第97話~「マラニック」最後尾~「Dreams」
登校前に、
登校前に、
「川瀬先生」達ご無事の、
「川瀬先生」達ご無事の、
知らせが入り、
知らせが入り、
此方達は、
此方人等は、
安堵した。
安心した。
「先生」達は、
「先生」達は、
あの深さでも大丈夫なのだと。
そして……、
………………
…………
……
てっきり、
てっきり、
四月十八日月曜日の「マラニック」を、
四月十八日月曜日の「マラニック」を、
ふたりきりで、
ふたりきりで、
世陽緑地まで、
世陽緑地まで、
いつも通り、
いつも通り、
歩く事になるのだと思っていた。
歩く事になるのだと思っていた。
………………
…………
……
それは此方の所為、
彼方は、
此方とは比較にならない程、
本当は運動神経が良い。
此方の傍に居なければ、
本当はずっと先を走れるんだ……。
……此方は嘘吐きだ。
彼方を「自由」にしてあげないのは、
此方自身じゃないか……。
此方の中に在る思い出には、
いつも空白の玉虫が大小ぽつぽつと穴を開けている。
彼方の“調和”が、
万能ではない証でもある。
此方が彼方を束縛してしまうのは、
此方がいつどうなるかすらわからない身の上だから。
「血」と強い「絆」がある人達、
血縁あるいは『四凶』『四罪』には、
此方は憶えていてもらえる。
此方が他人を「他人」と呼ぶのは、
森で此方が能力を必要とされ、
行使し続ける限り、
例えどんなに親しくなれたとしても、
此方には、結局「他人」なのだ。
年月を重ねてゆくにつれ、
混乱と戸惑いの中でさえ、
此方にも記憶は蓄積されてはゆく。
彼方のお陰で。
でも、
此方にはもう、
それはまるで、
賽の河原での石積みの様なものでしかない……。
それでも此方には、彼方が居てくれる。
「人」が支えあってできているのなら、
きっと、
左が此方で、右が彼方ね……。
彼方が居なければ、
此方はぺしゃんこ……。
いや……、
それよりもっと酷い事になるだろう。
………………
…………
……
「……ちゃん……んちゃん……、
……てんちゃんってば、聞こえてるか?」
その呼び掛けが此方へのものだと判断できるまでに、
少し……時間が掛かった。
「……「てんちゃん」とは……まさか此方の事でしょうか?」
クラスも違う、
名前すら憶えていない他人が、
話しかけて来ていたようだ。
此方に関わる事など、
他人には無意味なのに。
「うん♪ 「天休」じゃなげぇから、
どうにもわがはい呼びにくい。
「てんちゃん」って呼んでいいかな?」
既に呼んでいる事に苛立つが、
「他人のお好きな様に」
「そのかーしわがはいの事も「ぬこ」でいーよ♪」
あ……、ああ「いっとび ぬこ」とかいうふざけた名前は、
珍しく此方の中に残っていました。
しかし、
釘ではなく、
トゲは刺しておこうと思う。
「他人は見るからに、
お元気そうですが、
走ってはゆかれないのでしょうか?」
「おう♪ ありがとな!
わがはいはいつでもとびっきりだぜ♪」
此方は他人を褒めてない。
「ぬこ? 天休さんに失礼だぞ。
吾よりも天休さんの方が、
ずっと大変な身の上なんだ。
……天休さん、どうか、ご気分を悪くしないで下さい」
さとりか……、
……不愉快な能力だ。
聴こえているなら、入って来るな!
「それが可能ならば、吾もやっています」
「では此方らから距離を取ってください。
はっきり言って不愉快です」
冷淡な声音を努める。
そして思う……、
此方は今、
此方がされてきて、
とても辛かった事を、
さとりの他人にしているんだ。
ここで謝ったって無意味だ。
他人は、
さとりを理解できない人間より、
ずっと…………、
確実に、
辛い想い、
辛い痛みを抱えて生きてきた者なのだから……、
自分が何をしたか分からない事に謝罪する程、
罪深く、空虚なものはない。
そんな他人は、
何故か此方に微笑みを返し、
此方に手を差し出して、
「吾は、貴女と手を繋げます」
そう告げた。
少しだけ……、
ほんの、少しだけ……、
此方の視界は歪んで見えた。
どうせ忘れてしまうのに……。
………………
…………
……
此方人等は提案する。
さとりの誠悟さんと、
共に行動するのなら、
隠し事など無意味なのだから、
お互いの昏い部分を避けながら、
四人で世陽緑地を目指そうと。
それでも十分昼前には到着できると判断した。
その提案を終えた後、
何故か此方人等の事を、
一途尾さんは「かんちゃん」と呼んでいた。
彼女ほど、
此方人等は、感情の起伏が激しく無い為、
命とお揃いみたいだし、良しとした。
「神咲さん、有難う御座居ます」
お礼は誠悟さんから言われた。
不思議な気分になる。
誠悟さんと一途尾さんを見ていると、
此方人等もこんな風に、
他人から見えるのものなのかなと。
極端に言えば、
此方人等は一途尾さんで、
彼女が誠悟さんに見える。
「……神咲さん、鋭いですね。
吾もそう思っています。
吾の方が、ぬこに依存している部分は大きい。
こんなに居心地の好い心は、
生まれて初めての事なんです」
此方人等は思わず、
命の小さく柔らかな左手を、
ぎう、としてしまい、
か細く呟く、
「此方人等もそうなら良いのにな……」
………………
…………
……
名は体を表す。
なればこそ、
小さき吾は「誠」を尽くしてゆきたい。
「吾は有難い事に、
身体は健康なのですが、
さとりの所為で、長距離走はかなり厳しいのですよ」
天休さんも神咲さんも、
関心を下さる様だ。
有難い。
「さとりに苦しまずに生活する為には、
「穏やかさ」が必要なんです。
その為には激しい運動は、
なるべく避けたいのです。
だからこうして居心地の好い場所と、
ゆっくりと歩いてもらってる訳です。
吾がさとりでなかったとしても、
やはり吾はぬこが好きだと思うけれど、
ぬこへの依存心は、やはり悔しい……」
「話の核心が、
此方には分からないけれど……、
……他人のその気持ち、
此方も分かる。
此方……彼方が大切だから……、
よく……分かる。
悔しい……。くやしぃ……よ」
天休さんとの共感で、
場は望まざる程、
吾の言動から、
消沈したものになってしまう…………、
が、
………………
…………
……
「てんちゃんもかんちゃんも、これ飲みな?」
わがはいは、
解輪の店長から持たされた水筒と、
いくつもある、柄のついた紙コップふたつを抜き取り、
零さない様に気をつけながらジュースを注ぎ、
てんちゃんとかんちゃんに差し出した。
「うちの店長が、
今のおまえらには必要なものだって言ってたけど、
わがはいもなんとなく分かったよ。
いや……伝わった、かな?
うめぇからどうぞ♪」
店長から聞いた、
その果実の花言葉は、
「心痛を慰める」「心を癒す」
……諭よりも重たいもの背負っている奴らも、
学園には普通にいるんだな……。
わがはいはいつでも“天真爛漫”。
お味はどうだい、
てんちゃん? かんちゃん?
甘くて、
酸っぱくて、
渋い、
わがはい達そのものじゃないかな……?
わらってないて
たいせつなじかんをすごそう
ゆめをもちつづけて
Song/Lyrics/Music The Cranberries