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XO!i  作者: 恋刀 皆
123/164

第120話「Driving South」

「…………なんてっ……事してるの……っ……!?」


………………

…………

……


 ヴィレスの住人達が行き交う、

V-less門セキュリティゲート前…………、

下空から上空へと真っ直ぐに繋がる大きな塔、

Slave Driver入口で待っていたのは、

りぃだけじゃなかった。

…………るぅさに……、まさかの…………、

看・000……さんの、るぅさへの車椅子介助まで。


 でもぼくを決定的な混乱に陥れたのは……、

忘れがたいお面と外套を身にまとう、




一人の犯罪者の姿だった……。




ふぅちゃん? 

貴方にも時間があった様に、るぅ……000達にも時間はあったの。

しかも、かんさんに理ちゃんに000。

“三人寄れば文殊の知恵”ってヤツね♪」


 風のすぐさま告げようとする言葉の兆しを、

看さんに摘み取られる。


「心配するな風・1100。

この人は確かにお生まれになった惑星では重犯罪者だが、

現在はより優れた家庭教師でいらっしゃる。

J-D-Vでくまなく調べれば、風・1100の能力なら、

その訳に辿り着くのは容易な事だと思う。

そして、この街の内部にすでに招請されているという事実で、

風・1100なら察してもらえると信じている」


 風が……今……察する事ができるもの……。

少なくともこの場に居る五名の内、僕を除いた四名は、

ある一定の信頼関係……とまではいかなくても、

信用できる確実な何かが、皆の間ですでに築かれているであろう事。


 なにせ招請申請の関係書類には実印まで持ち出さなくてはならない。

例えば理に差し迫った状況の為の家庭教師だとしても、

るぅさと看さんの背負うリスクが高過ぎる気もする……。


 「空蝉このひと」が賭けているのは、

間違いなく自身の命以上のものだ。

この人が安全だと、本当に僕でも容易に調べられるのなら、

街の招請申請までの手続きには空蝉側は全く問題なかっただろう。

この人は街の「全天監視」まで受け入れて来ている。

街中の何処に居ても管理されているのと同じだ。

ぼくみたいにほんの一時の情報開示じゃないのだから……。

街の中枢が突き詰めて何処まで優秀なのかは分からないが……、




 …………待て……?




強い違和感を覚える…………、

おそらく門前の往来の中、

囲まれている空気……。


 まもなく……、


おそらくは理の関係者の、

この場の代表と思しき二人組の男達が近付いて来る……。

二人共強面だが、特に背の高い方の男は纏っている空気が明らかに異様だ。

ディバイスは立ち上げていても、

すでに本能が身を護りきれないと覚ってしまっていた……。


「ようやくおまえらも面子が揃った様だな?

理・0111よ? 

おまえはまぁ、

大人しく人の言う事だけを聞いている女じゃあねぇとは思っていたが、

悪い事は言わねぇSlave Driverには入るな。

新たな地獄を味わうより、見慣れた地獄でやっていけ?」


「悪いね、あたいはこの賭けを降りるつもりは無い」


「そうかい? じゃあしょうがねぇなぁ」


 背の低い方の男の低く野太い声音で、

背の高い方の男がゆっくり間合いを平然と詰めてきた。

近付いて来る程に圧倒的な実力差も伝わってくる。


 結果は明白だが、僕も男だ……、なんの役にも立たないであろう、

盾になろうと決めた瞬間、



「いーねぇてめーちゃん。

オイラちゃん今回の仕事、ひとつ好きんなれたわ」



 僕の前に、空蝉かれは先に盾として、

いつの間にか立っていた。


……ぇ……?


超現実サリーアルからの能力行使なのか……?

瞬間移動能力者……? まさか……そんな力……。


 背の高い強面の男も立ち止まり、

空蝉と向かい合い、



しばらく両者相対し…、



「……ふん、割りに合わん仕事だな……フォールドり、だ」



と告げて、

指図をしたかに見えた男の方へと、

またゆっくりと戻っていった。


「そうか……あんたが降りる程の味方が、理についちまったか……。

理・0111? おまえにとってSlave Driverが墓場になっちまうかもな……。

おまえは商売道具でもあるが、人間扱いはしてきたつもりだったぜ?

今度はおまえが「手遅れ」かどうか氷崖に立つ番だ」


「……なんの事言ってんだい?」


「おい、そこのひょっとこ野郎?

こっちはその女が門に入ったら自殺する方に賭ける。

おまえさんはどう見る?」


「オイラも仕事でな? 可愛い生徒だ。

最後までコールてやるに決まってんだろ?」


 二人組の男達は粗野な笑い声を上げてから、


「まぁ最後はそいつが決める事だがな?

