西宮薫は挑発する。
僕には魔法の才能があるようだ。
というか『俺薫』の素質というべきか、とにかく、3回くらいの練習で魔法を巧みに操り、4日目の放課後にはフリンさんに匹敵するぐらいの魔法能力を身につけた。
「…ここまでくると、主人公の力とは想像を絶するのう…」
「自分でもびっくりですよ…けどなんか…魔法のノウハウというか、感覚的なものはどこかで感じた事があるんですよね…多分そのおかげかと」
「にしても、上達速すぎじゃ」
魔法の課題は難なくクリアした。
問題なのは戦闘技術、CQC的なものである。なんせ、戦闘など昔に数回しかやったことがないので、専門的な闘い方は初めてだった。
その闘い方には超能力を織り交ぜてある。
「………そこで『狂戦士』を活かせ!!なんのための肉体強化だ…!」
「…ッ!はい!…ーーーラァッ!」
「………まだまだ甘いな。そのような読みきられている蹴りはすぐに対処される」
魔法を一切使わずしてムーさんは僕をボコボコにした。
やはり強い。生身で強い。
僕がやられたのを区切りとし、今日の特訓は終了を迎えた。僕が地面にぶっ倒れて、体力を回復していた時にムーさんが質問してきた。
「………ところで薫、お前のもう1つの超能力ってなんなんだ?」
「…そーいえばそうですね。能力がわからなければ使いようがないですからね…」
これは明日達馬達に聞いてみよう。
多分知らないと思うけど。
「………あと、これは蓮から聞いたんだが。校内で『グラウディング』が結成され密かに活動をしているらしいぞ」
グラウディングとは、『オーバーロード』の手下のような組織で、主に学校内で結成される。組織は生徒達で構成され、指揮は『オーバーロード』から派遣された者や、教師という場合もある。
…厄介な事が起きそうだな。
「………蓮にも忠告してあるんだが、校内の超能力者が狙われるかも知れん。お前も、気を張っていてくれ」
「わかりました…勝てるかわかんないですけど…」
未だにムーさんに一撃も入れる事ができてないからなぁ…
ちなみに特訓4日目である。魔法は4日目で終了。
「大丈夫だ。俺には勝てないが、大抵の雑魚…人間には負けないだろう。なんせそこにお前の魔法も加わってくるんだしな」
時々口が悪くなるなぁムーさん。師匠の影響かな?
なんにせよ、この人が言うのだから間違いないだろう。
あの3人の中で一番信頼できるといってもいい。
実力もあるし、言う言葉も深い意味があると思う。
まぁ、思うだけだが。
「やっぱ…戦闘は起こりますよね…」
「………お前にその意思が無くとも、お前に危害を加えてくる連中がいる。お前の大事な人達にも危害を加えようとする連中がいる。そいつらを守るためにお前は今、力をつけているんだ。相手を殺すためじゃない」
少なからず戦闘では怪我をする。させる。場合によってはこの手で命を奪わなければならない。
アニメのように、ボコボコにして終了というわけにはいかない。
息の根を止めなければ、敵は何度も傷つける。
その事を頭に置いて、大事にしまって僕は特訓に臨んでいた。
「そうですね。ここで止まっててもしょうがないですね」
終わったはずなのだが、やる気が出てきたのでもう一度ムーさんに特訓をお願いした。
僕はまた、ボコボコにされるのであった。
家に帰る。
周りの環境が変わっても家は家だ。
両親はいないけど。
妹が急ぎ足で玄関まで迎えに来てくれる。
「お兄ちゃーん!お疲れーー!ご飯にする?お風呂にする?それとも…」
「気持ち悪いからそれ以上は言うな」
「そっか、じゃあとりあえずベットでゆっくり話そうか!」
「なぜそうなる!?自分の兄に対して性欲を向けるな!!」
妹になんか萌えんわ!!!!
エプロン姿を見るに、今夕飯を作ってくれていたらしい。…この前の夕飯時とは別人だ。
「そうかー…私には興味ないよね…こんな魅力の欠片もない身体には…」
なぜここでガッカリする。兄に何を思って欲しいんだ。自分の妹に性欲を向けるか普通。そんな目で見ていないし、見たくもないし。そんな兄妹周りから見ても気持ち悪いだろ?
