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XO!i  作者: 恋刀 皆
110/164

第107話「Payphone」

 2016年四月二十二日金曜日赤口。

普通学園保健室午前九時頃。




 およそ穀雨の初候。




その名の通り、


本日はたくさんの作物へ恵みの雨が、


昨夜から降っています。


しかし、天気予報では、


お昼頃には止むそうです。


 あたし達は今広大とは言えずとも、

広く白い清潔な保健室に遅刻者なしで、


登校しています。


菜楽荘のお家が一体何個入るんだろ……?


………………

…………

……


「あのでけぇ6の形をしたCTみたいなのが

ラプラスの魔か?」


「そうでもあるがそうでもない、

ラプラスの魔は和歌市のあらゆる場所に、

その形を、大きくも小さくも変えて存在している」


 えぼしーと雁野先生です。

ちなみに登校して「おはよう、えぼしー♪」と、

爽やかにねじこんだら、

しぶしぶ、

「……早水にはでっけぇ借り作っちまったからな。

まぁ許容範囲だ。そんでいいわ」

受容してもらえました。


 先ずは早速ですが、

血液から各人のDNA採取を行い、


それから、


一人ずつラプラスの魔に全身をスキャン? ……され、


お昼を迎える前に全員の測定と検査は終了し、


「みんなお疲れ。

結果の知らせと各々の面談は、

来週の火曜日に行う。

昼食は当然あるぞ。

おまえらは大体みんな大人しい。

他のクラスも出来のいい奴らが多いが、

オイラはおまえらを贔屓するさ。

eとEもわだかまりは少ないようだし、

昼食はいつもの自習室で一緒に食え。

同じ釜の飯ってーのはいー言葉だ。

だが馴れ合うんではなく。

触れるか触れないかの距離で、よく研磨しあってくれ」


 ……そ、そうです。

あたし疑問があるんです。


その空気が伝わったのか、


「どーした早水?」


雁野先生からの心配り。


「はい。普通学園が広大だからとは理解しているんですが、

例えば『a』や『A』、『b』や『B』のクラスの方々と、

全くお会いした事がないのですが、

それはどうしてでしょう?」


「全くではねーと思うぞ早水?

普通学園が広大である事はそーだが、

人とすれ違ったりした事は、何度でもあるだろ?」


……は、


「はい……」


「早水? この学園の「自由」な校風はな?

好き勝手にやれって意味じゃねーぞ。

個別に与えられた限定的な自由を、

生かし活かして、友だちや仲間、果ては組織に、

意識的、あるいは無意識的にさえ寄与せよという意味合いが強い。

個人を尊重はするが、一隅を照らせ。

他のクラスには他のクラスのやり方ってもんがある」


 勘違いをする前に、

全員に伝えておくがな?


と、


そこから雁野先生のお言葉は、

益々神妙になります。


「地球上のあらゆるものに「神の気」、

神気エネルギー」は宿っている。

誰にでも条件が整えば、

地球上の、あらゆる神々や悪魔の力を引き出す事が可能になる。

つまり、おまえ達の異能は、本来異能でさえない。

引き出す為の、可能性のフィルターを、

解放できていない人間が多いだけだ。

例えるなら四神にせよ四凶にせよ、

重複した能力者に遭遇するといった例が、

和歌市にはいくらでもある。

過信はするな、自信は持て」


 雁野先生のお言葉を整理しなくては……、


一隅を照らす事を常に心掛ける。

戦う事は先ずは避けたいですが、

もしも戦わなければならなくなった時、

決して相手の実力を軽んじてはいけないという事。


 それから周りを見渡しても、

もう動じる皆さんではありませんでした。

まだ四月だというのに、

たくさんの事を学ばせて頂いています。




「じゃーメシだ」




………………

…………

……




 eとEのクラスメイト達でお食事です♪

雁野先生と川瀬先生はいらっしゃいません。




「いただきます」

お食事の中で、

特に眼を引くのは、あじの開きにきんぴらごぼう♪

このごぼうさんは、きっと新ごぼうだ。

柔らかくて食べやすい♪ よく噛んでよく噛んで……、

「ごちそうさまでした」




………………

…………

……




 今日はもう帰っていいそうですが、

皆さん食後からかのんびりとしてます。




そうだ♪




「ねぇせーこー? 野球部? ……の敵情視察どうだった?」


「なんだ早水? 三尾にもあだ名つけてたのか?

「正公」で「せーこー」か。

せーこー?

俺は恵喜、烏帽子で「えぼしー」らしい……。

んじゃせーこー? 報告頼むわ。

多分俺と変わんねぇだろうけどな」


……えぼしーと変わらない……?


