西宮薫は決意する。
僕には好きな人がいる。その人は智美でも沼西でもない。いや、たまに幼馴染と恋をするというのがあるけども、僕と智美はずっと一緒にいるので、前も言った通り家族みたいなものだから恋愛感情などわかない。
君は自分の妹や姉、弟、兄もしくは父母に恋愛感情を抱くかい?それと同じ感覚である。
沼西はー…可愛いんだが中2病という大きな爆弾を抱えているので近寄りたくない。僕は爆弾処理班でもないし医師でもない。なので対象外。
僕の好きな人はクラスの斎藤彩さんである。紹介するのは初めてかな?僕は高校一年生の時から恋をしている。一年の頃は他クラスで関わりもなかったので目の保養ぐらいの感覚で見ていたのだが、ある事件をきっかけに関わりを持ち、お互いを知り(多分これは僕が一方的に思っているだけ)、僕は恋に落ちたというわけだ。2年になりクラスが同じになった時は失禁しそうになった。てかちびった。
そこから毎日が鮮やかになった。彩さんがクラスに入るたびに僕は第六感で感じ取り死角にいようと気づくことができるようになったり、彩さんと話すだけで心の汚れが落ちていくのを感じたこともある。
もうゾッコン。大好きだ。そんな彼女もこの世界では変わってしまったのか。いや、そんなことはない。
彼女は、彩さんはきっと変わっていない。なぜなら僕が愛している人だから。理屈じゃない。僕は心でそう思っているから。……自分でも何言ってるかわからなくなってきた。
話を戻そう。
ええっと。僕がー…魔法使い?そんなぶっ飛んだ話をするから、頭を整理するために彩さんを思い出したのだ。あー…どんな疑問も溶けていくー…
「薫は飛び抜けた才能をもっているんだよ?世界三強の一人なんだから!!」
……これはいくら彩さんでも溶かしきれなかった。
世界三強…?世界で3本の指に入る魔法使い…?
それはムーさん、フリンさん、師匠の3人ではないか?と思うが、多分こちらの世界ではあの3人はまだ認識されていないのだろう。
…自分達だけ僕たちよりもっと強い結界を張っていたのかもしれない。せけぇ。てかひどい。
「正直薫は羨ましいよ…そんな力を持っていて…しかも世界で3本の指に入る超越者とはね…はぁ…ご、ごめん、魔法使いの端くれがみっともないね」
と自分を蔑むように笑う達馬。
「いやいや、僕もそんな凄くないよ。記憶を失っているからわからないけど、世界三強なんてう……そ……?」
ここでさっきの達馬のセリフを思い出す。
「達馬。今なんて言った?」
「え?だから羨ましいよって…」
「そこじゃなく!もう一個前の!」
テンプレにはまったとぼけ発言は素早く切り捨てる。
「だから達馬は世界で3本の指に入る超越者だって。」
……超越者…?
いや、待て。僕の能力はまだ蓮や沼西、世界三強の師匠達にしか知られていない。故にこの世界では魔法使いとしか認識されていないはず…なのになぜ超越者なんだ…?僕は足りない頭でよく考えた。
…まぁ結論は1つしかないのだが。
僕はもう1つ、超能力を手に入れた。
しかしそれは超能力理論に反している。何かを得る時は同時に何かを失っているという理論はこの場合通じていない。無条件に超能力を手に入れているのである。これほど理不尽な事はない。というかありえない。
「どーしたの?ぼーっとしちゃって?」
達馬の声で我に帰る。おかしい。僕が魔法使いで優秀というだけでも十分おかしいのに、超越者ときたか。
とりあえず今はできるだけ情報収集しなければ。
「ごめーーーん!達馬!かおるん!遅れちゃったよぉ!」
達馬にもっと情報を聞き出そうとした時、背後から聞こえてきた。
え?誰だこいつ。僕の身近に登下校を共にしているハイテンション女子は知らないぞ。今は情報を収集しようとしているのだ邪魔しないでくれ。
「おはよう!かおるん!そんな難しい顔してるとイケメンが台無しだぞぉ!」
かおるんかおるんうるさいなぁ…って、かおるんって呼ぶのは一人しかいない。しかしアイツはいつもテンションが低めで大人しい奴だったはずだ!!!!!
アイツの、本当の智美はどこいった!!!!
