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XO!i  作者: 恋刀 皆
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第106話「Know Your Enemy」

 2016年四月二十一日木曜日大安。




マラニックまで、あたしは祷と一言も話せなかった。


しかし、マラニックが始まり、


共に2km程に差し掛かろうという時、




「捧華? 昨日は感情的になってすまんかったち」




 祷が頭を下げてきた。

ただ今はわずかな事情を知ってしまっているから、

祷のその行為はあたしをより切なくさせるものでしかなかった……。


「ううん。いいよ祷。あたし気にしてない。

女の子は体調も精神衛生管理も、

男の子よりずっと大変なんだぞって、

お母さんが言ってたし、

あたしみたいなガサツな女子だって、

毎日ご機嫌だなんていきっこない」


「ちち♪

わちの友は、心が広い♪」



 じゃが……聞いていいか?

祷の声音は曇っている。

だからこそ……、



「うん♪ もちろん」


あたしは明るく努めた。


「み……御門の奴とはどんな話をしたち?」


 正直に答える訳にはいきにくい。

恵喜烏帽子氏の胸いっぱいの祷への想い。

彼がまだ独りで祷の為に能力ちからを行使している事。

力を持つ組織に恵喜烏帽子氏には監視がついている事。



 ここは大事な局面です。



あたしは自然な笑みをこぼした風に、

仮面をかぶってみせる。


「えぼしーには祷がとっても大切な女性なんだってさ。

だからよく一緒に居るあたしがどんな人間か確かめたかったみたい」


「……え、えぼしーじゃと? それは御門のあだ名か?」


 即席にしてはよく思いつくなあたし。

えぼしー……ちょっと気持ち悪さもあるけれど。


「そ、あたし達はもう友だちになったんだよ。

お互いがお互いに友だちとしての興味しかないって分かってるからね♪」


そしてね、と続けるあたし。


「祷を大切にしてくれるなら、

早水も「ついでに」大切にしてやるってさ?

祷、大切にされてんのね?」


 するとみるみる内に、

祷とのペースが離れてゆく。

あたしは間違っていたのかもしれない。

話し過ぎたのかもしれない。

だけど、祷も辛かったに決まってるけれど、

あたしはえぼしーが……、……辛過ぎるよ。


発言に後悔を覚えても、もう取り返せない。


 祷? あたし立ち止まらないよ。


 あたしは一度だけ振り返り、

祷の表情までは確かめられなかったけれど、

堪りかねたかに祷は自身を抱きしめて、

唇がほんの少し、

気の所為かもしれないけど、




「馬鹿者め……」と、




動いた気がした。




………………

…………

……




到着し、お昼を皆さんで摂り。




感謝。




 それから、フィールドアスレチックをまわり、


各人終えストレッチをし、


杏莉子の出した、これからのミーティングが行われます。


「一人称は申します。

現在一人称が必要としている人材の件を、と。

一人目は、

あたしの思考を理解し、

誤りがあれば訂正を、

より好い案があれば、それを提案してくれる人物。

二人目は、

「俯瞰」から他者とのコミュニケーション能力を、

あえて塞いでいる一人称とは違う。

だれもが話しかけやすく、

皆さんのスケジュール管理を正確に把握し、

なおかつ一人称に対しても、

親しくしてくれていて、

「ほうれんそう」のできる人物。

そして、この以上二名は女性である事を望んでいます。

あとは、もう二名、

こちらは、男性側の視点で一人称に、

相談や提案をしてくれる人二名。

一人称との計画Aを共に行って下さる方は、

どうか挙手をお願いします」


 早速挙手されたのは清夜花さんです。


「歌坂さんとなら喜んでご一緒させてもらいますわ。

貴女の「俯瞰」を貫く姿勢は美しいですし、

人間が本当に「主観」から自由になれるかの考察にもなる。

ですから、あたくしにとっても有益なものになると判断しました。

あたくしは遠慮はしませんよ?」


ふたりは以前の「読書会」の様に数瞬、

視線を交わし合いますが、

烈しいものではなく、

認め合う者同士のお互いへの関心へと変わってみえます。


「姫がお入りになるのであれば、

それがしも男性の視点でお力になりとう御座居ます!」


即座に清夜花さんが、


「虎頼さん、「姫」はよしてください。

あたくしにはその様な言葉は勿体無い」


「……で、ですが、それがしには……」


戸惑う流天氏に、

もの柔らかな声音の清夜花さん。


「皆が動き始め変わろうとしているのです。

「仲間」へと。

貴方らしくで構いませんが、

いずれはあたくしの、

貴方へ何れ程感謝しているかを分かって欲しいと想っています」


お変わりに……いえ、変わった、彼女、清夜花さんは、大きく。


 そこへ絶妙に挙手するのは誠悟氏。


「問題ないでしょうが万が一。

吾が入れば不誠実は皆しにくいでしょう。

宜しければ吾にも参加させてください」


確かに誠悟氏以上の見張り役はいませんね♪

そんなあたしにウィンクする誠悟氏。

やりやすくてやりにくい……確かに。


 その後に杏莉子は告げる。


「後は連結調整役の女性一名です。

どなたかいませんか?」


途端にせーこーとえぼしー。


「いや、一人しかいねぇだろ?」


「うん恵喜烏帽子、わいさもそう思う」


二人の視線の先を皆さんが追って、


その向こうには…………、




あたしが居ました。




………………

…………

……




 杏莉子の提案も無事に終了し、

解散の雰囲気流れる矢先、




雁野先生がいつの間にかいらっしゃいました。




 あたしは内心驚きはするものの、

もう一同で、

明らに動揺をしている人は居ません。


「大分よさそーだな。

おまえら全体の事を言ってんだぜ?