「は、はっはー。僕はお風呂に入ってくるよー。夕飯用意しててー。上がったら食べるから」
そう逃げるように僕は急いでバスルームへ向かった。
耐えられないわ、あんな状況。
僕は脱衣所で服を脱いで、風呂場の扉を閉めた。
閉めたといっても僕の家の風呂場には鍵はついていない。
僕はお風呂の中でいつもかかさず行っているルーティンがある。
風呂に入り、頭を洗い、今日あった出来事を思い出す。
今日あった出来事や、特訓を思い出し、反省するルーティン。
フリンさんやムーさんに教わった事を1つ1つ整理する。
そして頭の中で想像し、シミュレーションする。その積み重ねが、強さへと繋がるのだ。と思う。思いたい。
とその時、不意に僕の頭の中の戦場が乱れた。
カッコよく言ったつもりだが、簡単に言うと、集中力が切れた、というか切られた。
バスルームのドアノブが回った音に、切られた。
脱衣所で1人の女性が服を脱いでいる。
待て、この家には女性が今1人しかいない。
なので絶世の美女がそこで脱いでいるわけではない。風呂に入ってきて、キャー☆薫君のエッチー☆
という展開にはならない。
そんな綺麗な知り合いは僕には彩さんぐらいしかいない。
もちろん彩さんが脱いでいたら嬉しいが、そりゃ嬉しいが僕は目をつむって彩さんの美裸体を見ないだろう。凝視しないだろう。
あの人は僕にとって女神であり、聖女であり、
毒だ。
格好をつけて言ったが、要するに見る度胸が無いのと、見たら失神してしまうということだ。
話を戻し、脱衣所で服を脱いでいるであろう妹に声をかける。
「お、おーい和美ちゃーん?何をしているのかなー?」
「なにって…一緒にお風呂に入るんだよ…。お兄ちゃん」
最後のお兄ちゃん、が少し照れるように言っていたが可愛くないね。うん、全然可愛くない。
よくアニメとかで妹萌えとか兄妹での愛情関係とかあるけども、リアルではそんなの、ありえない。ありえたくもないし、想像したくもない。
気持ち悪い。
そんな感情を抱いている兄をよそに準備が終わったのか、風呂場のドアノブも回そうとしている。
ええっと……ど、ど、ど、ど!
どうするどうするどうするどうする!!!!
今思ったら女性の裸を生で見るのは初めてじゃないか!?
「まっ、待って和美ちゃん!僕まだ…あれだ、体洗ってないからさ、2人でお風呂に入ってなおかつ、湯船に入らないとなると狭いと思うんだよなぁーー!」
……返答がない。勝ったか?
あ、フラグ。
「大丈夫だよ…ぴったり密着して、私が体を洗ってあげる…」
待て!!!!!
なんでこんなに妹に好かれている!?好かれているというよりかは、性的対象、恋愛対象にまで入っている気がするんだが!!!
そんな考えをよそに妹は風呂場の扉を開け入ってくる。
真後ろに裸の妹がいる。
やべぇ…後ろにすっぽんぽんの和美がいるって思うと
…
すごく…すごく…
ドキドキするわけねぇだろ。
「おい、和美。僕は疲れてるから出て行ってくれないか。お前に構ってる暇なんてないんだ」
わざと冷たく突き放す。これで今後の予防にもなるものだ。
「………お兄ちゃんの…ばか」
駆け足で風呂場から出て行く。
申し訳ないことをしたなと思ったが、よくよく考えれば非常識なのはあっちなのだから、僕が罪悪感を覚える必要はなかった。
まぁその後の夕食が物凄く気まずかったのは予想通りですよ。
僕はすべてのやる事を終え、ベットに横たわった。
「とは言え、今日は色々あったなぁ…整理するか…」
ええっと、僕が超越者で、しかもこの物語の主人公で、沼西が世界を征服しようとしていて、それを連れ戻すのが目的で……ええっと?
