第104話「Sappy or Verse Chorus Verse」
2016年四月十九日火曜日先負、朝。
本日の計画Aの活動内容は、
各自の肉体の休養に、重きを置かれています。
昨日のマラニック解散の前に杏莉子からは、
「一人称が責任者ではありますが、
全てを背負いきれぬかもしれない不安を、
現在一人称はわずかに抱えています。
四月十九日火曜日から水曜日に掛けて、
一人称は計画に対する問題の分析と精査からの解に、
時間を費やします。
その……、
その上で、
有志の方に手伝ってもらいたいと願っています」
杏莉子も恵喜烏帽子氏、神守森氏、皇様のお言葉に対して、
戸惑いがある事をなんとなく感じとれます。
あたしも一緒だよ杏莉子? 揺れてる……揺さぶられてる。
それでも良かった♪
いつもお姉さんの杏莉子に、
あたしでも何かできる事があるかもしれないって事が♪
途端に澄んだ声音が……、
「歌坂 杏莉子さん、大役お疲れ様。
あたくしは安心しましてよ?
あたくしにできる事があるのなら、遠慮なく言ってください」
清夜花さん……です……。
意外というべきか……元通りというべきか……、
……いえ、違う、明らかに違う。
清夜花さんはまた一段と美しくなられたんだわ。
あたしはまた、まだまだ清夜花さんには及ばないと思い知らされる。
それでも、お声が心に沁み渡り、
あたしとっても嬉しいんです♪
これでこそ、星野 清夜花さんだと。
………………
…………
……
木曜日の「マラニック」での、
杏莉子の指示を待つ間は、
つまり肉体の休養が主。
しかし、
精神や心で、
大切な事は、
当然行わなければなりません。
今日という一日をどう有意義に過ごすか、頭を働かせます。
お父さん達の事は今心配しても仕方がない。
そこで二番目に気掛かりな事。
永遠払いで過ごした読書会の事でした。
あたしは必ず支払う為に、
時に後退しても、きっと前に進み続ける。
だけど!
かいつまむと、お父さん達に、
一方的に支払ってもらうなんて、絶対嫌だ。
すると、見えてくるもの。
あたしも働かなくてはいけない!
そう思っても入学したばかりのあたしには、
選択肢がほとんどありません。
先ずは当たって砕けろで、ひとつずつ学んでいきましょう。
砕けても、また作り直せば、
それは確かな経験という財産になる。
その財産が、またひとつ、あたしを強くしてくれる。
菜楽荘のお家では、
ほとんどテレビは天気予報と災害情報が主で、
ネットもあまり興味がなかったから、
あたしはきっと、eとEのクラスの中で、
最も一般常識に疎いと思う。
働く事への心構えすら不確かです。
だからってやらない言い訳にはなりません。
お部屋を出てもダイニングは無人。
そう、
皆さんは、
あたし達は、
もう動き始めているのです。
………………
…………
……
自室のテレビで調べた天気予報では、
降水確率の極めて低い曇天の中、
今あたしの目の前には、
ライヴ喫茶、解輪が御座居ます。
時刻はまだ開店前。
気持ちを落ち着ける為に、
大切な鉢巻の日の丸を右手でさすり、
平常心を念頭に、
いざ、急な階段を上り、
「準備中」の扉をノックし、
店員さんに内側から開けていただくと、
まさかの人物が……、
………………
…………
……
なんとなく目をやる店内の店員さんの中には、
白いバンダナキャップの一途尾氏。
東側のレジ付近には、
「読書会」での店長と思しき人物と、
あと、
三尾氏です……。
「はっ、……早水!? 何しに此処へ?
もしかして、早水もアルバイト希望か?」
も?
そういえば三尾氏はアルバイトに迷っていらっしゃったな……。
「はい……。三尾氏は、もう決断されたのですね」
「ああ、此処以外ねぇってぐらい惹かれちまってる。
早水は様子見か? ダチだからって譲るつもりはないぞ」
ダチって……友だち?
三尾氏は、そこまであたしの事を気に掛けてくれていたんだ。
凄く……嬉しいっ!