「おはよう、智美ー。朝からアツイねぇ」
「えへへー!自慢の彼氏だからねっ」
達馬が接してる姿を見て、こっちではこの智美か通常らしい。しかし、さっきからイケメンやら彼氏やら誰のことを言っているのであろうか。
「えぇーー!!!かおるん記憶がないのぉーーー!?」
そんな智美見たことねぇよ…生まれて共に過ごしてきた16年間そんな智美いなかったよ…
「初めまして!かおるん!私は智美、あなたの彼女だよ!!」
初めましてではないけどな、ないけどな…ないけどな!?!?!?
彼女!?!?!?!?
ありえないだろ…この世界で一番ありえないだろ!!!!…一番は盛ったかもしれない。。
彼女!?!?智美が!?!?それはお母さんの事をセフレと言っているようなもんだぞ!?!?
…おっといけない。取り乱してしまった。
落ち着いてみたらどうでもよくなってきた。
そうだよ、智美が彼女だからどうだっていうんだよ。
達馬が魔法使いで、智美がハイテンションで、僕が超越者で、どうだっていうんだ。
問題はいっぱいあるが、普通の生活を送れない訳ではないぞ。そう考えたら段々楽になってきた。
よし、情報収集再開だ。
この世の中において、この現代の情報社会において、この作業は一番大事だといえる。
仕事するにおいても、生活するにおいても。そして例えばだが、戦闘するにおいても大事だといえる。…まぁする機会はないのだが。
するとすればスマホゲームぐらいでだ。攻略サイトで情報収集をする。
まぁ置いといて色々思うところを聞きたいと思う。まずは前世界においての魔法使いの現状だ。蓮は結界を張られていたから問題はないが、他の魔法使い、身近でいえば沼西奈々のことである。…言ってなかったっけ?というかもう察していると思っていたが。
あいつも魔法使いである。しかもまぁまぁすごいらしい。高校生とは思えないほど、魔法を巧みに操るらしい。…しかし師匠達と比べてしまうと全然だが。所詮高校生というわけだ。
「お、おはよう智美。記憶がなくなった『僕』、かおるんです。」
「改まって言わなくてもいいよー!かおるんはかおるんだもんねー!!」
正直このテンションについていけない…。
カムバック、智美。
「ところで達馬。クラスのみんなの事も曖昧になってるんだけど、そこらへん教えてくれないかな?」
「人間関係は覚えているって言ってたじゃないか、薫。章をまたいだからってセリフを忘れないでくれよ。」
忘れてないし、章とかメタ発言は控えてくれ。まるでこの世界に作者がいるような発言ではないか。もし作者がいたならこの世界を早くぶち壊してほしい。智美がウザい。達馬と話している間でも腕を組んでこようと試みている。解いても解いても、組んでくる。
「忘れてなんかないよ。まぁ気になるのは、あいつかな、中2の沼西な……」
その瞬間、名前を言おうとした瞬間、にこやかだった達馬の表情が一変、焦りと恐怖と怒りに変わった。
「…薫…。冗談でもあの人の真名を言ってはいけないよ…」
何を言っているのかさっぱりだ。真名?こいつも沼西の中2ワールドに引きずり込まれたのか?影響力すげぇな、おい。しかし、この表情を見る限り、冗談ではないと察した。
「僕たちのクラスにいたあの人は、今は『エンド・ザ・ワールド・グラディエーター』として、僕達魔法使いや超能力者の闇堕ちした人々を従え世界征服をしようとしているんだ。」
え、えんどざわーるどぐらでぃえーたー?
たしか、あいつが一人で遊んでいる時、自分の事をそうやって呼んでいたな…。
西宮薫!貴様もこの私、えんど・ざ・わーるど・ぐらでぃえーたーの手下になるのだー!
