第131話「時の腕」
こん こん こん
「はい、開いてます」
………………
…………
……
理の部屋へノックをしたのはそぅるさんだったが、
すぐ隣には風もいる。
ノックをした扉の先には理がいる。
なんだかもう、ずいぶん会っていない気さえする。
まだここへ来てから、数えられる程度の日々なのに……。
なんだろう……この感じ……。
「風くんも連れてきたわよ?
それじゃあ、入るわね?」
その言葉と共に、理に一時貸し与えられたお部屋から、
ガタッと音がして、何か……、そう、
空気が変わった。
「ぁ……あいよ。分かった、どうぞ……」
変わった空気に、風も何故かより一層緊張してくる。
……なんだ? …………なんだこれ?
気付くと右手が唇をなぞり、顔がなにやら熱っぽく感じる。
凄く……会いたい、でも、何故か嫌……でもあった。
こんな感情初めてだ……。
しかし、そぅるさんはそんな風におかまいなしに、
廊下側に扉を開いた。
………………
…………
……
扉の先には、理が居て、
風にはこれも訳が分からず……目頭が微妙に熱くさえなる。
「……良かった。理、……良かった」
理性より感情で声が出てしまう。
すると空気は若干和らいで、
「へっ、あたいをなめんなよ?」
今まで通りの風達の空気に戻っていきつつあった…………、
でも、
「……そ、そぅるさん、
これは……? この方達も?」
「ええ、そうよ。この部屋中に居るのも、
風くんの時と同じ幻装者よ」
理のお部屋のいたる所に大勢の、
しかし小さく多種多様な幻装者達が先に居た。
「これが普通のりょ……量……なんですか?
すみません……言葉が悪くて……」
「はは……、いいえ。風くんのSylphにしたって、
比較的珍しい光景よ。そぅるには推測しかできないけれど、
これが理さんの感字、
「理」という文字の、とても大きな力の為でしょうね……」
「理」の力か……、確かにしなやかな躍動を感じさせる。
………………
…………
……
「理が元気だって“空気”で感じられて、風は嬉しいよ。
もう同一化は済ませたのかい?」
「それが……まだなんだよ。
風はすんなり同一化できたみたいだけれど、
あたいはそううまくはいかなくてさ…………。
折角なら力の強い幻装者と同一化したいし。
風はそういう事思わなかったのかい?」
「風はSylphしか選択肢がなかったし、
脱力して、耳を澄ましたらうまく融合できたよ。
まだ戸惑っているところだけれどね」
「何を戸惑うんだい?」
「風と理の幻装者が同じでなければ、
この感じは言葉で共有するのが難しい。
風の場合は「空気」に対して、
とても鋭敏になっていっているんだ」
「その幻装者は強いのかい?」
「理? 風の拙い感想だけれど、
どの幻装者が強いとかじゃなく、
その能力を、どう活かせるかだと思うよ?」
「ちっ、また大人ぶりやがって」
ちょうどそこでくすくす笑いながら、
そぅるさんが間に入って来た。
「ぁはっ♪ 風くんもそぅるの相方と同じ事言うのね♪
これも相方の受け売りだけれど、理さん?
風くんが言った事ともうひとつ大事な事、
本当に幻装者を求めていなくちゃ、
求め合っていなくちゃ、
同一化はできないと思うわ。
貴女にはとても多くの幻装者が関心を持っているから伝えておくけれど、
幻装者は感字一文字に対して一体だけだからね?
貴女が一番望んでいるものを自身の心に問い掛けてから、
幻装者達に呼び掛けてみたら?」
それから、理は沈思黙考し始めた。
………………
…………
……
風もそぅるさんも理を急かさず十分程過ぎた頃……、
理ははっきりと自分の望みを口にした。
「……あたいは、
「自由」を勝ち取る為の「機会」が欲しい」
その言葉の直後に、大勢の幻装者の中から、
一体の男性が飛び出して来た。
小さな彼を刮目すると、
特徴的なのは、
前髪は長いが後頭部が禿げた美少年という感じで、
その両足には翼が付いていた。
“空気”が告げている、……この出会いはとても自然なものだと。
まるでパズルのひとつのピースを発見したかの様な出会いだ。
理はそぅるさんと風を見て、
同一化してみる事を頷いて伝えて来た。
そして…………、
………………
…………
……
「……分かりました。御名は“機会”、
あたい……、いえ、理は、理・0111と申します。
どうかよろしくお願いいたします」
時の腕へ、理は抱かれた。
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にんたいはバラをさかせる
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アーティスト 光田康典