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XO!i  作者: 恋刀 皆
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第119話「路上のフォークシンガー」

 ぼくは現在ホームレス支援施設へとその身を寄せている。

ヴィレスにはいくつもそういった施設が点在していて、

大昔には悲愴な想いをする人達がたくさんいたそうだけれど、

現代の支援施設には悲愴という言葉があまり当てはまらない程に、

人々によって賑やかに、穏やかに、時に口論もあるけれど、

これ以上の贅沢を言ったら罰が当たるくらい、住み心地は悪くない。


 風は街の情報をJ-D-Vになるべく頼らず、人伝てで収集していた。

ひとつの施設に留まらず、できる限り毎日居場所を変えて。


 尋ねて回ったのは、


先ずは成人となったら娼婦となるりぃの様な、

バブル・リプルの女性達の立場などから。


 そういった話は、

人生の先輩達も花が咲く話の様で、軽い対人恐怖の風でも、

聞き役に徹するだけで、十分な情報量がもらえた。

そして……ひとつ光明も見えた、理を娼婦にしなくて良い方法だ。

でもこれは……理との関係を最悪完全に壊しかねない、

伏せておくべきカードだ。

理の人間性を理解してからでなければ切れない。

その切り札については、風にリスクがないとは言えないが、

どちらかと言えば、今を「生きよう」としている風には、

プラスにさえ働く可能性があるのだから、風には悪い話じゃない。

先に思った様に、困る可能性があるのは、むしろ理の方にある。

この事は、最悪街から出られない事が決定的だと判断した時に明かそう。


 次は街から唯一出る為の手段がある場所【Slaveスレイヴ Driverドライヴァ】。

V-lessは食料自給率が極めて高い。

また、風にはその意味が分からないままだが、

万華鏡惑星の名の下に、

本来閉じている都市なのに様々な資源も潤っており、

その理由がSlave Driverに隠されているらしい事だけは、

『天使の揺籠』、事件での経験とここ十日の情報収集で掴んでいた。


 もう一度刻んでおこう、


 V-lessは出入りが閉ざされた街だ。

出れても戻る事が難しくなり、入れても出る事が難しくなる。

その理由は『招請制度』にある。

つまり都市から重要、必要とされている人物と街に判断されなければ、

出入り共に不自由とされている。

風が見つけた最高最低の家庭教師にしたら、あれ程の情報開示をし、

極めつけに重罪人では、誰にしたって招請したくなどないはずだ。

要するに街がある一定の信用を置かなければ、セキュリティゲートで、

立ち往生するしかないからこその「空蝉」という人物の現在地、

V-less門前となる。

街に入るのは出る事よりも容易いが、

それでも成人……、大人の男女一名ずつの書類申請と実印まで要り、

かつ街の承認が必要になる。

重罪人として興味本位で、その経歴を辿った者がいたとしても、

招請をされる様な人物である事は極めて低いと思う。

これも全数字しょうがいしゃに対する偏見の様な…………、


……いや!


断じて違う。


 もしかしなくてもその重い罪は、人を殺めた事かもしれないのだから。

頭を切り替えよう、風と理にとってのより良い結果は、街を出て、

お互いの「自由」という名前に絶望せずに生きていく事なのだから……。

…………しかし出て行く為の門を通過する為には……、



「おいっ♪ あんちゃん?」



ここで思考の流れを切られるのは……勿体無かったが、


「はい。なんでしょう?」


情報を集める為には、対人恐怖を直しつつ、

与えてもらうばかりでなく、こちらも応えなくてはいけない。


「そのギターケースが飾りじゃねんなら、

なんか景気のいい歌、ってくんねぇかな?」


「リクエスト曲とかありますか?」


「お! レパートリーあんのかい?

そうだな……曲のリクエストはねぇが、

兄ちゃんが聴くと元気が出る歌を頼むわ。

ちなみにロックやフォークが好きなんだ」


 僕が頼まれて薔薇をケースから出し始めると、

施設内の一部の人達も興味を持っていただけた様で、

零人には満たない程度に観客がいらっしゃった。


僕は薔薇をチューニングして、

有難いお客様へお辞儀する。


「曲名は0100000001000です。聴いて下さい」


 僕には目をつむってたって押さえられる音色で、

短いカバー曲をかっ飛ばしてみようと思えた。




「あなたは前を向いて歩く人?

 それとも俯いているのかな?

 ボクはどっちもいいって思ってしまう

 それはどちらも前に進んでいる事には

 変わりがないから


 先を見る事も 足元に気を付ける事も

 人間万事塞翁が馬なんてね

 気にする事なんてなにひとつ無い

 キミはキミでボクはボクさ


 人生がとっかえっこできたって

 そんなのにボクは興味ない



 覚悟が全てを決めるもの

 覚悟が全てを決めるもの



 あなたは上を目指している人?

 それとも死んで生きる人かな?

 さてそれもボクにはどっちもいい事さ

 カレはそこにいてキミはそこにいる

 世界が丸いならどこも一緒


 誰かが得た部分にキミの得るものはもうない

 でも人間万事塞翁が馬ってね

 落ち込む事なんてなにひとつ無い

 キミはそこにいるボクはここにいる


 人生が不平等なんて当たり前だろう

 そんなものは ボクは見てもいない



 覚悟が全てを決めるもの

 覚悟が全てを決めるもの


 でも安心してよ


 ボクは惨めだよ

 ボクは汚いよ

 ボクは哀れだよ

 ボクは愚かだよ


 でも居場所はある


 キミが聴いてくれている


 世界は必要に溢れてて

 もちろん キミも ボクも

 大丈夫 心配ない


 なぜってそんなボクが


 今もこうして歌っている」




 曲を歌い終えた途端、まばらに拍手をいただき、

続々とリクエスト曲が集まりだしてきた。

歌えるものもあれば、存在を初めて知った曲もあった。

風の薔薇がお役に立てて誇らしい。

およそ一時間でお開きになり、風も今日は目立ち過ぎたので、

こちらの施設を発つ事に決めた。


 概ね施設の困る点も分かってきたところ、

一番はお風呂に自由に浸かれない事かな……。

それでもサバイバルとは呼べない程には、

どの施設も満たされている。

その事実は風が街を高く評価する部分となった。


 彩雪が程よく舞い踊る大空に出て、

メールをチェックすると、理から一件、


「協力求む」


 待ち合わせ場所は、V-less門前、

……そこにはどの道行かねばならない、

門とSlave Driverはイコールだから。


 お互いの都合を合わせてからメールを終えた。

しかし、その時点では露ほども想像していなかった。

現在地から南方にあるSlave Driverで、

風自身ぼくが、








猛烈な南風に曝される事を。



 すべてうまくいくさ

なぜって?

ぼくはまだいきている

歌 andymori 作詞・作曲 小山田壮平

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