そいつのひでぇ首飾チョーカーりに免じて、

こっちはもう行くぜ。

理・0111? 冥土の土産にひとつ伝えておく。

生きるも死ぬも、結局そいつ次第だ。

自由リバティー」を勝ち取ってみせろ?

じゃあな」


 そう言い終えて男達が背を向けると…………、

激しくはないけれど往来があるとはっきり言えた門前から、

みるみる人が減っていき、

風達はこれ程の人数に囲まれていたのだと……、

唖然となってしまった……。

これが奴隷街の住人達のやり方なのだ……。


「空蝉……先生? 門の中になにがあるんだい!?」


 当然の疑問を理は空蝉に問い詰める。

しかし……、


「まー待て? 仕事として先に聞かせてけれ?

その首飾りに何が仕込んであるのか知っておきたい」


 逆に質問されて、

躊躇からしばらく黒いチョーカーをなぞり……黙り込む理。

と……仕込むって……?



「理ちゃん? 000も気になっていた事だわ?

看や000は知る権利があると思うわよ?」



 …………ちょっと風はびっくりしてしまった。

るぅさの語調にもだが、「権利」を持ち出すなんて、

余程るぅさらしからぬ強引さだ。

 しかし理には……るぅさにそこまで言わせてしまっては、

告げなければならない責任があるとは思ってしまう。

ここに集まった風以外の人間は、全員命懸けだったのだろうから……。

理にそれが解らないはずはない……。


「これは……このチョーカーには、あたいが成人するまでに、

泡小波の連中や世間に、万が一暴行を……辱めをうけた時に、

ディバイスを作動させて、首筋に猛毒を流して、

あたいが…………死に至る様な仕掛けになって……ます」


 …………風は……沈黙しか……できなかった……。

理・0111という人間にとっては街で生きていく事自体が、

命懸けのものだったんだ…………。


「そぅか。分かった。オイラも質問に答える。

おまえは門の中で、

おまえ自身に背負わされた罪と対峙する事になる」


「……もっと具体的に教えて……下さい?」


「百聞は一見に如かず、だよ。

おまえは先ず最初の賭けに勝った。

次が正念場だ。

オイラだっておまえの送ってきた人生を、十全には分からねぇからな。

仕事を引き受けて早々のハードルとしては高過ぎるが、

オイラが調べた情報が確かなら、乗り越えられれば、

一段上の……「自由」ってもんは手に入るだろうよ?」


「……今は頷いておくしかないんですね……」


「おまえを育ててくれた、連中も良い土産をくれたんだぜ?」


「え……?」


「人に何かを尋ねて安心や安全を得たいって言うのも、

おまえ自身が考えて下した、生き残る為の手段な様に、

最後は結局おまえ自身で考えろ、そういう事だ。

人間はあっけなく命を落とすが、

オイラ達はその意志……想いを受け継いで、

今まで滅びる事もなく、強かに生き残って来ている。

おまえに死んでほしいと思っているヤツらもいるかもしれないが、

だからってな?

おまえ自身が死ななければいけない理由には、まずなりえない。

要は、おまえが生きたいと思うなら、生きたいだけ生きろ。

人間に許された自由なんてものは、

他の人間の犠牲があってこそ、得られるものなんだからよ?」




「……はいっ!」




………………

…………

……




 それから風達が全員でSlave Driverへの入場に至ったかと言えば、

そうではなく、るぅさと看さんは門前までという事になっていた。

やはりその理由が気になるので何故かをるぅさへと尋ねたら、




「000と看さんは、ここが万華鏡惑星・・・・・と呼ばれている意味を、

もう充分知っているからよ?」




 るぅさの声音に、風の胸は強い切なさを覚えてしまい、

それもまた何故か、風にはそれ以上を尋ねる力が湧いてこなかった……。


「これから先に起こる事は、理ちゃんだけでなく、

風ちゃんにも有益だと信じているから、一緒に行ってあげてほしいの」


それが……るぅさから最後に託された言葉だった……。


 今風が分かっている事は、

何もできなくても、

理・0111という女の子を傍で見守る事、

空蝉さんを一時受け入れる事、

V-lessという街の名が、万華鏡惑星が、何を意味するものでも、

風は…………、








生きる事を、決して諦めてたまるものかという事。



 むかんしんはあいのてき

しかしほんとうにむかんしんになれるなら

ぼくはあいよりむかんしんのみかたをするだろう

Song Stone Roses Lyrics/Music John Squire

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