「あとは…この世界がベタベタのテンプレ世界という訳かー」
ということはもうそろそろバトルイベントが来るのかな?と思ってしまう。
しかし本当の戦闘、訓練ではない、命の取り合いとなる戦闘だとうまく戦えるかわからない。
足がすくんでしまうのではないかと思ってしまう。
というか、その場面を想像しただけでブルってしまう。
「こんなんじゃあ、沼西も、そして彩さんを救う日はまだまだ先かなぁ…」
僕は途方もないこの世界の終わりを見つめていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
次の日の朝礼前の教室。
「おい、達馬。そういえばこの学校には何人くらいの能力者がいるんだ?…まぁ超能力者はわからないにしても、わかる範囲でいいから」
達馬がまた驚いた顔をする。
「おいおいー…薫。真面目にそんな質問をしているのかい?この学校に通っているのに?」
何を言っているんだ?こいつは。たしかに、現実世界と比べて、学校に魔法使いが増えたなーと思っていたが、この学校とは関係ないだろう。
ん?
いや、ちょっと待て。
おかしいくないか?
超能力者が増えることはあるかもしれないが、魔法使いが増えることはない。
生まれた時に決定しているのだから。
と考えると…?
「記憶が混濁している、混雑している薫にこの学校の秘密を教えてあげよう。外部には秘密になっているけれど、この学校は、世界各地にある能力者育成学校としても機能しているんだ。日本全国から能力者、能力者と疑わしき者が、集まってくる。まぁ全校生徒が全員そうってわけじゃあないんだけれど。
あ、もちろん一般生徒にはこの事は知らされていない。この学校に通う能力者だけ、知っているのさ」
……
うわぉ。
スケールが段々でかくなってきてもう思考が追いつかないぜ。
そんな学校あんのかよ。
そもそも元の現実世界では、魔法使いや超能力者は、一般の世界とは関係を持たないのが暗黙のルールだった。
なので、普通の人が生活しているうちは魔法や超能力の存在に気づかない。
関わらない。
だけどこっちの世界ではそれが、暗黙のルールがないどころか、世界ぐるみで関わっている。
関わっちゃっている。
はぁ…またアニメの世界みたいなことを…
「そうなのか…記憶が曖昧でね。ありがとう達馬」
「いえいえ〜!説明するのは好きだからね」
なぜか上機嫌になっているのだった。
しかしすぐにテンションを落とし説明を続けた。
テンション上げ下げ疲れるだろうな。
「けどねぇ…学校の制度で、魔法使い、超能力者検定というものを実施されているんだけども、薫は相当の実力なのに判定が[C-]なんだよねぇ。ちなみに僕は[B+]だよ。なおさらわかんないんだけど、なんで判定が悪いんだろう…」
達馬が言うにはその検定とやらは学校側が独自で、勝手に検定するので試験とかはない。
と、なると多分『俺薫』は、周りに驚異的な力を見せないために、バレないようにするためにあえて、力を小さく見せていたのだと思う。
本当に物語の主人公みたいだな…。
周りから弱い雑魚いと思われているが、本来の力はハンパない主人公。
…テンプレだな。
「そうなのかい?まぁ今の僕にはわからないけど、それなりの事情があったんだと思うぞ」
「そうかそうかー…まぁ、戦闘で薫に勝てるやつなんか、この世に1人もいないからね」
……すんごい過大評価。
「あ、そういえばまだ聞きたいことがあるんだがいいか?」
「どうしたんだい?薫。何でも聞いてくれ」
昨日ムーさんに言われた事を思い出す。
「僕の、超能力って知っているか?」
……これは今後の戦闘に関わってくるかもしれない情報なので聞いておきたい。攻撃型だった場合は接近戦が有利になるからな。
「いや…薫。それは薫に前に僕が聞いたことあるぞ?」
「そうなのか!?じゃあなんだったかおし…」
「いや、教えてはくれなかった」
僕の言葉を遮って否定した。
