西宮薫は困惑する。
超能力。僕はこの異能力を高校一年の夏休み手に入れた。正確にはー…夏休み後かな?まぁそこらへんの期間だ。超能力とは誰もが憧れ、手に入れたい力だと思うが、想像とは全く違ったものだった。…まぁ憧れてもないし手に入れたいとも思ったことはないが。
何かを得るときには必ずどこかで何かを失っている。
その順番、すなわち何かを失って、何かを得るという順序はあまり関係ないといえよう。僕も最初に何かを失った。というよりかは何かを壊した。そして僕の手からなくなった。その十字架、罪が身に降りかかるようにして超能力という異能を手に入れたのだ。
憧れるなんてとんでもない。知らなくても、知らなきゃいいことなどが世の中には溢れているということだ。
前置きはこれぐらいにして。
僕達は魔法の扉を開けて中に入っていった。
中は…まぁBARだ。普通のBARだ。よくアニメや漫画で見るような、カウンターがあり、脚の長い回転する椅子があり、その向かいにマスターがシャカシャカできるスペースがある。脚の長い椅子にはダンディだが髪の毛が、というか前髪が伸びて目が見えない30代半ばの男が、そして外国人の20代の女性がいた。
そしてマスターがシャカシャカするスペースでシャカシャカをシャカシャカしている25歳の女性がいた。
この人だけは年齢がわかる。
というか僕の師匠だ。異能力者。その中でも非凡の才を持った人。
「待ってたよ。この愚弟が。」
「メッセの件は本当に申し訳ありませんでしたぁぁ!!!」
会うや否や、命を媚びるかのように、僕は師匠の前でスライディング土下座をかました。
我ながら綺麗に決まったと思う。どうだ、参ったろう。参っているは僕もだが。
「とりあえず死ね。」
そう言うとマスターのシャカシャカを僕の後頭部にめがけてフルスイング投球をしてきた。
シャカシャカと一緒に頭から地面へめり込む。
よし、能力は使ってこなかっただけありがたいと思おう!
「これで終わりだと思ったか?お?見えないと何されるかわかんねぇから怖ぇだろ?」
鬼だ。顔がめり込んでいる以上、僕の体が地上で何されるかわからない。まさかバラバラにしてレゴにでもするんだろうか。いや、売れないからやらないか。
「そこまでやる必要があるのかのぅ」
この声は…たしかあの外国人の女性だ。
毎回フォローしてくれるけど実際何もやらないので攻撃の手は止まることはない。てかフォローっぽいけどフォローじゃなくね?
「やはりミスを犯したらダメだってことを体に刻むのが一番手っ取り早いだろ?」
考えが荒すぎる!!
「ちなみに俺はこの展開視えてたぞ。」
蓮が余計なことをボソッと呟く。
いちいちムカつくなこいつ…あぁそうだそうだ。こいつの能力の話をしていなかった。
こいつの能力は「未来視」。
自在にいつでもどんな時でもどんな未来も見えるというのだ。戦いにおいては最高級に強い能力。チート。喧嘩で勝てる気がしない。
僕の能力?そういえば言ってなかったかな?僕の能力はいたって普通である。アニメや漫画でよくあるような能力、いわゆる肉体強化だ。
「狂戦士」ーーこれはみずからの肉体のステータスを異常なまでに引き上げるという能力。
異常の中の異常。想像を超えた。超越した異常。
といっても一言でいうと肉体強化だ。誰もが思いつく能力だな。だから超能力の中では普通だと思っている。
めり込んだ状態でよく説明できるなって?