「恵喜烏帽子は「えぼしー」か。

いいよホント学園ここは♪」


 ふたりの快活さは緩やかに緊張していく、


そして、


せーこーは発言、


「知らない人がいるかもしれないから一応、

この学園に「部活動」や「同好会」の様なものはありません。

同志がそれぞれに一所懸命に楽しんで、

そのスポーツや文化活動に集まっているだけです」


……え? でもそれじゃあ?


「せーこー? 本試合の応援や甲子園なんかはどうなるの?」


「あのなぁ早水? わいさ達が甲子園目指せる訳ないだろ?

その代わりに和歌市独自の野球大会が開かれるんだ。

硬式軟式異能有り無しの多種多様な大会がな」


「やっぱそれも夏なのか?」とえぼしー。


「ああ、特に野球は、

夏の祭りの一大イベントのひとつなんだとさ」


「それで野球をしている者らの実力はどうだったのだ三尾よ?」


こちらの発言は神守森……さん。


「結論から、

誤解を恐れずに伝えると、

今のわいさ達じゃ比較にすらしてはいけませんね。

真面目に野球に対して向き合ってきた人達ばかりです。

練習を見ただけでも、それぞれの雰囲気や存在感が半端じゃないです」


「わがはいもマネージャーの眼鏡女子から、

「これでも試合しますか?」って強気な態度で迫られたぞ♪」


今日は男性なんですね一途尾……くん?


「一人称は申します。

それでは今年の夏までに練習試合を組んでいただく事は、

かなり難しい状況ですね、と」


杏莉子は続けて、

「そして、おそらく……、」


「ああ……サッカーも似た様なもんだ。

女子が異能なしでマークされて、

肉体フィジカルであたられたら、

それだけでやべぇな。

せめてある程度のパス回しが当たり前にできねぇと、

俺の後ろに神守森が居てくれても、

今は守り切れねぇな」


 沈黙が場を支配します。

それでも、

重くはありません。


「そうですよ! 「今は」ですよ!

学園生活は始まったばかりです!

先ず各スポーツのマネージャーさんに認めてもらうまでを、

短期的な目標にして、皆さんで頑張りましょう!」


あたしに呼応して、


「弱い者を虐めるより余程健全ではありませんか。

あたくしもあたくしを高めてゆきます」


清夜花さんの鼓舞がなにより嬉しいですっ♪


「此方もたくさんケーキを食べれる様に、

たくさん運動して脂肪を燃やす」


みこと? そこはせめて闘志を燃やす、だよ?」


天休さんから神咲さんの突っ込みの流れに、


一番に、おそらく思考が聴こえていた誠悟さんが吹き出して、


次に「ちちちち★」と祷から、


クラスメイトの皆さんがからからとしばらく笑いが連鎖しました……、




が、ふと見てしまう皇さんだけは、

そこへ混ざり笑ってはくれませんでした……。

あたしの形容し難い重い想いが、




哀しみがおりのように沈んでゆく……。




 しかし、その事とは裏腹に、




………………

…………

……




外にはいつの間にやら陽が差していました。




皆さんだってこれからのお時間があるはずです。

今の内に尋ねておかないといけない質問を、

あたしはできるだけ丁寧に投じます。


「あの皆さん……、

あたしって今まで母に髪を切ってもらった事しかないので、

理容室も美容室も行った事がないんです。

どなたかおススメの場所を教えてもらえませんか?」


「早水のお母さん凄いな。

わいさは男だから理容室……床屋だな。

髭も多少生えてきたからなおさらな。

男性は理容室で女性は美容室という印象だ。

美容室は髭やお肌の産毛は剃ってもらえないだろ?

確か法律上で?」


とそこに、


「一人称は申します。

現在の美容所は法律が変わり、

女性の顔剃りなら可能です、と」


杏莉子の言葉に誠悟さんが入る、


「つまり髭は法律上ダメなんですね。

吾は髭を剃っていただくのと、

あの適度な温度のタオルを、

顔にのせられるのはたまらなく好きでして、

本来外出は嫌いなのですが、

床屋にはその愉しみがあります」


 あーわかるわかる♪


的な、


一部の男性陣の一体感を覚えながら、


え? え? つまりあたしは女性ですから美容室に行けばいいの?

それでもなんだか誠悟さんの言葉には理容室の魅力を感じる。


「捧華さん、

貴女に丁度いいお店を紹介しましょう。

今日この後時間があるなら、

あたくしもそろそろ、

変わりつつある髪型と髪質の教えを、

そこで近々に受けるつもりでしたから。

どうかしら?」


清夜花さんがあたしを誘ってくれている?

