第109話~同じ星を見上げる時に~「Another Orion」
2016年十二月二十四日土曜日赤口。
クリスマス・イヴ。
菜楽荘のベランダで、
僕達夫婦は腰を降ろして、
二人で、ひとつの同じマフラーを巻いて、
きっと同じ夜空を仰いでいます。
捧華は二十七日に帰省の予定。
魂の双子達は、
地球上にいるのかすらしれません。
………………
…………
……
「ホワイトクリスマスとは行きませんが、
夜空が澄み切って、オリオンが綺麗ですね」
「くくく♪
なにを隠そう私は、
貴方という傲慢なオリオンを刺し殺す為に生まれた。
サソリの女なのだ♪」
「アルテミス様とはいかないんだ……。
うん。でもいいよ。それでも」
「私に殺されちゃうんだよ?」
「君に殺されるなら本望の内さ。
なんてったって大切な命まで奪いに来てくれるんだからね」
「ちっ、つまんねーの♪」
「僕の第四の壁は、
元々君と居る為に発現させてある力ですからね。
無限に身を委ねたら、君と居るせかい、
君が傍に居ないせかい、
君と出逢う事さえできないせかいも、
森羅万象がことごとく観測していらっしゃるはずです」
「私達は、二人で一人だよ?」
「はい。
最高のクリスマスプレゼントが、
今年はふたつももらえました」
っ
「ん…………、ぁ……私の何処が好き?」
「全部。
……と言っても君には満足してもらえないだろうから、
そうだねぇ……、
僕をこんなに魅了したくせに、
ちっとも応えてくれない、つれないところかしら」
「ふふ♪ そおぅ~お♡」
「世界が並行してさえあっても、
君と出逢えないせかいだけはご免だな……」
「だから私達は二人で一人、一人で二人なんだよ」
「そうだね。
君の編んでくれたこのマフラー、
とっても温かいよ。
僕が冬を愛する理由そのものです」
「冬を愛する理由そのもの?」
「はい」
「なぁにそれ?」
「それは……、
あたたかいもののあたたかさが、
より一層大切に想える季節だからです」
「うへぇっ、気障だねぇ♪」
………………
…………
……
その音色を受けて、
僕はまたオリオンを仰いだ。
例え君と離れる時が来たとしても、
生きているなら、地球上にいるなら、
それは僕らが生きている、
良い証です。
それからふと、
君が編んでくれたマフラーの、
アルファベット三文字に目をやり、
愛おしくなぞり、
寒さの有難さ、
温もりの有難さに、
心地は沁み入ったので御座居ます。
ぼくらのイニシャルははずかしがりや
Shinya Hayami Yukiko.
どうかしあわせなクリスマスを
歌 藤井フミヤ 作詞 藤井フミヤ 作曲 増本直樹