人生に風を吹かせた。
………………
…………
……
「死ぬ程嫌なら、死ねばいいじゃない」
風は事も無げにあたいに告げて、
学校の屋上から飛び降りていった気がした。
でもあたいだって無知じゃない、
学校のセキュリティを破壊する事は、
街の中枢近くまで侵入しなければ不可能なはずだ。
だから、……分かってしまった。おそらく風は、
J-D-Vから…………、
命まで賭して、自殺したんだと……。
その後も『天使の揺籠』事件を、
密かに追い続けて、風の自殺が未遂に終わっていた事にも驚愕を覚えた。
……死んでないだと? ……あの高さから落ちても!?
その事実はあたいの契機のひとつになった事は確かだ。
とても難しいがとても簡単な事を、風に教えられた。
死ぬ程嫌な事なら、死ぬか、死ぬ気でそこから逃げればいい。
そう思い立ったあたいに間もなく、
決定的な契機、
風とるぅさと巡り会う機会が訪れた。
………………
…………
……
事件後の風は、あたいの知る「生きる屍」とは少し異なっていた。
それにやや男性嫌悪のあるあたいでも、傍に居て嫌な感じもない。
でもひとつ気に入らないのは、
風は今でも何処か自分に対して卑屈さを抱えている。
風? あんたは凄いヤツだよ。
あたいは認める時は、はっきりと潔く認めたい。
風もるぅさも、あたい以上に人生に命を賭してる連中だ。
こいつらとならやれる……かも……、
が……、
いや!
絶対にやれるっ!!
あたいもやってやるっ!!
絶対に「自由」を手に入れるっ!!
………………
…………
……
「……そうなんだ。
てっきり風くんは、理さんの良い人だと思っていたけれど、
風くんには別の良い人がいるのね? ……それは、辛いわね……」
今はそぅるさんにお時間をもらい、
そぅるさんのお部屋で話を聞いてもらっている。
あたいは誰かに話しながら問題を整理するのが性に合っているからだ。
それにしても……、
運営者でもお部屋の大きさは、
あたいの借りてるお部屋とほとんど変わらない。
「へへ、でも仕方ないよ。
話した通りあたいは汚れてるし、風とその人を見てると、
嗚呼、こりゃ敵わないなって思い知らされてるからね」
「そぅるとしては理さんの味方だから、奪っちゃえばって思っちゃうけど?」
「ぅぅん……止しておくよ。それに言ったろ?
あたい基本的には男って苦手だし、
結婚して老後まで顔付き合わせるとか思うと有り得ないわ」
「あら? それはうちの相方とそぅるに対して、
喧嘩を売っているのかしら?」
「ああ!? 違う違う、あたい個人の人生観の問題」
「そう? それではよろしい!
理さんには風くんと頑張ってもらいたいから、
こんな全数字のそぅるでも、
夢を見させてくれる、うちの相方の、
そぅるへの魔法の殺し文句を教えてあげちゃう♪」
俄然活き活きとしだしたそぅるさん。
話を聞いてもらったお返しと好奇心で、
大きな猫の次の言葉を、遮るつもりは全くない。
「あのね?
うちの相方は言ってくれたんだぁ……♪
そぅるの事を、何処からどうみても君は「完璧」だよって♪
こんな全数字で足手まといのそぅるをだよ?」
……あたいはただ「そうなんだ」と、
聞き流す程度にしておければ良かったのかも知れない。
…………でも、できなかった……!
「……理さん? 聞こえてる?」
「……そんなの、
後から凄く……辛い想いをするの、そぅるさんじゃないかっ!?
酷いだろ! 欺瞞だよ!
ごめん……こんな事言ってしまって、
でもあたいはその言葉、受け入れられそうにない」
そんなつもりじゃなかったのに、
彼女の大切な人の言葉を否定してしまった。
……あたいの事も否定されたって仕方ない、
けど……、
「うんいいよ。そぅるも嘘だって分かってるから、
自分が一番自分を許せないから。
でもね?
魂がそう言ってくれたってだけで、
これから魂がそぅるにつく嘘も欺瞞も、
全部許しちゃおうって、全部騙されちゃおうって、
そぅるは想えたの。
だから、全然平気だよ♡」
あ……あたいには理解不能だった。
そんな言葉リアルじゃないって、まだ否定したがってる。
二の句が……継げない……。
それにムキになっている所為か目頭が熱くなる。
そこへ…………、
「だってさ?
そぅるにも魂が完璧に見えちゃうんだもん♡」
……でも……だって……、
「悪いけど……そぅるさん、足悪いでしょ?
あたい達は老いていく、永遠に若いままなんかじゃいられないのよ……?
貴女が彼にしがみつけばつく程、好きな人を苦しめて、
一番苦しくなるのは、きっと貴女なのよ!?」
「最高の味方は最悪の敵となりうるわ。
それでもその相手が魂だって事が完璧なの。
負ける気がしないのよ、人生に」
大きな猫はそう告げるとあたいの両肩に両手を優しく置いて、
「この魔法は、
心から愛する人に言ってもらえないと、本当の効果が現れないわ。
だけれど、本当に他愛ない、可愛いお願いよ理?」
アヴァターを超えて彼女の真摯さが伝わってくる。
あたいはその想いを持て余すけれど、何故だか思わず、
もっとガキだった頃、あたい自身の大切にしていたものを思い出して、
柄にもなく…………ほんの少しだけ……、
「貴女がどんなに自分を完璧じゃないと悲嘆しても、
これから貴女を愛する人が貴女を見つけた時、
貴女はどうしようもなく、その人から見たら「完璧」なのよ」
涙が……零れた。つ
おれたほねはつよくなってよみがえる
だれだってきずつきます
そしてもっとやさしくなれたら
Song P!NK songwriter Alecia Moore / Max Martin / Johan Schuster