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XO!i  作者: 恋刀 皆
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第101話~「マラニック」先頭~「献身」

 世陽緑地ぜひりょくちに、

先頭で走った、


俺、恵喜烏帽子 御門は、


ちっと、




イラついてる。




………………

…………

……




「神守森さん?

あんたはなんで、

俺に全力で応えてくれなかったんですか?」




 俺はやや息を切らしながら、

俺すらペースメーカーにする者へ問い詰める。


「われが人として在りたいが為だ。

恵喜烏帽子をおとしめるつもりは無かった、許せ」


 揺らぎのない強く厳かな声音が返ってくる。


相手が上位だと分かっていても、

だからこそ、俺は臨みたい。


「初めて名前読んでくれましたね。

貴方が普通の人間じゃないとは、

常に感じていましたが、貴方は……?」


「恵喜烏帽子はここまでの走りで、

われを観察し洞察し、

われとここまで走り抜いた者だからな。

われなりの礼儀だ。

だからこそ、その問いにも答えよう。

われは「魔人」だ」


 その言葉で瞬時に、

俺の感情の興奮ボルテージが上がるが、


 そこで、

ひと呼吸……、


遣り場の無い想いは……切り離して、

声音は冷えたものになる。


「学園も和歌市も明らかにおかしいですよね。

俺はここに来るまで、こんなに穏やかな奴じゃなかった。

ここに来るまでの俺なら、

即、あんたから逃げるか闘うかしかの判断しかありえねぇ」


 氷刃の鋭利さを込めた俺の声音にも、

神守森は、全く動じない。


「恵喜烏帽子よ。考えてもみよ。

一万年前の生物が、

門の外の日本現代社会でどう生きる。

一万年後の生物が、確か不確かもわからぬ歴史をどう見る。

おかしいと言ってしまえば、何処にでもその「異常」は入り込む。

われらは皆「特別」な「普通」の「異常者」だ。

故にこそ、普通学園に喚ばれたのだよ」


 「特別」な「普通」の「異常者」?

神守森の言っている意味が、よく……分からない……。


「俺は特別な異能を持ち、

異常な面も持ち合わせているかもしれないが、

俺自身を普通の人間だとは思ってない」


「それは恵喜烏帽子自身を、

他の者より、上位に置いているという事か?」


「あんたが今俺にしている様にな。

動物の本能のひとつの作用じゃねぇの?」


「うむ。われも自然と他を威圧してしまう。

ありながら、われと恵喜烏帽子の明確に異なる点は、

われはわれを「普通」の存在である事を弁えておる事だ」


「っ!? ……あんたが「普通」だと……?」


「われは夢降る森を、

わずかだが知っておるから、

恵喜烏帽子の身を案じて、分かりやすく伝えておこう。

われごときに圧倒され敬意を払っている様では、

万が一、森の奥に入らねばならなくなった時、

おまえは、確実に自己を保てなくなるぞ」


 われ…………ごとき、だと……?

ふと……、

三尾との会話が思い浮かぶ。


……なんのなんの。みなさん「普通」だぜ?……

……わいさも、もちろん恵喜烏帽子もな?……


 様々な疑問が錯綜して、

俺の心が徐々に押し潰されそうになる。


はたと気付くと全身が小刻みに震えてさえいる……。


根源はかつて抱いた事のない種類の、




動揺だ。




………………

…………

……




 われは恵喜烏帽子が落ち着くまで待つ。




それから緩やかに言葉を紡ぐ事を努める。


「恵喜烏帽子よ、おまえは本当は、

「普通」である事を直視せぬ様にしておるだけなのだろう?

永遠払いに異を挟まなかったのだからな」


「俺達……人類が無限の住人であると仮定したら、

俺は「普通」にもなれる事は分かっていますよ。

だが現実は違う。だから俺はその「普通」を認めない」


「「普通」の椅子は、

今の恵喜烏帽子には座り心地が悪いか」


「平たく言えばそうですね」


「良ければ恵喜烏帽子に答えて欲しい」


「神守森の俺への礼儀と、それに適う範囲でなら」


「そうだ。それで好い。

われらは同級生なのだからな。

恵喜烏帽子よ……、

おまえには、好いておる者、愛する者がおるか?」




 われの問いには恵喜烏帽子の、




微かに赤らめた顔と逸らす視線が、




答えてくれた。




………………

…………

……




 神守森が俺に本当に聴きたかった事は、

俺の想う「人の幸せ」について。




「……先ず、

俺には好きな女性ひとがいる。

彼女が居たからこそ、

俺は「女性」全体を泣かせたくないと思える様になれた。

だが、俺は彼女をある時裏切っちまった。

本当なら、彼女の傍に居たい。

ずっと、ずっと俺の傍で笑っていてもらいたい」


「われにも恵喜烏帽子の言いたい事は伝わるが、

眠っている夢ならともかく、

理想だけでは現実の夢は叶わぬぞ」


「だろぉな」


「われの考えでは、

種があり、萌芽し、花が咲く。

花はやがて衰えて枯れてゆき、

その過程でまた種ができる」


 神守森の、

自分自身にさえ言い聞かせるような語りの抑揚に、

神守森が何処に、

「人の幸せ」を尋ねているのか俺には分かる気がする。


「……惚れたからにゃあ、

惚れて惚れて惚れ抜いて、

枯れて潰えるその日まで、

愛する事を傍らに、寄り添い抜きてぇもんだ」


「ああ、全くその通りだな」


 会話はそこに着地し、

俺達は世陽緑地の集合場所へと、


歩き始め……、


………………

…………

……


 ……たが、


 神守森が俺の背後から、

俺の左肩を掴んでいて、俺は前に進めなかった。


「神守森……?」


「恵喜烏帽子よ、下を見てみよ」


 世陽緑地の集合場所までの、

緑豊かな地面には、

ところどころに白い小さな花が、

いくつか咲いていて、

俺の進もうとする足下にも、

その白く小さな花が咲き、大きな影を落としていた。


「神守森? 言いたい事は分かるが、

俺は、今日も明日もメシを食って生きていく。

潰した相手をいちいち思ってちゃ進めねぇだろ?」


「その花が誰かの大切な者だとしてもか?」


 またイラついちまうが、

認めている相手だからこそ、

今は耳を傾けてみる。


「有難う。

恵喜烏帽子の走りも歩みも、

われは心が痛む。

他者を思いやるのは、己を思いやってからでもいい。

しかし、他者を思いやれれば、己も愛される。

花には花の、人には人の“道”がある。

遠回りでもよい。舗装された、人の道をゆこう」


 ……「魔人」から人の“道”を説かれるたぁな……。

それがあんたに近付く『Legareきずな』なら、

今は従おうじゃねぇか。

全体を見渡す、

ゴールキーパーの指示なんだからよ?


………………

…………

……


 神守森と舗装された道すがら、

こんな事を聴いた。


俺の踏み潰してしまいそうになった、

白く小さな花の話だ。


 花の名は、「シロツメクサ」。


花言葉は…………、




「私を思って」「約束」




 嗚呼……、


そりゃあ、








護らなけりゃぁな。








守らなけりゃぁな。



 じんせいゆいいつのいみは

たしゃにけんしんすることです

するとこころがらくになります

作詞 山口あかり 作曲 徳久広司 編曲 薗広昭

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