第121話~いつかのヴァレンタイン~「My Funny Valentine」
「倖子君? 新しいお話打ち込んで、
プリントアウトしてみたから読んでみて?」
「あ~ごめんなさいね?
今私美味しいチョコレートいただいてるから、
手を洗ってから読むわ」
「…………、は、はい……」
「その歯切れの悪い返事は何?
何か私に文句でもある訳?」
「いっ、いいえ! とんでもないですっ!」
「よろしい」
………………
…………
……
「…………ふぅん、
「万華鏡雪月花~Kaleidoscope Worlds~」ね……。
そういう星のお話か……、
これならじょにーさんとしても、頑張ってあげようかしら」
「ほっ、本当にっ♪」
「私の滑稽な同居人の為にね」
「そっそうだった!? 今日はヴァレンタインだったよね?」
「それが、何か?」
「何故眼つきから態度まで、そこまで棘棘に頑ななの……」
「ほぅ、分からないんだ心也……様には?」
「ぃ、ぃぇ……」
「そうよねぇ!? 分かるわよねぇ!?
貴方がこんなにイライラさせる日にしたのよねぇ!?
愛の誓いの一日ともされる、このヴァレンタインデイを!?」
「……は、……はい。仰る通りです……」
「言っとくけど!
私はもしもこれから一生貴方と過ごす羽目になっても、
貴方には幸せなヴァレンタインデイは贈らないからね!」
「僕……どうしたら君をご機嫌にさせる日にできるだろう……?」
「一生無理ね! この超絶鈍感男っ!!!!」
「……ぅぅ……だけれど、そこまで怒ってもらえると、
あの頃の僕は、あの頃抱えていた苦悩以上に、倖せだったんだな……。
あれからもう十年以上経つのか、信じられないや……」
「わ! た! し! も!! かなり抱え込んでいたのに、
貴方は逃げたのよね? 仕事からもバンドからも私からも!」
「……僕は借金を抱えてしまって、
病院清掃のお給料じゃ足りなかったし、
バンドでも演奏面では一番足を引っ張ってた。
ちょうどその頃倖子君に出逢って、
かなり精神的に滅茶苦茶な状態で……、
仕事もバンドも何もかも、全て君の事ばかり考えてしまってて、
全くもって面目ないです……」
「……、ふんっ! 貴方はいつも、貴方の心配しかしていない。
貴方以外の人間も、貴方と同じ様に、
喜怒哀楽や絶望と希望を抱いて、生きているのよ?」
「うん……その通りだと、思う。
だから僕の周りに居てくれる人には、
本当に申し訳ないとだけは、心の底から思っているよ」
「本当に?」
「本当だよ」
「…………、ぁ……私だってねぇ、ヴァレンタインが来る度に、
昔の事に業を煮やして、
心也君といつまでも怒った顔で向き合っていたくなんかないのよ?
貴方は貴方の事しか考えてくれない。
何の為に、ここ数年の間、貴方の目の前で、
わざわざその年のお気に入りのチョコレートを、
女性の私が食べ続けているのかすらも、ちっとも気付かないっ!!!!」
「……、ぇ?…………も……しかして……って事は……っんむ!?」
あなたはいつもこころのなかにいます
しあわせなヴァレンタイン
ぼくのものにしたい えいえんに
Lyrics Lorenz Hart Music Richard Rodgers