少し強めに否定してきたので少々押され気味だ。
「けど、薫が言ってたよ。『この力を使えば、力のバランスが崩れる。戦闘がフェアではなくなる』って」
僕らしい、よくわからない言い回しだな。
多分言いたいことは、
強すぎるから使いたくない。卑怯だ。
と言いたいのだと思う。
戦闘に、命の取り合いに卑怯も何もないと思うんだが…
そんなに強い能力を持っていたのか僕は…
今も持っているんだけれども。
しかしどういった超能力かというのがわからなければ、使えない。
これぞ、主人公の秘めたる力だな。
「そうなのかー…まぁ言いたいことはわかるよ、僕が言ってた事」
「まぁ、薫はいつまでも薫だからね」
と、よくわからない達馬のしめで質問タイムは終わった。そこからはアニメの話やらゲームの話やらで盛り上がった。
ここに蓮がいてくれればもっと盛り上がったのにな。
「はぁ!?サブにナイフを持ってこそのFPSだろ!?」
「薫はわかっちゃいない。対空がどれだけチームに貢献するかを」
「ナイフキルがどれだけ気持ちいいかをお前は知らないな」
「それはナメプだろ!?」
「違う!!僕のガチ武器だぁ!!……そこまで言うなら仕方ない。FPSマスター蓮の意見を頂いてくるとしよう」
「蓮…くん…やってるの?」
僕は達馬を無視して蓮のクラスへ向かった。
そこで数人が蓮のクラスを見てコソコソと話していた。
たしかー…蓮の『未来視』によると、グラウディングが校内で活動しているらしいな。
あの集団がそうだったりしてんなわけないか。
そう思って僕は蓮のクラスを覗いた。そしてクラスに入っていった。
それがいけなかった。普通に呼べばよかった。
僕がクラスに入った瞬間、
「かおるーーーーん!!!ごめんねぇーー!!今日一緒に行けなくて…寂しかったでしょ?もっと触れ合いたくて、クラスを、私を見に来たんでしょーー!」
と、こいつ超能力でももってんじゃねぇかってぐらいの速さで僕のところへ駆け寄ってきた。
そして抱きついてきた。
勢いを殺さないまま。
「グボォォッッ!!」
そのまま倒れこみ後頭部を強打した。
痛ってぇ。。
どころじゃねぇ…。
周りからの目線が痛いよ…
僕の胸で涙しながら頬ずりしてくる智美を振りほどき、蓮のことは放っておいて自分のクラスへ逃げた。
「もー!!恥ずかしがらなくていいんだよーー!かおるーーん!」
この倍速チーターが。
そんな大きい声で言うから余計恥ずかしいんだろうが…
本当に、前の智美に戻ってほしいと改めて思ったのであった。
僕がクラスへ逃げ込んで、いつものように朝礼が終わり、一時限目の予鈴がなろうとしている時事件は起きた。
暴動は起きた。
「おい!!黙って言うことを聞けよ。聞かなかった場合は…」
銃声が響く。
これは隣のクラス、智美達のクラスで起こっていた暴動だ。
大きい声と音だったので自分達のクラスにも聞こえてきた。
悲鳴が隣のクラスだけではなく、自クラスにも生まれていた。
そこで僕が隣のクラスへ行こうとしたその時、一時限目の数学を担当していた教師が僕の前に立ち塞がった。
「おい、西宮。どこへ行く気だ?」
「いや、ちょっと…野次馬精神がね…えへへ」
適当に誤魔化す。
ここで
『僕魔法使いでも超能力者でもあるんで、暴動起こしてる奴らボコボコにしてきまーす!☆』
なんて言えない。
本当に頭がおかしい子になってしまう。
一般人から見たら。
しかしその心配はなかった。
「何を言っている?西宮。どうせお前の拙い魔法で、隣のクラスを助けに行こうとしたんだろう?」
この先生…は魔法使いか。
てかそれみんなの前で言うの?
え?これバレてる設定なの?
「このクラスは全員、魔法使いか超能力者の生徒で構成されていてね。みんながみんな異能力者なんだよ。なのでこのクラスに動かれちゃあ困るから、私が、先生が見張りを頼まれたよ」
えええ?
このクラスは…全員…異能力者?
そんなこと達馬も言ってなかったぞ?