そこに低音にしてよく通る声音が、
「ああ、早水くん、ようやく来たね。
店長の小津です。
早水くんの事は、ご兄姉から伺っているよ。
履歴書ももう受け取っている。
三尾くんの事も知っている事だし、
店の奥で、一緒に面接してしまおう」
コンお兄ちゃんとポップお姉ちゃんが?
あと……履歴書ってなんでしょう?
様々な疑問を抱いたまま。
今から面接と呼ばれるものを、
して頂ける運びとなりました。
………………
…………
……
店の厨房のさらに奥のささやかなお部屋に、
三尾氏と並んで座ると、
やはり三尾氏は逞しいお身体をしていると、感想を持ちます。
しかし、少し逞し過ぎて、
並んで座るには、小さなあたしにはやや窮屈でした。
「和歌市へ来て、
まだ日が浅く驚く事が多いであろう君達だから、
最初に、
憶えていて損は無い事を伝えておく。
――もしかしたらもう知っているかもしれないが、
ここは異能を持っていない人達の方が少数だ。
君達自身は、自分自身で学園生活を選んだつもりかもしれないが、
学園を、和歌市を知るという時点で、
大半の者が、学園やこの場所に必要があって喚ばれた者達なんだ。
その中には、異能が浄化され、
普通に門の外の日本での生活に戻れる者もいれば、
和歌市に骨を埋める者もいる。
つまり、君達は此処では普通って事だ」
「……やはり、そうですか……、
ですが、そんな事学園では一言も教えてもらえませんでした」
そう三尾氏が告げると、
「社会に出る事を選んだ君達への、
人生の先輩からの忠告とでも思ってくれればいい。
いつまでかは分からないが、
ここで働く事になった時、仕えてもらう者の身としてのね。
痛い目を見るのは、決して悪い事じゃないが、
分を弁えて、回避できるならより好い」
店長のお言葉をしっかりと受け止めてから、
「さぁ尋ねよう。
君達はこの店で何がしたい? 何ができる? 何を照らす?」
本格的な面接の始まりです。
………………
…………
……
「……ふむ、つまりおおよそは二人共が、
命に触れていられる場所。
音に触れていられる場所に居たくて、
なおかつ、
永遠払いに甘えていたくはないという所か」
小津店長は腕組みをしながら、
しばらくして、こう仰る。
「とりあえず先ず原則として、
アルバイトには絶対に厨房へは立たせない。
だから君達には、接客しか今のところは選択肢はない、」
と、ここで小津店長は愉しげな笑顔で間を置き、
次の言葉を仰る。
「が、だ。君達には音楽への興味がある。
そして、僕はこの店の長だ。
新たな才能を前にして、楽しくない訳がない。
三尾くんにはドラムを、
早水くんにはベースを、
それぞれ聴かせてもらいたい」
あたしにはまさかの展開、
……でしたし。
本当に人に聴いて頂く為の演奏って、
あたし、これが初めて……だな。
「君達の事を、よく聴かせてくれ」
そして、
初めての舞台へと上がる事となったのです。
………………
…………
……
はじめは、先に来ていた三尾氏から、
予めかどうかはわかりませんが、
お店の南側の舞台には、
ギターとベースとドラムセットが置かれていました。
これもコンお兄ちゃんとポップお姉ちゃんのお陰かしら……?