これはもう……!




行くっきゃない♪




「はい! 清夜花さん、喜んで♪」




その後少ししてから、皆さんと解散しました。




………………

…………

……




 あたしは今、弥那町の公衆電話から、

菜楽荘、お家へ電話しています。

清夜花さんに待ってもらっているのですから、

お金も掛かるし、テキパキと終わらせないと!




 三回目の呼び出し音で、

お母さんが出てくれました。


「はい、早水です」


「お母さん、捧華だよ」


「捧華どうした? なにか急いでるの?」


お母さんはお父さんと違って察しがいい。


「うん。あたし今日理美容室デビューで、

お店を紹介してくれる人を待たせてるの」


「人って、男の子か?」


「素敵な女性って意味」


「なら、安心した。

学園に行く前の約束は守ってくれたから、

コンちゃんとポップちゃんの誕生日の時の「警告」は解いてやる。

お店でいただくレシートは取っておいて、

夏休みには帰ってきて見せてくれよ。

捧華は私に似たんだから、

おめかしすりゃそれなりなんだよ」


「お父さんはお母さんは世界一の美人って言ってるけど?」


「奴は目も頭もオカシイから……、」


さぁ、どうぞ♪


「私が居て上げないとダメなんだよっ」


お決まりの台詞でござい♪


………………

…………

……


「清夜花さん、待たせてすみません」


「いいえ。

では行きましょう」


清夜花さんと二人で出掛けられる日が、

こんなに早く来るなんて。

すぐに話し掛けられる話題が思いつかなくて、

三分程目的地まで無言が続きました。


先に沈黙を破ったのは、


「ねぇ捧華さん?

もしよかったらあたくしにも愛称を考えてくれないかしら?」


 清夜花さんからのなんとも魅惑的な願いでした。

しかしあたしは戸惑います。

本当に清夜花さんに何があったんでしょう。

突き離されたと思ったら、こんなにも、引き寄せられる。


「……そう、伝わっていたわよね。

あたくしはね?

学園に来るまで、貴女が嫌い……いいえ、憎んでいたの」


 ……やっぱり、

しかし……憎悪まで向けられているとまでは気付けませんでした。


「あたしがあの日公園で、

清夜花さん達に、何か無礼を働いたからでしょうか?」


彼女は首をやんわり横に振る。


「違うわ。原因の発火は、貴女への嫉妬。

そこから「全否定にくしみ」だけの「空」を

あたくし自身が勝手に勘違いを起こして、苦しんでいただけ。

分かっていたとは思うけれど、

貴女と向き合う事を、

意識的に避けてきてたのよ」




 それでも今は、と彼女の声音は凛と鳴る。




「それを受容した上で、世界を「全肯定いつくしみ」したい、

様々なもの達に、近付き五感で触れ合い覚えたいの。

あたくしは学園に来てから遠くからは、ずっと貴女を見ていた。

だから貴女があたくしを受容してくれる人だと知ってる。

さやかなんて勿体無い、ズルい人間なの、あたくしは」


 ねぇ……お父さん? やっぱり人は「わかりあえない」方が、

幸せを感じやすいのかもしれないね。

あたし、清夜花さんの仰っている意味がほとんど分からない。

分からないのに、あたし今自分が自然な笑顔してるって分かるんだよ。




 だから……こそ、真剣にもなる。




「あたしは清夜花さんの事、清夜花って呼びたい。

そして、あたしも捧華って呼んでもらいたい。

…………ダメ?」


お互いにしばらく立ち止まって見つめ合い沈黙する。

目は逸らさない。

見てもらうんだ。

この清か夜の一輪の美しい花に。

あたしの君へと捧ぐ華を。




一秒が永いとさえ思える緊張感…………、気が遠くなる。




 ふたたび、


動き始めたのも、


また彼女でした。


あたしは何処かしらの精神的倦怠がどっと押し寄せ、


歩き出した彼女の背中を見送るしかない。




 そんなあたしを呼ぶ彼女、




「どうしたの? 行くわよ捧華?」




鼓膜を震わす言葉ひとつで疲労も吹き飛び気力を取り戻します!




「うん! 今行くよ清夜花」




 今日という一日はまだまだ終わらない。




これよりのせんせいは清夜花。








目的地は理美容室「………… ……」で御座居ます。



 あなたはすみれ

あたしはたんぽぽ

はなばなのしゅぞくたち

Song Tribe

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