と、達馬の方に目線を向けると驚いたような顔をしていたので、達馬も知らなかったらしい。
「まぁ先生はこれでも魔法検定[A+]の実力でね、お前みたいな落ちこぼれた魔法使いとは違うんだよ。どう足掻いたって[C-]の西宮じゃ先生には勝てない。このクラスでいったら…
鈴木達馬辺りが動くかと思ったのだがね…よりによって雑魚がいち早く動くとは」
よく喋るなぁ。そんなに僕の事が気にくわないのかな。
ちなみにこの先生の名前は…えっと…
あぁそうだそうだ、田村先生だ。ネームプレートをつけていたので分かった。
この人の授業は堅苦しくて、僕はいつも寝ている。だから気に入られてないのかな?
別にいいんだが。
「そうですか、先生。すいませんでした」
と形だけでも謝っておいた。別に事を荒立てたい訳ではない。あのクラスには蓮もいるし、なんとかなるだろうという推測だ。
だから僕は席に着こうとした。
結果つけなかったんだが。
「おおー。随分と素直じゃないか、西宮。まぁ先生が、グラウディングの一員とバレてしまったからには、この事実を知るもの全てを排除しなければならない。だからここで成績アップを狙ってもどうせ死ぬんだから意味ないぞ?西宮」
随分物騒な考え方をするんだな、グラウディングって。それとも田村先生の考え方かな?
どちらでもいいが。
というか、基本この先生に関しての興味が全くわかない。先生に関しての感情もわかない。
だから、何言われようとも激情もしない。
あと成績アップなんか期待していないよ。
それよりも、さっきの先生の発言でクラスがどよめいていた。
そりゃ、殺すと言われたら驚いたり焦ったりするよな。
なんでこんなに落ち着いていられるのだろう。
これも主人公の力なのかな?
「へぇ。世の中も物騒になりましたね」
僕の口から勝手に、挑発したような口調で言葉が出た。
「…?どうしたんだ?西宮。死に急ぐことはないぞ?」
「ごめんなさいね。雑魚がしゃしゃり出て。死に急ぐって言葉、僕初めて生で聞きました。あれかな?生き急ぐの反対言葉的な感じなのかな?
でも生き急ぐも、おおまかに言っちゃえば死に急いでいるようなものですから、生き急ぐも死に急ぐも変わんないんじゃないかな?って思いますね。でも、ちゃんと死に急ぐという言葉もあるからー…あながち間違っちゃあいないっすね。さすが先生です。おみごとー」
とよくわからないが、話を複雑にして、相手を挑発してみた。
田村先生の怒りを堪えている顔って面白いな。
「どーした…クズ。この私に口答えするのか?[C-]の分際で…」
田村先生の左手には、魔法を使うために魔力が練られている。
あれはー…炎属性魔法を使う気かな?
赤色だし。
「そーゆー他人が決めた評価に依存するっていうのはどうかと思いますよ」
「黙って聞いてればコイツッッッ!!!!」
ついに我慢の限界を迎えた田村先生が怒鳴って、魔法を飛ばしてきた。
魔法というのは、物資的質量がゼロに等しく、基本当たっても何も感じない。
しかしそこに意志的に炎や、氷、水といった属性を混ぜ、攻撃型にすることで相手にダメージを与えることができる。
魔法で剣や刀を作ると強度は変わらないのに、重さはゼロに等しくなる。
使いようによっては、魔法でバリアや、結界、肉体強化もできる。
それはー…もう感覚でしか説明ができない。
今回先生が飛ばしてきたのは炎属性の攻撃型魔法。
それを簡単に破壊することができる方法を、ムーさんからすでに教わっている。
相手の弱点属性で、魔法の核を狙う。
この場合炎なので、水かな?
水属性の魔法で、魔法の核、簡単にいうと、魔力が濃いところを狙う。
上級者は魔法の核をわかりにくくするために、魔力を均等に分散させたりするのだが、今回の魔法はまるでそんな工夫をしていなかった。
所詮その程度だということだ。
少しの魔力でつくった、小さい水属性魔法、というか水滴なようなものを指先につけ、相手の魔法を弾く。
拙い魔法は目の前で無残に消え去る。
「…!!お前!今…何をしたんだ!!!」
驚いた顔で田村先生は僕を見る。
「ええ?基本魔法を基本に忠実に使っただけですよ?」
言葉通り本当に基本の基本の魔法だ。
なんか楽しくなってきた。
…いや待てよ。これってまずくないか?