いやぁもう慣れっこですから。
そして目の前にいる師匠は、木蓮寺希は、「愚者」という能力をもっている。能力の内容は何よりも弱いが何よりも強いものに強い。いっている意味がわからないか?…うーん…例えるならートランプの大富豪でいうスペードの3といった感じかな?普段では一番弱い3。…まぁ革命後では別だが。だが何よりも強いジョーカーにだけは勝てるといった特殊な能力を超能力にしたって感じ…難しいな。まぁ僕や蓮だと師匠には勝てるけど椅子に座っている男性と女性は師匠には勝てないというわけだ。
そして椅子に座っている20代の外国人女性はフリンといって、世界にいる魔法使いの3本の指に入る実力者だ。日本語は時代劇を見て覚えたらしいので言葉遣いがちょっとおかしい。気にならない程度だが。
その隣にいる前髪で目が見えない男性は…僕もよく知らない。優しくはしてくれるのだが自分の事をなにも語らないので名前すらしらない。師匠やフリンさんは「ムーさん」と呼ぶが、本人曰く、本名と全く関係ないあだ名らしい。師匠が急に思いつきつけたらしい。
なんか…しっくりとはくる。
この人も世界にいる魔法使いの3本の指に入る実力者である。
そして3本の指に入る実力者のあと一人は…
師匠の木蓮寺希である。師匠は生まれながらにして異能力を持ち、そして生きている中でまたしても異能力を手に入れた能力者、超越した強さを誇るらしい。
ついたあだ名が
《超越者》
この名を口にするだけでも恐れ多いらしいが…
魔法使いとしても世界三強に入るぐらいの実力を、もっていて、僕や蓮達では到底太刀打ちできない。僕達のような弱者にも強者であり、フリンさんやムーさん達のような強者にも強者である。故に最強、超越した力を持っているのである。
そんな人がなぜ僕を弟子にしてくれた…というか強制的に弟子にされたんだけれども、その理由はおいおい話すとしよう。
「…そこらへんにして本題に入ろうぜ。」
ムーさんがボソッと言う。そこでやっと師匠は僕をいじめるのをやめた。ありがたい…
「そうじゃそうじゃ。そなたらは知らんかの。世界に保管されておった禁魔道具が一つなくなったのじゃ」
僕と蓮に緊張が走った。…めり込んでいるのであまりシリアス感がでないのは気のせいだろうか…
魔道具というのは簡単にいうと魔法の力が宿った道具である。身近でいうと、今日入る時開けた扉、あれも魔道具の一つである。その中でも能力が強すぎる物があり、魔法使いや超能力者はこの魔道具を禁魔道具と呼び、使うことを禁じた。
そして実力者達が保管している。その中でも屈指の実力者、フリンさんが保管していた禁魔道具がなくなったというのは大事件であるのは間違いなかった。
「フリンさん…もしかして盗られた…のですか?」
恐る恐る僕が聞くと、にこやかに笑いうなずく。
…なんか緊張感ないよなこの人。
「それはもう一般人の手に渡っているのでは?」
「……そこが問題なんだ…。魔法使いや超能力者の手に渡ってくれれば俺たちが制止できるし感知することもできる。…なんせ禁魔道具だからな。持った時点で強力な魔法の源が持ち主を包むだろう。…そこから感知しようとしたんだが…まぁそう簡単にはいかないよな。」
蓮の質問にムーさんが答える。
意外とムーさんって喋るんだな…そこもしらなかった。
「おい蓮。未来はどーなっている」
と師匠。
僕の友達にも遠慮なく睨むんだな。まぁ、その性格は痛いほど知っているんだけれども。
「それが…見えないんですよ。俺も何回も試しているんですが、明日の朝から、未来が予測できなくなっています。」
実力者3人が険しい表情になる。蓮の言葉には信用を置いているからこそ、この言葉は危険を知らせるものとなった。…僕には一切の信頼を置かない師匠までも蓮の言葉を信じている。なんか…悔しい。
「とりあえず儂がここの五人に結界を張るわい。儂が死なない限り、魔道具からの意識干渉を受けなくなる。そして明日の午後、またここに集まろうではないかの」
さらっと言うが結界というのは魔法の中でも最高難易度の魔法である。やっぱ次元が違うんだなぁ…と感心していると、もうできたぞよ。と結界を張るのを完了していた。おぉ…早いな。
「じゃここでお開きな。おい愚弟、明日すっぽかしたら学校破壊しに行くからな。」
本気でやりかねない。マジ怖い。
「わかりましたよ…ちゃんと時間通りに来ます…」
そして僕と蓮は各自の家へと帰った。
帰り道何かに襲われることはなかった。まぁ魔道具をもった一般人が僕なんか攻撃してくるわけないか。てか身近とは限らないし。アメリカ、イタリア、もしくはアイルランドとかかもしれない。フリンさんいろんな場所に隠してあるって言ってたしな。
そして家の玄関である。
「ただいまー」
「はいおかえりなさいー」
母がキッチンから夕食をつくりながら答える。母には色々迷惑をかけているのでできるだけ家事を手伝っている。朝起こしてもらったり朝起こしてもらったり…
手を洗ってキッチンへと向かう。
妹は…スマホをいじっている。最近の中学生ってあんなませてんのか。僕と妹はまぁまぁ仲が悪い。多分妹を持つ兄ならわかるだろう。アニメのような妹はありえない、と。
「薫ーご飯はよ持ってきてー」
クソガキが。手伝え。
夕食を終え、洗い物を終えて、お風呂に入って、布団に入る。そして今日きていたメッセージを確認する。
PM5:47 メッセージ差出人:智美
かおるんは蓮くんと私たち、どっちが大事なの。
重いわ!!!てか智美は僕のなんなんだ!!!!