特に早水は運にも恵まれているよーだな?

おまえらの為に、

精魂込めた歌坂からのトレーニング表ももらってオイラちゃん満足だ。

皇? 開いてくれてサンキュ」


「いえ、こちらこそです雁野先生。

恵喜烏帽子さんや神守森さんの提案が、

小生を開いてくれました。

門に選ばれてからは、初めて家の中以外を、

楽しい場所に思える様にさえ、なってきましたよ」


いつもよりほんの幾分感情に起伏を感じられる皇氏。


「おまえがそー言ってくれんなら教師冥利に尽きるぜ」


 そこから鮮明に空気は重く変わり、

雁野先生の声音も低くなる。


「おまえらは順調だ。

おそらくeもEも、

門……【虚鏡門こきょうもん】の在り処を教え、

合同で夢降る森へ入るのは、七月の中旬頃になると推定されている」


…………、虚鏡門、

いや! でも今は絶対に聴いておかなければならない事がある!


「雁野先生? 

うちの両親が、近い内に夢降る森にお伺いする事になってて、

あたし……どんな事でもいいですから、

森の情報がひとつでも多く知っておきたいんです!」


まー落ち着け、

そう平板に先生は、

あたしを冷やします。


「その事はオイラも知ってるし、

オイラも川瀬先生も付き添い人になる。

だから心配するな」


 それにな、


とさらに、


「早水の親父さんはオイラと同じ0Linerだし、

母上との久遠之焔くおんのほむらもある。

単純に肉体や精神が強い弱いではなく、

おまえら全員と森に入る時よりは、

比べられない程楽な道程さ」


 雁野先生も0Liner?

お父さんも雁野先生ぐらいに強いって事?

それはどう考えてもそうは思えないから、

あたしはさらに尋ねてしまう。


「雁野先生? 

0Linerとは、どういう人の事を指すのでしょうか?」


雁野先生にしては珍しく言葉に詰まった感じで、

悩んでいらっしゃる……。


「……まぁ、中二病みたいなもんだが……と一言で表したいが、

そうだな特徴をひとつだけ教えておいてやるとだな?」


「はいっ」


「0Linerはなねー、ねねーのさ」


 これ以上は他の生徒にも迷惑が掛かると、

厳然と突き放され、

あたしも諦めましたし、

希望を得られる解答を少しでも得られたのだから、

良しとしなきゃ。


「じゃーオイラちゃんいくわ。

最後にひとつだけ。

本当に怖いのは、

神でも仏でも悪魔でも妖怪でも自然でも科学でもねー。

人間の最大の敵は、同じ人間だ。

これは単純で難解だが、

自分が何と戦っているか?

自分が何を敵とすべきか?

そこに明確な答えが出るまでは、

ただ戦うだけってのは苦しいぞ。

よく考えといてくれ?

今日もお疲れ。

明日ちゃんと学校来いよ?」




そして、本日の計画Aは解散しました。




………………

…………

……




 同日午後九時半頃、早水 捧華自室にて。




……あたしが何と戦っているか、か……。




むしろ、


あたしは戦っているのでしょうか?


菜楽荘であたしがテレビというものに初めて触れた時に、

お父さんが教えてくれた事は、今でも覚えている。


……捧華……テレビというのは娯楽だけで済めば……

……楽しむだけでいいかもしれない……

……しかし……

……これは僕も倖子君も魂の双子達もみんなそうだが……

……人間は自分が優位に立つ為に……

……思想誘導というものを行う……

……テレビにしてもネットにしてもそう……

……全てが思想誘導なのだから仕方ないと言ってしまえば……

……それを言っちゃあおしまいよ、だけどね……

……僕は捧華に全てが思想誘導の中にあってさえ……

……なにひとつ後悔のない思想を抱いて生きていってほしいんだ……

……被害者になった時加害者になった時……

……その事をよくよく覚悟しておくんだ……

……全ては物事の見方で全ては捧華の味方さ……

……食物の連鎖の一部の覚悟を持てば……

……敵は自身の中にこそ在る……

……他者がどう言ったどうしたで動くのではなく……

……常に徹底的に自分で考えて生きられるといいですね……


そこに至ると心は落ち着いていた。




 そうか……、




今の、今も、あたしの戦うべき敵は、




誰かに脅かされてきたものじゃない……。




あたし自身から生まれ出る死への恐怖。








あたしはあたしの敵のひとつを見つけた。



 しんじるしんじないはじぶんできめて

どこまでいってもあなたはあなた

なににたちむかうの?

Song Rage Against The Machine

Lyrics/Music COMMERFORD TIMOTHY/DE LA ROCHA ZACK M/MORELLO TOM

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