以前の僕はこんな挑発するようなことしなかったぞ?
この世界の薫に染まりつつあるということか?
それはいけないことだ。
以後気をつけよう。
以後。
今回は特別、楽しもうじゃないか。
「次は僕の攻撃ということでいいですか?ターン制だと僕ですもんね。じゃあ行きますよ」
と言った後僕は、両腕を横にあげた。
そして魔法の源を水滴のようにイメージして両手から滴らした。
そして短い剣のような形を作り、具現化させた。
物質投影魔法。
魔法を習う中で、一番基本として習う魔法、そして一番扱いやすい、易しい魔法でもある。
「何をするかと思えば……ハーハッハッハー!!やはり貴様は[C-]ということだァ!!!そんな簡単な魔法しかできないとはなッ!!滑稽だ!!」
「前まで使ってた先生口調が崩れてますよ?田村センセっ」
「デカい口は叩けるようだな!!だが!実力が伴っていない!!そんな短い両手剣で私に触れられると思っているのか?思い上がったなぁ!?さっきの魔法が分散したのもマグレに決まっている!」
僕は深いため息をついてから、
「なぁー?達馬ー?」
僕は田村先生を無視して、僕の方を呆れたように見ていた達馬に声をかけた。
「どうしたんだい?薫。すんごい楽しそうだけど」
「まぁそこはいいだろ?あのー達馬、以前の僕はこういう場合…あのーみんなの前で能力使って殺してたか?」
「あぁー…よくやってたよ。結構この学校狙われるしねー」
「そかそか。ならよかった」
「何が良かったんだァ!?!?言ってみろこのクズがぁぁ!!!!」
無視された挙句ナメられた事にブチ切れた田村先生が怒鳴ってきた。
怒鳴りぱなしだな。プライドが高いから煽られるとすぐキレるなぁ。
「その言葉遣い、教師失格だな」
「この……!!!」
田村先生は両手から爆発魔法を繰り出そうとした。しかし出されなかった。
田村先生には爆発魔法を出す両腕が無かったので出せなかった。
というか両腕は僕が切った。
「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!」
「いちいちうるさいなぁ。たかが両手だろ」
僕の身体は密かに『狂戦士』で強化されているため、田村先生の距離まで音速で行くことができる。そして両手に持っていた剣で田村先生の両腕を切り落としたのだ。
「きさ…きさま…!!なにを…!!」
「え?普通に腕を切り落としただけですよ」
「この距離を…どうやって詰めたぁぁぁあ!?!?」
叫ぶのと悲鳴が混ざったような感じで叫んでいる。
「騒ぐなよ…。先生は[A+]なんだろ?それぐらい対処できないのかよ…」
「殺す!!殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!!!」
「そうかい。じゃあ動けないようにしますか…ね!!」
そして僕は田村先生の太ももの下あたりを切り、両脚も切り落とす。
「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「どうですか?[C-]にメタ切りされている気分は」
「ハァ…ハァ…ヒィ…きさ…きさ…何者だ…」
僕は冷静に、そして冷血普通に答えた。
「僕は、西宮薫。どこにでもいる普通の能力者さ」
「やめてくれ…こないでくれ…あ、そうだ!!西宮!!お前をグラウディングの幹部につけてやろう!!私は幹部までもう一歩だったのだが、その地位をお前にくれてやる!!その力を存分に活かさないか!?!?
だから…ヒィ…私を助けてく…!!!」
そして胸に両手剣を突き刺した。
僕はポケットに入っているケータイを確認した。
メッセージ一件
PM8:37 メッセージ差出人 :蓮
こっちは大丈夫。なんとかなった。
よかった。やっぱ蓮がいればなんとかなったか。こっちもひと段落ついたし、これで終わりかな?
にしては、手を引くの早くないか?
