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XO!i  作者: 恋刀 皆
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第118話「LUCY,CAN YOU SEE ORION?」

 りぃとの黒夜での別れから、

しばらくぼく炎家アパートを離れ、

ヴィレスの内部情報を知り、理の役に、

いては理と風の運命を変える為に動き始めた。

炎家の家賃等は全て引き落としだから、

契約はそのままにしておく。

先ず管理人「かん・まもる・000」へと連絡を取る。

介助者の仕事アルバイトをキリの良いところで、

辞めさせていただく為だ。

直接の接触はないが、るぅさへの介助者は、

風を含めて十人以上はいるから、そこは問題ない。


 管理人からの言葉からも風を引き止めようだとか、

責められる様な強い言葉は特になかった。

管理人は最後の言葉として、


「仕事に限れば、看の代わりがいくらでもいる様に、

風・1100の代わりもいくらでもいる。

1100は生きていく為の目的を見つけた様だな。

そんな人間を引き止める程、看も野暮じゃない。

道は険しいだろうが、十分気を付けてな。さらばだ」


 風は初めて看・000という人物の人間味に溢れた声音に一寸驚きながら、


素直に「有難う御座居ます」が言えた。


 室内の看・000の映像が消えてから、

風は今したい事できる事できない事すべき事を、本格的に考え始める。

るぅさに伝えもせずに仕事を辞めてしまった事には、申し訳ないが、

現在風に関わってくれている人の中で最も逼迫ひっぱくしているのは、

どう考えても理・0111だ。


 炎家を出て行く予定日まで、るぅさにも理にも会わず、

風の日々はひたすら、「自然科学融合装置」……ディバイスの改良、

ナイフを持った男との初めての実戦データを元にした、

ディバイスを通したシミュレーションの染み込ませ、

街を歩き回り情報を集める時の為の、ホームレス等が利用する施設、

つまり様々なサバイバル能力の向上、

他にもしておかなければならない事は様々だが、

最後に風のメンタルの弱さから、手放して、逃げてしまった。

白いアコースティックギター・薔薇ローズとの、

和解と親睦を深めた。


 そして…………、


身支度と覚悟をして、風が街と腰を据えて対峙する日がやって来た。

全身を「防寒」にも「護身」にもなる改良型バリアジャケットにして、

バックパックとギターケース、薔薇を担いで、

今では複雑な想いに駆られる一足の靴を履き、

部屋のセキュリティレベルを最高にしてから、

戸締りを何度も確認して部屋を出た。

辺りはもう「黒夜」と呼んで差し支えない、


先ず行く先は……、


………………

…………

……


 ひとつ屋根のるぅさのお部屋だ。

久し振りからなのか、

るぅさを傷付けてしまわないだろうかなどと、緊張はしている。

お部屋の鐘を押すと、画像通話でるぅさが映った。


「あらふぅちゃん!? ようやく来てくれたわね?

今日は友だちとして、るぅさは風ちゃんにお説教して上げなくちゃ!?

