奪還の黒、裏切りの水。
「エジプトが……ッ!?!?」
黒蓮寺一行を乗せたジェット機はエジプトに離陸体勢をとっていたが、高度を上げ一度エジプトから離れることにした。
「どういうことか…」
「我が君。私達は結界によってこの世界の影響を断つことができました…。なので実感が掴めていませんでした。先程までは世界規模においての異能戦争など大袈裟ではないかと思っていましたが…これは…」
「こんなこと、許されるわけがない…」
エジプト全体が闇堕ちした黒い魔法の源の痕跡覆われていた。
「…八戸彦、蓮寺家の皆さんのところへ、緊急弾を発砲しなさい」
「我が君、もう既に発砲しております。今回の会議中には届くかと」
緊急弾とは、蓮寺家の最高権力者に今こちら側で緊急事態が発生したことを伝えるための手段で、魔法で構成された弾のような形状をしたものを真上に発砲することによって、緊急事態を伝えることができるのだ。
これには特殊な魔法が使われており、どこにいても、死んでいなければ脳内に直接伝えることができる。
由紀は再度窓の外のエジプトを見る。
おぞましい光景であった。
「我が君!!
エジプト異能支部との連絡が取れました!!」
パイロットが操縦を副パイロットに任し、由紀に伝達にきた。
通信用の魔道具を抱えて。
これも今は亡き、煌蓮寺楓が製作したものだ。
「早く繋ぎなさい!!!!」
「ハッ!!ただいま!!」
通信が途切れ途切れだが聞こえてくる。この魔道具からスピーカーのように音が出る仕組みだ。
『……えるか……きこえる…か!!』
これは全世界対応の翻訳機能が付いており、どの国の異能支部とも連絡が取れるようになっている。偉大な発明品の1つだ。
「はい、こちら日本蓮寺家の黒蓮寺です。聞こえております、何があったんですか…!?」
由紀が通信を取る。
『黒蓮…寺か…助か…る……。この…国にオーバーロードの…アジトが存…在すると聞き…調査をして…いる時…だった……。あの…南極での…一戦の…直後に…ドス黒い魔力を感知したの…だ』
(北極での一戦…。あの木蓮寺家がグラディエーター討伐に向かった日か…)
あの騒動はメディアにも取り上げられ、全世界の人間が知っていた。
由紀は蓮寺家の会議でも知っている。
メディアに取り上げられたのは由紀だけではなく蓮寺家の最高権力者達も驚いていた。
「ドス黒い魔力…?闇堕ちの痕跡ですか?」
『日本ではそういうらしい…な。こちらでは…ネフェルトゥムの魔力…と…呼んでいる…。その魔力を感知し…特定したところまでは…良かったんだが…な。……そこへエジプトが持ちうる全異能勢力で向かったのだが……』
「どうなったのです…?」
『…入ることすら…許されなかった…』
由紀達は黙り込んだ。
『門を開けようと手を当てた…瞬間…だったよ……。建物の…中心部から…ネフェルトゥムの魔力の柱が…天高く立ち…気がついたら……国全体が……ネフェルトゥムの魔力で満ちていた……。魔力…耐性がない…者は消し炭に…なり…力の無い異能…力者は…全員ネフェルトゥム…の魔力によって…』
この先は言わなくても由紀達は理解できた。
闇堕ち。
これは異能力使いが自身の異能力を使い非人道的、非異能力的な行為をした際になると言われている。
例えば快楽的殺人、拷問、残虐な殺人など色々あるが、明確な基準というものはない。
言うなれば心の持ちようなのだ。
正義の為に殺人などを行なっても闇堕ちしないと言われている。
殺人という行為に正義も悪もないのだが。
闇堕ちの魔力というのは凄まじいものであって、力のない異能力使いでは操ることができない。
故に異能力が体の中で暴走、後は内部から体が朽ちて行き。
死するだけである。
「……生き残った者達は…?」