その間にお父さんの言葉を思い出しているあたし。
……捧華?……一番簡単な楽器は?……一番難しい楽器は?……
……そんな疑問があるけれど、僕はその質問は無意味だと思う人です……
……それこそ一番近い宇宙の果ては何処なの?……
……そんな質問に似ている……
……どんな楽器でも極めようとすれば何処まででも広がってゆく……
……初心者、中級者、上級者なんて言うけれど……
……僕の理解では上級者とは、ようやく地球外に出られた人物の事だよ……
……宇宙の果てなんて、きっと見えない……
……完成したと思ってしまえば、それはその演奏家の限界だ……
そんな事を思い出してる間に、
三尾氏はドラムの椅子に座り、
小津店長からスティックをお借りしていました。
それから小津店長は、ベースの様々な、
あたしではわからないセッティングをして、
「ウッドベースじゃなくてごめんね」と、
三尾氏へ前置きし、
弾き始めながら、
さも愉快に、
「さぁ♪ 三尾くんの好い時にスウィングしてくれ♪」
そして、結果の…………、
………………
…………
……
小津店長の最初の一声、
「三尾くんは、ドラムという楽器自体に、今日初めて触れた様だね」
三尾氏の表情は、先程から曇ったままです。
「はい……。すみません。
やはりそういう事は、伝わってしまうものなのでしょうか?」
「うん。三尾くんは、ドラムセットに対して、
何のチューニングもセッティングもしなかったからね。
後はリズムを聴いてしまえば、
弘法筆を選ばずでは無い事、
つまり筆を選んだ事さえない事はすぐにわかってしまうよ。
しかし、何れ程の練習を、
生ドラムに触れずに積んできたかを思うと、
三尾くんの演奏を高く評価する」
小津店長はそのお言葉だけで、
三尾氏とは切り上げて、
次は、
………………
…………
……
あたしです!
「早水くんの相棒がマニとすると……、
少し判断に迷うけれど、
ここはオルタナティブ・ロックと捉えさせてもらおうか」
小津店長は今度はベースをチューニングしてから、
ギターに持ち替えて、さらにギターをチューニング、
「ピックはそこら辺から、なんなら指弾きでも♪
セッティングはいじらなくていいからね♪」と仰り、
あたしにベースを、優しく丁寧な所作で貸して下さる。
あたしはベースのストラップを調整しながら、
……う……うん、……はい、なんとなく浮気している罪悪感とは、
こんなに居心地が悪くなるものなのかしらと、苦悩する。
……でも!
これからこういった機会は増えていく、
増やしていかねばならなくなるはず!
マニじゃないベースとの相性から来る不安や、
小津店長がどの様な曲を奏でられるかで、
頭は一杯になり、今はまだ待つと決めているのに、
“疾走”したい気持ちにさえ駆られる始末……。
「それでは、早水くんのグルーヴを、今度は楽しませてくれ♪」
小津店長はコードを鳴らし、
直後の歌声で初めて聴く歌曲と分かる。
ですがっ、
ロックならっ!
………………
…………
……
「……早水くんはロックを多少分かっているようだね。
そして、これも分かっていると思うけれど、
音楽をしっかり聴いている方達には、
その演奏ではまだまだ満足はして頂けないよ?」
……やはり、そうですよね……。
「いえ、ちょっと待って下さい。
早水? 今の曲知ってたのか?」
萎むあたしの上を、
三尾氏のお声が通過していくのを、
なんとか掴み取ります。
「……い……いえ、初めて拝聴しました。
小津店長の歌唱からも、
原曲を拝聴したいぐらい熱情がわく歌曲です」
三尾氏は続けて……、
「歌の一番は、なんとなく早水がブレて感じたけど、
二番以降、わいさは感動したぞ?」
「それは先程の歌曲が、
著しくロック、ヴァースとコーラスの形だと、
すぐに判断できたからです。
もしも、ウッドベースでジャズを弾きなさいだったり、
ロックと呼ばれていても、
プログレッシヴなものを、という事でしたら、
あたしは小津店長に、
演奏を最後まで続けて頂ける様な事はなかったでしょう」
「そゆこと♪」
小津店長の笑顔を見る限りは、
そこまで粗相を働かなかった自分を、
少しだけ褒めてあげようと思えました。
そして、楽器達や、
聴いていて下さった、
一途尾氏を含めた店員の皆さんへ、
深く三尾氏と御礼して、
ふたたび最初に通されたお部屋へと、
戻ったので御座居ます。
………………
…………
……
「結論から言おう。
うちに来て接客のアルバイトをしてもらうのは、三尾くんだ」
……そうですか、
……悔しい、結果です……、
それでも次に繋げる為には、
落ち込むだけじゃダメだ。
せめて……、
「小津店長? あたしは何処がダメでしたか?