とか。
結構可愛かった。
その愛嬌溢れるあいつが名前を言ってはいけないあの人に?それは魔法使いの作品を間違えているぞ、沼西。
あと、達馬が言っていた『闇堕ち』とは、魔法使いや超能力者が能力を濫用し、悪に染まってしまったの者ことを指す。
「グラディエーターは闇堕ちした手下数千人を従える闇堕ち超越者だ。今後僕達能力者が、相手にしなければならない強敵だよ…」
…?超越者?沼西がか?まて。僕も達馬が言うには超越者らしいが、沼西までもなると、クラスに二人、世界三強が揃っていたことになる。
いや、ありえないだろ。確率的に。
しかしそれがありえてしまうのがこの世界か。よくあるもんな、戦闘モノの本で、強い奴らがいっぱいいるクラスとか学校が。
「そっかー…ってえ?相手にするの?ほっとけばいいんじゃないの?」
気にしているかもしれないが、智美は能力を持たないので、この会話には入ってこれない。というか僕の腕を捕獲して頬ずりしまくっている智美には聞こえていないらしい。
「…はぁー…。やっぱり発言も忘れているようだね薫」
え?また章またぎでミスったか?と、いるはずもない作者にといかけていると、達馬は続けて話した。
「薫が言ったじゃないか、俺があいつを倒して連れ戻すって。」
いや、言わねーよ。少なくとも僕じゃそんなこと言わねーよ。だって放っておけば普通の生活はできるわけで。沼西が一人欠けてしまうが僕の生活に支障をきたすほどではない。
なのにあえてそんなトラブルに巻き込まれようとするんだ俺薫!!!
「そうだったのか…じ、じゃあ頑張るしかないか。そう思うと達馬。僕と沼…そのグラディエーターが世界三強の二人なんだろ?もう一人をこっち側に誘ってしまえば、有利になるんじゃないか?」
「薫、簡単に言うけど、超越者を探すってなかなか難易度の高いミッションなんだよ?高さでいうとエベレ…チョモランマぐらいだよ」
あえてエベレストとは言わなかったのが不思議だが…。そんなに難しいのか。師匠を見た時一発でわかったんだけどなぁ…。
それはオーラか。
「だけど、噂によるともう打倒グラディエーターとして活動はしているらしいよ。…けどねー…打倒!じゃ困るんだよね、薫」
「…たしかに、僕は連れ戻すって言ったんだったよな。倒されてしまっては沼…グラディエーターが学校に戻ってこれないからな」
グラディエーターという呼び名には慣れないな…
なので僕はもう一人の超越者よりも早く沼西を見つけて連れ戻さなければならないのか…。
普通の生活はどこへやら。
とりあえず学校へ行って気持ちの整理をしよう。彩さんを見て。彩さんみたらなんでも浄化というか昇華されそうだ。
てなわけで、話し込んでいるとすぐについてしまった。学校は相変わらず学校だ。
何事もなくクラスへ行く。そして智美を腕から引き剥がし、クラスへ持っていく。その時見えたのだが、蓮の席が空いていた。あいつサボりやがったのか。まぁいいや、そう思い自分のクラスへ行き席に座った。
あ、まだ彩さん来ていないのか。早く来ないかな、クラスに入った瞬間、僕の何かが反応し、いち早く挨拶してやろう。とびきりいい声で。
登校時間の8時30分がだんだんと近づいてきた。
あれ?まだ反応なしだぞ?きたのはー…僕が入ってからせいぜい10数人か。あれー…彩さんは25分ぐらいに来るんだけどなぁ…
そう思い、ぼーっと教室を見渡していると、
僕は驚きを隠せないモノを目にした。
この世界で一番驚いたというか、なんというか。
今回は盛っていない。
僕は見たものをすぐに理解することができなかった。
まるでモブの塊のような集団の中に、どこにでもいそうな、ありそうな女子の集まりの中に、すでに彼女は、斎藤彩はいた。
斎藤彩と思われる女子が、すでにいた。
25分ぐらいに入ってきたのだろうか。しかしなにも反応はなかった…。
何故だ、ありえない…
僕の彩センサーがぶっ壊れたという可能性はないだろう。未だ反応を示していないが、昨日まで正常であったセンサーが今日になって壊れるということはないだろう。希望的観測。
しかしこの世界なら、1つだけ辻褄が合う結論がある。もしこの世界がお話だとしたら、物語だとしたら、テンプレ溢れるアニメの世界だとしたら、メインがいるように、この世界にはモブがいる。
そのモブに斎藤彩が入ってしまったということだ。
斎藤彩は、モブ子へと変わってしまった。
走った。僕は狭い教室を全力で走った。窓を開け、ベランダに出た。そして大きく、いないはず、いるはずのない作者に聞こえるように、大きく息を吸った。
「ッッッッッ!!!!ブッッッッ潰してやる!!!!」
「こんなクズみたいなテンプレ世界!!!ブッッッッ潰してやらぁぁぁぁぁ!!!!」
僕はベランダに出て、生まれて初めてというぐらい大きな叫び声でシャウトした。決意した。このテンプレ世界を壊す。
その決意を聞いて、一人誰かがほくそ笑むのが聞こえた。