『全員ネフェルトゥムの魔力に……よって侵さ…れた力の怪物になっ…ていったよ…。私…達異能支部の…連中は…結界の……おかげで助…かったが………。私以外…殺されたよ…。サーマルキュ…レーと名乗る者によ…ってね』
由紀達の予想は概ね当たっていた。
拓郎がエジプトにいるとするならば、サーマルキュレーもそこに居る。
この予想は当たっていたが。
「やはりサーマルキュレーがここに…」
『もはや…この…国に残っている…まともな人間は……私しかい…ないだろう…全…員死んでいっ…たよ…私の…妻…も…子供…も…』
「……ご冥福を…」
由紀が言いかけたところでスピーカーの向こう側から爆発音が鳴り響いた。
『…貴様!!!!…よ…く…も!!』
そのセリフを後にエジプト異能支部との連絡は途絶えた。
その後何回も通信を試したが、繋がる気配はなかった。
黒蓮寺一行は沈黙していた。
まさか、エジプトの国民全員が死んでいるなんて思いもしなかったのだ。
「…八戸彦」
「ッ!?…ハッ、我が君」
「由伸さんに連絡を繋いでください」
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「なぜ楓を殺した者がこの世界の創造主だと知っている…?」
会議室が一気に張りつめた空気と化した。
「…」
要は黙ったままでいた。
しまったという焦り顔や、怯えた表情は一切せすに、普段通りのニヤケ顔であった。
「要!!!!!!」
由伸が叫ぶと希がなだめに入った。
「まーまー、由伸ちゃん。そーカッカすんなって。ほら、渚。その魔道具しまえ」
渚は自分の師であった楓を殺した犯人と繋がっていると思い、要のことを殺しにかかろうとしていた。
持っているのは、認可されていない実質禁魔道具であった。
「…渚君、そんな物持ち歩いてたらダメだよ。物騒だなぁ」
怒りで肩を震わせている。
「要さん…正直に話してくださいよ……先生を…殺した……殺した犯人を知っているんですか……?」
「知ってるね」
希以外が驚いた表情で見る。
「……それは…この世界を作った人物を知っているということになるぞ……?」
「知っている。誰が、どーやって…目的は僕の推察でしかないけどおおよそ予想できる。全て知っているよ」
「なら!!!」
「だが、話せない」
渚が求めようとすることを要は察してたかのように遮る。
「ごめんね、渚君…。楓さんが殺されたのは僕も想定外のことだったんだ。まさか、真実まで辿り着くなんて、思いもしなかったからね。さすが天才、嫉妬を越えて尊敬の意を、示すよ」
「……じゃあ、なんで、なんで貴方は殺されないんですか!!!!!」
「渚!!!!…気持ちは分かるが、それは要に失礼だ」
感情的になった渚を希が抑える。
「希ちゃんがそーゆー役回りをするなんて、少し面白いね…。なんで希ちゃんは驚かないんだい?」
「要ー、舐めんなよ?どれだけの付き合いだと思ってんだよ。お前がなんか企んでることは予想できたよ。だけどなー、まさか犯人を探してるとか分かったとかじゃなくて『知っていた』だもんなぁ?」
「…つくづく、喰えない女だね、君は」
そこで少し悔しそうな表情をした。が、顔はニヤケ顔のままである。
「だから僕は話せないから遠回しに行動を起こしていたよ。気づかれないように、物語をいい方向へとね。だけど、まぁバレちゃしょうがないよ」
「……そうだな、要…。話せないとなるとお前の処分は決定している…」
由伸が拳をテーブルに起き、深い深呼吸をしてから告げた。
「『水蓮寺』家を、蓮寺家から追放する」
「僕だけじゃなく、『水蓮寺』をねぇ…よっぽど信頼を失ったようだ。…まぁ、いいさ。晴れて元の世界に戻った時は、また蓮寺家に入れてもらえるように頑張るよ。じゃあみんなバイバイ」
要はヘラヘラしながら手を振り、その場から文字通り消えた。