グラウディングはあくまでオーバーロードの手下なので、もうすこしメンバーもいると思うし、戦闘に人員を割くと思うんだが…
なにか引っかかるな…
薫達が戦闘を行っている頃、体育館に各クラスから集められた超能力者と疑わしき者が集められていた。
「おい貴様ら。この中で超能力を扱えるものはいるか。正直に言ってくれれば私たちは危害を加えない」
ポツポツと手を挙げる。
「30人中…14人か。まぁいいだろう。その14人につぐ。闇堕ちして我々の手下につくか、今ここで死ぬか選べ」
どよめきが起きる。ここで超能力を使って反抗するような奴は現れない。そういう奴は蓮や薫のクラスに多かったので下っ端を送って時間稼ぎをしていた。
「反抗はないな…やはり一番危険なクラスをマークしておいてよかった。よし答えを聞こう。闇堕ちする気があるものは手を挙げろ、今すぐにだ。私は時間をかけたくない」
「そ、そう簡単に決められるかよ…!!」
「そうよ!闇堕ちするって、具体的にどうすればいいのよ!!」
各々が恐怖しながら口で反論していた。
「はぁ…私は言ったはずだ。時間はかけたくないと。お前らはいつまで選択を自分の都合で決められると思っている。お前らはガキか?自分の事で精一杯で、自分の事だけしか考えられないのか?違うだろう。お前らはその能力を手にするときそれ相応の何かを失っているはずだ。その犠牲を今無駄にするのか?自分の覚悟が決められず、グズグズしているため、その犠牲を無駄にするのか?そこまで考えて欲しい」
「…さぁどうだ。ついてくるやつはいるか」
その言葉を聞いて、数人の能力者が手を挙げた。
「ぼ、ぼく…やります」
「おれも…」
結果、14人中、5人手が挙がった。
「そうか…歓迎しよう。異能力者諸君。君たちは今日からオーバーロードの一員だ。心して我が主人に尽くしたまえ」
喋る男が1人で拍手をする。
「そしてー…手を挙げなかった者、能力を持たない者、すまないがここでこの世界とおさらばだ。来世はいい人生を過ごすといいな」
と言葉と同時に右手を前に出す。
すると魔法の光がドス黒くなった、いわゆる闇堕ちした魔法が、手を挙げなかった者と能力を持たない者を包む。そしてその魔法が消えると同時に包まれていた者達も消える。
跡形もなく、影もなく。
その現象に手を挙げた5人は今にも倒れそうな顔をしている。
恐怖に飲まれ、硬直状態でもある。
その5人らに男は自己紹介をする。
「改めまして、歓迎するよ諸君。私の名前はサーマルキュレー。君達の上司にあたる者だ。君達の名前も聞こうか」
こうしてオーバーロードはメンバーを増やしていくのである。グラウディングは自己推薦型でメンバーを増やしていくが、オーバーロードは強制選択型である。
薫と蓮は、戦闘が終わった後、体育館辺りで発生した大きな魔力に気づき、現場へ急いだが、そこには人が1人もおらず、争った形跡もなかった。
「なぁ、蓮」
僕はさっきの戦闘において思うところがあった。
「なんだ…主人公パワー最高!!主人公無双やべえ!ひゃっほう!とか言ったらぶん殴るぞ」
「誰が言うか、そんなこと。それより僕、クラスで田村先生と戦ってた時ー…なんていうか、身体が無意識にすんなりと動いたんだよ。まるで経験豊富な傭兵のような…なんだろ、とにかく動きに迷いがない感じがしたんだよな」
「あと楽しそうだったしな」
「見てたのか!?!?お前はお前で戦ってただろ!?」
「いや、声は聞こえてきたぞ。あんな叫ばれたら嫌でも聞こえるさ」
こいつ戦闘中でも余裕あるな…
でもあれか、視えてるからそりゃ余裕か。
ちなみに僕は訓練で蓮に勝った事がない。
『狂戦士』の力を使っても勝てなかったぐらい、蓮は強いのだ。
蓮は現実世界で前からムーさんに特訓を受けている。なので体術や戦闘技術おいて、蓮に勝てる人はそうそういないだろう。
こいつ総合格闘技とかでたら簡単に優勝できちゃうんじゃないか?
