第126話~貴女は今なにを想っていますか?~「No Surprises」
母親の存在とはなんでしょう?
もちろんその人その人により、
答えが変わる質問ですから、
あまり意味のない問いかけではあります。
だから……こう、
僕にとって母とは一体なんなのだろう。
僕を産み、時に命懸けで育ててくれた女性。
よく叩かれたけれど、虐待されているとまでは、
思わなかった。
今は介護老人保健施設に入所している。
僕も僕で病気療養中ですから、
場所が遠い事もあり、まだ一度も見舞いに行けずにいます。
ですが、母と僕の過ごしてきた時間を振り返ると、
もう一生会えなくても、構わない気がします。
母を思うと胸が切なさで締め付けられますが、
それはどうしたって解消できる問題ではありません。
母に思う事は、老健でひとりになってやしないか、
認知症がひどくなってやしないか、
もしも老健で、イジメにあってやしないか、そんな事ばかり。
僕の上の姉兄、その家族がいなければ、
僕は僕が生き残る為に、母を見捨てる事しかできない、
そんな人間モドキです。
癌に侵された父と認知症の母と日々を過ごしていた頃は、
僕はずっと豊かで、ずっと病んでいました。
しかし、今では、
ここが僕の居場所なんだと、そう思える場所へ辿り着けました。
僕は、幼い頃夢見た自分とは、ずいぶんかけ離れてしまったけれど、
多分孤独を愛している。
本当の孤独なんて、そう滅多にあるものではないですが。
志があれば、人生はひどく短く、
生きがいのあるものです。
しかし、
もう一度全く同じ人生を歩めと神様に言われたら、
これもまたひどく億劫な気持ちになります。
僕は学生時代に戻りたいなんて微塵も思わないし、
病気を発症してから十数年は地獄の様な日々でした。
父や母が僕に与えたい人生がこれなら、
こんな人生なんていらない。
本気でそう思っていた時期がありました。
現在は、語り合う友人をなくし、
日々は淡々と過ぎてゆきます。
それでも人々に囲まれた賑やかな生活なんて、
僕は求めていません。
孤独でも、穏やかな日々がいい。
お母さん、貴女は今なにを想っていますか?
僕は友達が百人できるよりも、
無数の人々がただ目の前を通り過ぎてゆくのを、
何も分からず眺めているだけで、幸せに辿り着けました。
貴女は孤独ですか? それとも豊かですか?
貴女を見ていて最も教わった事は、
人は幸せだから笑うのではなく、
笑う事でわずかな幸せを引き寄せるのだという事。
政府は僕らの代弁者などではなく、
社会に参加しても火に油なら、
僕は最後が扉をノックする時まで、
極力社会を切り離して生きていきます。
それは選択が許された、自由ですから。
貴女との人生の深度はまるで違っていても、
穏やかな静寂が、今最も親しい友人です。
貴女が幸せなら、僕も幸せですから、
どうか、幸せでいて下さい。
人生には、こんな事が起こり得るのか、
そういう事柄に溢れています。
しかし、僕にとって絶対だった貴女を超えて、
誰かを愛したい、愛し続けたいと想う女性が、
僕みたいな無関心な人間にでさえ出逢えるこのせかい。
わずかの悔しさから、事実を受け入れて告げるなら、
きっとこういう事になるのだと思います。
お母さん、
僕を産んでくれて、有難う。
あなたはぜったいてきなははおや
あなたがぼくのははおやだったことは
ぼくにはたいへんなこううんでした
Song Radiohead
Lyrics/Music
Colin Charles Greenwood / Edward John O'brien
/ Jonathan Richard Guy Greenwood / Philip James Selway / Thomas Edward Yorke