もしも宜しければ理由をお聴かせ下さい」
「うん。短期的に見るなら、
早水くんの方が、本来なら雇いたいぐらいだ。
相手に礼儀を尽くしたい気持ちは伝わるし、
音も気に入ってる。
なにより、可愛い。とても好い人材だ」
お父さん以外の年上の人から初めて可愛いって言われて、
あたしは顔から火が出るという言葉の意味を体験する。
わちゃわちゃなっちゃう……!
「でもこの店の主、小津という人間は、
人が芽吹く瞬間に感電してしまう人間なんだ。
早水くんはもう芽吹き始めている。
そして、三尾くんはこれからがとても大事なんだよ?
なぜならドラムという楽器が、
とても簡単で、とても難しい楽器だからだ」
あたしはその意味はきっと理解できている……。
それは、お父さんとの思い出から……、
「ドラムは誰が鳴らしても
それなりにそれなりの音をかえしてくれるやさしい楽器だ。
けれど、
その音を鳴らしてくれる為の環境を整える事が、
とても難しい楽器だ」
やはり……そうですよね。
「普通学園の音楽室は充実しているから、
君達のメンバーの中で練習ができない楽器は、
おそらく無いとさえ言い切れる。
それでも音楽室から一歩出たら、
ピアニストなどもそうだが、
三尾くんには本物のドラムに触れられる機会がおそらく無いだろう?
みんなが自室や自然の中で音が出せても、
環境を作り出す時点で難易度が高いという楽器がある。
電子ドラムが買えたとしても、バスドラは特に響くしね」
選ばれた三尾氏は、
未だに表情が曇っています。
あたしがこんなに落ち込んでいるのですから、
選ばれた三尾氏の表情が明るくないと、
釈然としません……。
「つまり……わいさは、
小津店長のお情けで選ばれたのでしょうか?」
あ……、そんな事を思っていらっしゃったのですね。
「三尾 正公くん。
君がどう思おうが君の勝手だ。
だが、伝えたね?
短期的に見れば、早水くんだと。
つまり長期的に見れば、
君の方が僕には、
この店には有益だと判断しているという事を、忘れないでほしい」
「……わいさは短期的に考えても、
長期的に考えても、今の早水さんに及ぶ気がしません」
「落ち込む君はマイナスしちゃうぞ?
君の最大の武器は、本物を触れた事すらない演奏からさえ、
ひしひしと伝わってきたドラムへの熱意となにより親しみやすい人柄だ。
大いに感電させてもらえると期待しているんだよ♪」
それにね?
と、小津店長は付け加えて、
「ベースとドラムの技量を比べても特に意味はない。
同じドラムにしたって、明確なジャンルが違うドラムなら、
それにも意味がないとさえ思う。
この店の主は、三尾 正公のこれからの音に深く関わりたいのさ。
これで自信取り戻してもらえると良いけど?」
小津店長の本日の接客のアルバイトの面接は、
「早水くんはかたい。三尾くんはやわらかい。
打ち「解」けて、皆「輪」になる。
それが三尾くんを選んだ一番の理由で、
この店、解輪の最高の望みさ♪」
これにて終了致しました……、
………………
…………
……
が、
帰路は途中まで三尾氏とご一緒で、
今は普段通りに明るい三尾氏が告げてくれます。
「早水はやっぱり凄いな♪
小津店長がたまにベースで、
サポートのアルバイトに入って欲しいだってな♪
わいさが今日の演奏に感動したのは本当だぜ?」
あたしは少し俯いて照れながら、
小津店長と連絡先のメモを交換させて戴いて、
内心のほくほく感♪
……ですが、
「はい。三尾氏、正直とても嬉しいです。
しかし、お金をいただけるとなれば、
心を込めてお受けせねばなりません!」
すると途端に空気が変わった気がして、
あら? ……あたし、
何か間違った事を言ってしまったでしょうか?
「……あのよ早水、
それが小津店長の仰る、
早水の「かたさ」じゃないかな?
マラニックでの恵喜烏帽子の発言もあるけど、
わいさ達は同級生だし、
わいさは早水に一目置いているぞ。
玉藻前様の時からな?