さ、上がって頂戴?」


 何故かその声音に泣きそうなくらいに切なさを覚えたが、

風は物心ついてから、はっきりと涙を流した憶えがない。

風をこんな気持ちにさせるのは、街中でるぅさたった一人だろう。

風は自らこの温もりを、今手放そうとしているのか……。


「それでは、上がらせてもらうね」


 玄関から風の部屋とほぼ同じ間取りのお部屋へと上がらせてもらう。

風以外の介助者達の働きが確かな様に、

るぅさの白が基調の飾り気のないお部屋は清潔そのものに見えた。

るぅさが横たわる介護用ベッドの脇にある花瓶の花が、

最後に訪問した時と変わっていたので、


「そのお花は、理が?」


「そうよ? 誰かさんとは違って、情の深い理ちゃんのお陰よ。

さ、風ちゃん座って?」


 言葉そのものは責めているが、声音に気遣いが感じられる。

そうだよ、るぅさは風と違って、他者を思いやる心に溢れている。

とても残念な事実だけれど、るぅさは風だけのるぅさじゃない。

そう思って花からるぅさに視線を戻して、

椅子をお借りすると、いつものるぅさとは明らかに異なる、

静かな哀しみの様なものを湛えた表情で、

風の事を見つめていた。

それでも言葉を発する時は微笑んで、


「風ちゃん、行ってしまうのね?」と尋ねてきた。


 さすがに仕事も辞めてこんな格好をしていたら、

風でさえその人に対して疑問くらいは抱くだろう。

しかし、るぅさが何処までを調べて何処へ辿り着き、

これ程深々とした声音を発しているのかは、風では分からない。


「るぅさは凄い人だ。

るぅさの様な洞察力を持った人間に、

風は成長して行きたいんだよ」


そこでるぅさはやんわり首を横に振りこう言った。


「これはるぅさの様な全数字しょうがいしゃが、

少しでも良い生活を送る為に覚えた技術よ。

本来褒めてもらえる様なものじゃないわ」


風にはその言葉の意味への理解が不十分で黙り込む。


「人に大切にしてもらいたければ、

自分から人を大切にする事が近道なのよ。

るぅさは人よりほんの少し自由が少ないから、

その分相手をよく知って喜ばせる事で、

他者から自由を与えてもらう為に覚える必要があっただけよ」


「……るぅさの言葉には何処か卑下を感じるけれど、

それってとても素敵な事だよ。誇っていい力だよ。

風がこれからを前向きに考えられるのも、

今生きているのさえ、るぅさという人に出会えたからなんだ」


「そう……、風ちゃんがそう言ってくれるなら、

もうその事でるぅさは自身を卑下しないわ。

きっと神様が、るぅさと風ちゃんを会わせてくれる為に授かった力だと、

胸を張って生きていく」


 風は、風にもるぅさを励ませる事があるんだと、

内心安らかになっていった。


「風ちゃん?

るぅさが旅立つ風ちゃんに伝えたい事は、

たったひとつの事よ。

あるがままでいいわ。

人には犯してはならない事があると思っていても、

光も闇も抱えているのが人間なの。だから、風ちゃん?

あるがままでいて」


 十秒程場が優しい静寂に包まれて、

風は、るぅさと出会うまでの間、

風の心の拠り所のひとつになってくれていた、

和解できた薔薇ともだちを紹介した。


「るぅさ、彼は風の友だちの「薔薇ローズ」って言います。

るぅさに会えない間、るぅさと風の為に曲を作ってみたんだ。

どうかお願いだから、聴いて欲しいんだよ」


彼女は途端にパァッと表情が開けて、


「るぅさの為に? るぅさ楽器の生演奏聴くの本当に久し振り♪

風ちゃん、こちらこそ、だわ♪」


 有難い言葉をいただいて、風は早速ギターケースを開き、

薔薇とピックを取り出す。

チューニングを確かめて音を鳴らして慣らして……、


「じゃあるぅさ、

悪いけれどお部屋の電気を消して、

風がいいよって言うまで、

ほんの少し両目を閉じておいてくれない?」


「分かったわ♪」と彼女は快く二つの頼みに応じてくれた。

風は室内が暗くなった後に、

ディバイスを行使する為に「ヴィジュアライズ」と呟いて、

彼女に「いいよ」と伝えた。




「…………っ、ぅわぁ♪ お星様がいっぱい回ってる♪

まるで黒夜を独り占めしてしまったみたい♪」




 風はその言葉を合図に、

「0011,100 00 011 00100?」と

曲名を口にして、炎家に響き過ぎない、

静かなアルペジオから演奏を開き始めた。




「キミはいつもぼくの道を照らす明かり


 ぼくもそうだったらなぁって


 だからしっかり世界を見て強くなりたい


 いつかキミと同じ速さで歩く為に


 そしたらネヴァランドに立ち寄れるかもしれないね


 そんな時には星々が ぼくの言葉を


 キミへと繋いでくれるだろう


 るぅしぃ オライオンが見えているかい?

