第134話~訪問者M~「水色」
Green Grassの空蝉先生のお部屋の前で、
風は深呼吸をして、扉を見つめる。
空蝉先生の気配は感じているし、
先生が風に気付いている事も分かる。
全くもって、恐れ……入ります……。
そして、ノックをしようとしたその矢先に、
「風ちん、どーぞ」とお声が掛かった。
………………
…………
……
「失礼します」と入室すると、
両目に映る空蝉先生のお部屋も、
風に貸し与えられたお部屋と、
大差はなさそうに見えた。
「お忙しいところすみません。
今お時間いただけますでしょうか?」
「有るも無いも、風ちん悩んでたみたいだからな。
しばらく待ってたんよ?」
精神面の管理もされていたという事か……。
……でも、なら話が早い。
「では「かくれんぼ」のご褒美を今いただけますでしょうか?」
………………
…………
……
「……ふむ、つまり理に恋してしまった、
そういう訳か?」
「……は、はい。
恋……、というものを生まれて初めてしていると思うので、
感情面に支障をきたしております。
……何か……良いアドバイスはいただけないでしょうか?」
「慣れて馴れろ、そんぐらいだな」
…………は……?
「はい……?」
「風ちん? 恋もてめーちゃんの“空気”同様……、
いや、それ以上の劇的な変化なんさ。
上善は水の如し、流れてゆこーぜ。
感じるままにさ?
風ちんが秘めていたいならそれを楽しめ、切ねーけどな。
風ちんが伝えたいなら、今すぐにでも真剣に告げておいで」
「こっ……告白なんて……風達はまだそんな……!」
「そーか。まー後悔のねーよーにな?
だがな、空気だけでは全てを解決できねーぜ?
透き通るぐらい素直な気持ちがあるなら、伝えなきゃよ?
オイラはその為に生まれて来たと、ずっと想って歩ってるからよ」
……だっ、
「だって受け入れてもらえなかったら、
今の関係はそこで終わりじゃないですかっ!?」
思わずハッとなり、明らかな動揺からの子供じみた言動に、
自分自身をすぐに恥じて、空蝉先生にも謝罪した。
「はは、気にすんな。……だがな?
たった一回フラレただけで諦める程度の想いなら、次行きゃいーだろ?
短くも長い人生、諦めねーならチャンスはまだある。
恋人の役が無くなったら、最高の友人を演じろ、友人でもダメなら、
憎悪させるくらいに、例え敵になってでも相手におまえを刻み込め。
だからといって心を曇らせるんじゃねーぞ。水色でいろ。
水色のまんまでいられたら、そいつと一緒になれなくても、
振り返った時の景色は濁ったりしねー。
惚れた女への情熱で歩いて来られたって事実は、
そのとびっきりの女への感謝でしかなくなるよ。
永遠の片想いだって、そいつの解釈次第で救われるものもあるんだぜ?」
……空蝉先生の仰る事を、風はまだ、ほとんど理解できていないだろう……。
それでもひとつ確かに感じる事は、それが人に「惚れる」って事なんだろう。
「後はそーゆー事なら先に伝えておく。
もしも風ちんが想いを抑えきれずに告白する気になったなら、
この星を出る間までに済ませておけ」
……ぇ?
「そ、……それは、それにはどの様な理由があるのでしょう?」
そこで明らかに先生の空気は変わり……、
「何故ならな?」
くちづけでおこして
それはまるでまほうです
いきましょう
歌 BLANKEY JET CITY 作詞・作曲 浅井健一