そしてもう一人の差出人を確認する。
PM5:48 メッセージ差出人:達馬
かおるんは蓮くんと私たち、どっちが大事なの。
こいつ明日ぶちのめしてやる。また智美に言っといてくれと言ったのに伝えてやがらねぇ。
こいつらは本当に変わらない。たとえ明日に世界が変わっていようとも変わらないだろう。
あ、フラグ?フラグじゃないよ。
メッセージを返して部屋の電気を消し、僕は寝ることにした。そして僕が寝た頃一件のメッセージが、届いた。
PM11:57 差出人:蓮
おい、外を見ろ。何かがおかしい。
このメッセージには僕は気づかなかった。
僕は夢を見た。
白い空間にフワフワ浮かんでいる自分がいた。
白い空間には魔法の源の痕跡が。というよりかは白い空間自体が痕跡のような感じである。
頭上に扉がある。
魔道具とよく似た扉。
しかし痕跡を感じられないので魔道具ではないようだ。
そこまで行こうとする。しかしうまく進めない。
必死で扉に手をかけようとする。
だが進むペースは変わらない。
ようやく手にかけた。
扉は軽かった。簡単にあけられた。
扉の向こうは真っ暗だった。宇宙空間のような。
闇の空間だった。
闇から声が聞こえる。
「君なら使える。そして使い方もわかるはず。君ならできる。そしてふさわしい主人公になれるはず。」
聞き覚えがあるような、ないような声だった。
曖昧さが残る声。
僕は思った。そして伝えようとした。
「しゅ…じん…こう…なん…か…くそ…くら…え」
うまく声が出せなかった。
「変わらないね。君は。」
「お兄ちゃん!!遅れちゃうよ!お兄ちゃん!」
僕は奇妙な夢から目が覚めた。そして違和感、というか昨日と違うことがあった。そりゃまぁ今日と昨日では全然違うのだが、そういうことではなくおかしな事?といえばわかりやすいだろうか。
まず1、親が起こしに来てくれない。
自分で起きろと思う人もいるかもしれないが、目覚まし時計で起きても止めてしまい、二度寝にはいることが多いので親に起こしてもらっているのだ。
その2、起こしにきてくれたのが妹だ。
僕と妹はそれほどまで仲は悪くはないが、起こしにくるほどの仲ではないし、お兄ちゃんとも呼ばれたことがない。……小さい頃はお兄ちゃんと呼べとよんでも「かおるー!かおるー!」と呼び捨てで呼んできたので諦めた。
その3、…これが一番不可解だ。明らかにおかしい。ありえない。
世界が…魔法の源の痕跡で満たされている。
満たされているといっても前が見えないほどではない。うすらぼんやりとだが、僕の視界全てに痕跡が写っていた。
ありえない。絶対におかしい。
「なにぼーっとしてるのお兄ちゃん!学校遅れちゃうって!!」
妹の声で我に帰る。そうだ、わからないことよりまずわかることを整理しなければ。
「おい、和美。お母さんは?」
と聞くと怪訝そうな顔で聞いてきた。
「お兄ちゃん…いつも私のこと和美って呼ばないよね?いつもなら和美ちゃんっていうのに…」
……ちょっと待て待て待て。どこの世界に誰が自分の妹をちゃん付け呼ぶ奴がいるんだよ…。しかしここで手こずってたら話が進まない。そして気も進まないがちゃん付けで呼ぼう。
「か、和美ちゃん…お母さんどこ行ったの?」
そうすると不思議そうな顔をして、まぁ怪訝そうな顔よりかはマシになったというわけで、
「え?お母さんなら一ヶ月前から海外出張で家に戻ってきてないじゃない。」
……なんだこれ。なんなんですかこれ。おかしいおかしすぎる。笑えてくる。可笑しすぎる。まるで自分が異世界というかアニメの世界に飛ばされたかの謎さだった。しかもお兄ちゃんて。海外出張て。ベッッタベタのテンプレじゃねぇか。
「お兄ちゃん!とりあえず!ご飯作ったから食べて!達馬さんと智美ちゃんきちゃうよ!!」