 るぅしぃ オライオンが見えているかい?

 るぅしぃ オライオンが見えているかい?




 キミはいつもぼくの心の傷の絆創膏ばんそうこう


 ぼくもそうだったらなぁって


 だから世界を知っても弱さを受け入れるよ


 いつかキミの見ている世界が覗ける様に

 

 それでネヴァランドから追い出されても気にもしない


 そんな時には星々が ぼくの言葉を


 キミへと繋いでくれるだろう


 るぅしぃ オライオンが見えているかい?

 るぅしぃ オライオンが見えているかい?

 るぅしぃ オライオンが見えているかい?




 ぼくらは微かに離れるけれど


 おまじないでひとつになれる


 喜びで明日を迎えよう

 怒りで昨日を振り返るのは止そう

 哀しみは共に分かち合おう 

 楽しんで今を生きよう


 目には見えなくても


 ぼくはキミのくれた温もりを 忘れない」




 最後もアルペジオで静かに閉じていくと、

たった一人のお客様が安楽を込めた様な拍手を下さった。

薔薇もよく応えてくれて、学校デスペラードに通っていた頃、

それはほんのわずかな間だったけれど、

軽い対人恐怖や社会への諦観、承認欲求とを自己啓発の為に、

薔薇と街中の公園に立って歌っていた時分を思い出す。

様々な人々に聴いてもらう中で、

社会に折り合いをつけたいと、殻を破りたいと、風は思っていた。

褒めてもらう事もあれば、わずかなお金をいただく事もあった。


 しかしある日、学校の同級生に風の演奏を聴かれてしまい、

激しい嘲笑の中から「空気エア」の様に、

もう一つの異名が生まれる事となってしまう。

それは風の名前を逆さにした嫌な言葉、

「無駄な事を繰り返す奴」…………、


無駄ムダリフ」。


 今の風は「生きよう」としているが、

その頃の風はそんなたった四文字に

安々と屈して立ち上がれず、

薔薇に触れる事さえもできなくなってしまった。

そんな過去を振り払い、ヴィジュアライズを停止させて、

るぅさにお部屋の明かりを点けてもらった。


「風ちゃん、サヨナラなんて言わないわ。

これからは友だちとして、ほんのたまにで構わないから、

るぅさに元気な顔を見せて? るぅさを……、忘れないでね?」


「…………もしも輪廻転生があるなら、

次の人生にだって、風にるぅさは欠かせない存在だよ?」


「風ちゃん? 風ちゃんは大丈夫。

風ちゃんが褒めてくれた力で、るぅさは多少の間だけれど、

ずっと風ちゃんを見てきたわ。

今0011・011は、貴方の介助に対して「深い尊さ」を贈りたい。

風・1100、有難う」


「救ってもらったのは風の方だけど……、

堂々巡りになってしまうから……、

こちらこそ、短い間でしたが、本当に、有難う御座居ました!」

 

 それが風達の仕事関係のけじめ。

これからの風達は、本当の友だちだ。

しかし感字いっぱんじん全数字しょうがいしゃの、

けじめも付けなくてはいけない。

人それぞれに使っている物差しも歩いて行く速さも異なっている様に、

そこに心を砕けなくては、

感字と全数字の壁は想像以上に厚い事だけは、

るぅさとの日々で、痛い程身に染み込んでいる。

彼女の言葉を裏切らない風でい続けるためにも、

一人のるぅさという女性に対して、

一本の「白薔薇ホワイトローズ」に対して、

もう安々と意志を折られ殺されるだけの自分自身と決別し、








オライオンの様に、刹那を輝いてみせると決意した。



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それはげんじつのこと?

歌・作詞・作曲 AIR

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