それに……わいさは学園に来て、
初めて普通に人に受け入れてもらえる喜びを知った。
和歌市に来てから、
それまで狂い続けてきた凶の人生が、
初めて肯定されたんだ。
早水だって……そうじゃないのか?」
…………、三尾……くんの伝えたい、
否定されてきた過去を想える経験があたしには見当たらない。
それでもあたしの家族から伝えられている事を想うと、
ここは嘘をついてでも、頷かなくてはいけないのでしょうか……、
そんなあたしの長い逡巡を気にせずに、
三尾くんは言葉を続けた。
「わいさは正直もう門の外の世界に帰りたくないよ……。
あそこではわいさは場を乱し狂わせ、
忌避という忌避の連続の存在だった。
ここなら異能を持っている事そのものが普通の事なんだ。
ここに骨を埋めたくなる気持ちが理解できちまうんだよ……」
今のあたしにできる事は、
沈黙し、傾聴する事だけです。
多分この感情が「沈痛」と呼ばれるもの……、
しかし一転、
「っ……なっ……、なーんてなっ♪
悪い早水、今言った事は忘れてくれ」
それから、
「わいさはいつでもご機嫌さ♪」と、
三尾くんは言いました。
その直後に天から、
まるでしとしととした泣き声の様な、
雨が降って参りました。
………………
…………
……
雨の中傘を持たないあたし達、
今朝の自室のテレビで見た天気予報は、
本日は意地悪の様です。
傍らの三尾氏は、雨空を見上げて呆れ返り、
「春雨じゃ、濡れてまいろう……か、
ここは空まで優しいんだな」
そんな事を呟いています。
それも風情に感じているのかしら。
「あのよ早水?」
「はい」
三尾氏は立ち止まりまっすぐあたしを見て、
それに応えるあたしはドキッとしてしまう。
「わいさはたくさん夢を持っている。
「野球がしたい」「ジャズがしたい」「友だちが欲しい」……、
そんなたくさんある夢のひとつに、
ダチに「あだ名」で呼んでもらいたいってのがある。
早水が良ければ、わいさに「あだ名」をつけて、
「三尾氏」と「敬語」は、もう、やめてもらえませんか?」
最後の「やめてもらえませんか?」の声音から受ける、
切なく真摯なもの、
複雑過ぎて理解の及ばない自身の感情に戸惑いますが、
これは「友だち」からの「信頼」だと、
ついに覚えます。
だからこそ、
………………
…………
……
春雨の中、もう少しでふたりの道は別々になりそうな空気。
「三尾くんの名前って、
どういう想いから名付けられたの?」
内心では……おっかなびっくりの、
それでも、大切な質問。
「有難う早水。
親から直接聞いた事はないが、
わいさは、
「正しく広く通じゆきわたる公平さ」を持ちなさいって、
そう理解している。早水も教えてくれるか?」
あたしは迷いません。
「君へと捧ぐ華、それだけです」
「そうやって聴くと不思議な響きの早水の名前も、凛とするな」
ふと、
春雨に濡れたお互いの、
なんとも情けない顔を突き合わせて、
からからと笑い出す合間に、
雨は止み、
光の差し込む岐路へと着き、
「今日はここまでだな。
じゃあな早水」
ぶっきらぼうの中にもあたたかみ、
切っても切れないリズム隊二名。
これから大いに頼りにするであろう、
逞しい背中に、
「じゃあね、せーこーっ♪」
真っ赤に顔が染め上がる、
「あだ名」を告げるあたしに、
せーこーは振り向かず、一安心。
ただ左腕を少し高く上げて、
ひらひらと左手をスウィングさせて、
きっと意気投合を寄越します。
あたしは今日、
誰かの夢を叶えてあげられるという、
大役を仰せつかった喜びを、
愚かな程の詩句を一斉に言葉に発し、
日記へと書き連ねて、
眠りに就いたので御座居ます。
みらいはだれにもわからない
きぼう? ぜつぼう?
まずはめさきのもんだいからかたづけよう
Song Nirvana Lyrics/Music Kurt Cobain