その戦闘能力プラス『未来視』ときたら、勝てたものではない。
「そーかい…で、他のクラスでは被害が出たのか?」
「それが、他のクラスで合計30人くらいのやつらが未だ行方不明らしい。聞いた情報によると、突然黒い服の男たちが教卓に立ち、名前を読み上げて、そいつらが呼び出されどこかに連れて行かれたらしい」
「それってもしかして…」
「あぁ。そのもしかしてのオーバーロードだ。勧誘というか…多分強制的に連れて行ったのだろう。そこらへんはよく知らん」
「そう考えると、グラウディングってオーバーロードの手下とか良いように言っているけど実際は、捨て駒として利用されているだけなんだろうね」
「可哀想なような、自業自得なような…だな」
蓮は少し言葉が悪かったような気がする。
「俺は基本、ああいった連中を好かないな。強制ならまだしも、自分の意志であちらの世界に行くなんて…
正気の沙汰ではない」
じゃあ…あいつは…
「……沼西は、本当に何をしようとしているのかな…」
「ん?だから世界を征服し、滅ぼす事が目的なんじゃないのか?」
と、突然の質問に少し驚きながら蓮が答える。
「いや…なんか違うんだよ。世界が変わってようとも、僕や達馬とか…智美は例外だけど、性格ってあんまり変わっていないだろ?だから急に沼西があんなに変化するなんて思えないんだよなあ」
そう、僕は達馬から沼西がグラディエーターとなったと聞かされてから何か引っかかっていた。
それが何かと言われると説明できないのだが、
まぁおかしいな?ぐらい思っていた。
けどなったもんはなったもんだからー…沼西もどこかで世界を征服したいとか思ってたのかなぁ。
この世界の基準がよく分からない。
分かっていることはテンプレが溢れていることぐらいだ。
曖昧な基準だと性格形成も曖昧なのかな…
とことん嫌になる世界だ。
「そこは…まぁ物語には悪役がつきものだろ。その悪役に抜擢されたのが沼西奈々であって、沼西奈々が悪役ではないと俺は思うぞ」
「そうかー…可哀想な沼西の為にもこの世界を壊してやらなくちゃな」
そう、僕がこの世界を壊すのは沼西の為でもある。
そしてこのテンプレ世界とオサラバする為。
……重要なこと忘れてないか?
僕は自分の中で消えつつある彩さんを思い出した。
僕は舐めていた。
モブの影の薄さに。モブを肯定するこの世界に。
簡単には僕の頭の中からは消えないだろうと思っていた。なにせ、現実世界での印象や、思い出というか出来事が強すぎて頭から離れないと思っていたからだ。
しかし、最近では意識していないと段々と薄れていく。
自分の中から、自分を形成する上での一部が無くなって行くことがこんなにも恐怖なのだと、僕は初めて思い知った。
「なぁ…蓮」
「急にどうした」
「やっぱこの世界、どーにかして早急にぶっ壊さないとな」
「……そうか」
僕は改めて決意した。
「やはり実力は相当なモノではないか、神の子よ。雑魚とは言っても、仮にも[A+]をあんなにいとも容易く…」
沼西奈々改め、エンド・ザ・ワールド・グラディエーターは自身の魔法で作った特殊な空間で、学校の騒動を見ていた。
「私を下す日も近いかもしれないな…そう思わないか、サーマルキュレー」
「ご冗談を…私もあの男の学校へ行って参りましたが、そのような気は感じられませんでしたぞ。少々買い被り過ぎでは…」
「ふん…まだ神の子の全力を見たことがないならそう言えよう。まぁ見ておれ、あやつの力を」
「……分かりました」
「ふふふふ…魔法を交えるのが楽しみになってきたの」
段々とオーバーロードの人数が増えてきており、各魔法学校でもグラウディングの数も増えてきている。
グラディエーター達の思惑通り、世界中が、闇堕ちした異能力者によって滅亡に追いやられる日が近づいてくる。
「ふふっ…本当に展開通りだね」
そこに楽しそうに笑う声があった。