妹がご飯…をねぇ。一回も料理したことないのに…ねぇ。
…ここでわかったことは、今いる世界は昨日の世界と何か違うこと。そして人間関係は変わっていないこと。あと…意外と妹が作った朝食が美味しかった。
「あ、いってらっしゃーい!お兄ちゃーん!智美ちゃんによろしく言っといてーー!」
「あ、あぁ。おう…いってきます…」
もうついていけない…。
そういえば勢いで返事してしまったが、智美と妹はよろしく言っておくほどの仲ではないぞ。
幼馴染なので小さい頃からよく家には来ていたがそこまで仲が良くなったとは思えなかった。家に来てもずっと僕の部屋にいたし。
「まぁ…いいか。今日の午後師匠に詳しく聞いてみるか。」
異世界に飛ばされたラノベやアニメの主人公というのはなぜあんなに冷静でいられるのかよくわからなくなってきた。まぁ…所詮は文章か。作者次第で主人公は異世界に慣れるのが早いし、遅くすることもできる。
とりあえず周りの人に確認するのが一番だなと僕は考えた。
浅はかな考えだと達馬と話す時に気づくのであった。
「おはよー達馬。今日も眠そうだねぇー」
「そのセリフ毎日言って飽きないか?」
と後ろから声をかける達馬を見た瞬間驚きを隠せなかった。昨日とは全く違った友の姿に。とはいっても容姿などが変わったのではない。知らないことを知っている友の姿になっていた。知る機会がなければ知ることのない事を知っている姿に。
要するに、彼は魔法使いになっていた。
「なんだい薫、そんなに僕の事を見て。昨日と変わらない顔だよ?珍しいかい?」
「ちげぇよ!!それよりなんでまほ…!!!」
そこまで言いかけて口を塞いだ。ここでなぜ魔法使いになんてなってるんだと言ってしまえば僕が超能力者か魔法使いということがバレてしまう。以前いた世界でも僕は二人には能力を隠していたのでこっちでも僕の「狂戦士」は隠されたままだと思ったからだ。
「すまん。なんでもない。僕のミスだ。」
誤魔化しきれたかな?と思ったら今度は達馬が驚いた顔で僕の顔を見た。
「…なに『僕』とかいい子ぶっているんだい?恐ろしいからやめてくれ…」
ん?こいつは何を言っているんだ?なんの話をしているのだ?僕の第一人称の呼び方の話をしているのか?
生まれて声を発して喋った時から今までずっと『僕』だったのだが…
「いつもは『俺』だろう?いつものように喋ってくれよ」
浅はかな考えだと思った。自分が周りの意識が変化していなくても周りから僕の意識が変化していないとは限らないのだ。たしか昨日フリンさんが結界を張ってくれたおかげなのか自分自身は変化していないらしい。しかしそれはあくまで自分だけであって、周りからの意識は守られることはない。
そして多分蓮も師匠も、フリンさんもムーさんも変わっていない。
というか周りが変わりすぎだ。といってもこのままだと達馬とも話が進まない。どーにかして言い訳をー…
「え?そうだっけ?僕は僕だよ。…実は言うとね、僕は今なぜか、記憶が曖昧なんだ。なにかの病気かもしれない…いや、友人関係とか勉強関連とかはっきりしている…だけど…あの…」
我ながらいい言い訳である。これだとこんなバカすぐ騙されてくれるだろう。バカだから。
「もしかしてだけど…自分の正体も忘れてるの?」
ほらー騙された。バカだ…ん?自分の正体?
「いや、言った通り自分の事とかはわかってるよ。
僕は西宮薫で高校2…」
「いやいやそうじゃなくて。」
ふぇ?なにを言っているんだ?僕は僕だろう。普通の高校2年生の西宮薫だろう。さほど強くもない「狂戦士」の能力を持つ普通の人間。それ以外に何が?
「自分が魔法使いだということも忘れたのかい?」
僕はとうとう頭が追いつかなくなった。




