西宮薫は覚悟する。
「こっちが大人しく待ってりゃあ調子こきやがって…ぶっ殺してやんよ!!!」
グラウディングのメンバーは校舎内の物を破壊し周っていた。
教室の扉、窓ガラス、机、ロッカー。
あらゆるものを破壊していた。
その様子は外にいる僕達にも分かるぐらいだった。
「………派手に暴れてるな」
「もー!!先輩がいない時に限ってこれだよ!!」
「儂らでなんとかするしかないのぉ」
「……フリンさん、なんで僕だけワープしてくれなかったんですか…?」
僕は息を切らしながら聞いた。
BARから学校までくるのに僕以外は、もう一度言おう。大事なことだからな。
僕以外は!!
ワープで来た。
先生が電話を切った途端全員消えていった。
綺麗に僕だけを残して。
嫌われてるのかなぁ。
「さて、戦闘開始といくかの…」
僕のことは完全に無視し、フリンさんが先に校舎内へと入っていった。
「フリンさんって気が早いんだねー」
達馬が呑気な声を出して言った。
この状況でこの落ち着きようは異常であったが、伊達に超越者と一緒に過ごしてないんだなと思った。
『俺薫』と、相当無茶してたんだなぁ…。
なんか罪悪感。
「…俺は魔法も使えんし身体強化持ちでもねぇからな。直接的な戦闘は避けるぜ。いつも通り、薫の援護に回る」
「お、おぉ。そこは相変わらずなんだな蓮」
「変わってんのはお前の方だ」
元の世界でも僕と蓮はツーマンセル、ペアを組んでいた。
といっても、基本的には戦闘なんかない。
平和な世界だったからね、少なくともこっちよりは。
『未来視』で先を見て僕に無線機で報告、そして僕がそれに合わせ行動するのだが、これは蓮にとってすごく負担になるのだ。
未来に合わせて行動を変えれば、それによって未来も変わるからね。
常に異能力を発動してなくてはならない。
皆普通のようにやっているが、これが結構しんどい。
師匠や先生のような熟練者ならまだしも僕達は高校生、まだ半人前の異能力者なのだ。
これで蓮が鍛えられることを信じている。
頑張れ。
「じゃあ行きますか…」
僕は心底嫌な戦闘へ向かうのである。
通常の、特別嫌いの僕に戻って…戻るという言い方は変かも知れないが、普通の僕になってからは戦闘という現場が一番危険な場所だと認識している。
非現実的なその場所は一番普通に遠く、『俺薫』にとって一番普通に近いからだ。
戦えば戦うほど僕は僕でなくなってしまう。
そしたらゲームオーバー。もうこの世界は元には戻らない。
不本意だがこの世界では僕が主人公らしいからね、この世界に染まってしまったらそれで物語が完成してしまい、元には戻らなくなる可能性が高い。
それは何としても避けたい。
それを見越してムーさんは『俺薫』にはなるなと言っていたのかと思うと、さすがは元(今もだが)世界3強である。
「………ぼーっとしてないで行くぞ」
「あ、はいっ!…むー…さん?」
「………呼び方はなんでもいい」
なんか達馬とムーさんが絡んでるのを見ると新鮮だなぁ…。
となんやかんやで校舎へ入っていった。
フリンさんは先に行ったのでどこにいるかわからず、蓮は無線機を僕に託し外で待機。達馬はムーさんと行動を共にしているらしい。
早速姿が見当たらないが…。
先生はー…あれ、先生は?
「よお……西宮薫…だったか?」
後ろから、グラウディングと思われる人物が僕に話しかけてきた。
僕は振り向きとっさに身構えた。
が、
「…ッ!?お前の…手に持っているものはなんだ…ッ!?」
グラウディングのメンバーの手には、丸い形の、何かを掴んでいた。
頭部に似た何か。
いや、あれは頭部だ。
人間の頭。
髪を掴んでいる。長い髪から女性だと判断できた。
が、そこまで冷静でいられるほど僕は主人公補正はかかっていなかった。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」
『ど、どうした…!?薫!!大丈夫か!?』
無線機から蓮の声がする。僕の声に驚いたのだろう。
「いやぁ…この女はさぁ、俺が何回も告白して何回も想いを伝えてやってのにさぁ、ゴミを見るような目で気持ち悪いしか繰り返さなかったんだよなぁー…。殺す前にブチ犯した時のあの顔よ…ッ!!はぁあ!たまらねぇ!!!」
よく見るとそいつは同級生の男子だった。
何組かは忘れたが。というか初めて見た顔だ。
「………」
僕は相手が何言っているかは全く覚えていない。
というか聞いていない。
腕や脚を切り落としたことはあるし見たこともある。
だが、頭部を切り離し持ち歩いているなんて初めて見た。
気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。
「気持ち悪い…」
僕はボソッと呟き、吐き気を堪えた。
気を緩めたらすぐに吐きそうだ。
「……オメェもそーやって…俺のことを…キモいキモいキモいキモいキモいキモいキモいキモいキモいキモいキモいキモいキモいキモいキモいキモいキモいってェエェェェ!!!」
そういうと男は襲いかかってきた。
頭部をハンマーかのように振り下ろしてきた。
とっさに回避するが、床に叩きつけられた音は耳を塞ぎたくなるような音だった。
「んんんんん〜!!たまらねぇなこの音!!!さっきまでやめてごめんなさい許してしか言えなかったこのクソみたいな頭がゴッシャゴシャに潰れる音はよぉぉぉお!!」
男は再度襲いかかってきた。
なぜこういった時だけ現実的なのだ。
僕はこの世界を恨んだ。
『…左上頭上から頭部による攻撃…ッ!回避することによって相手左肩への攻撃が有効、命中率100%』
僕は無線機からの言葉で反射的に、『狂戦士』を発動し、男の攻撃を回避、左肩へ右足での蹴りを入れた。
「ッ!!…速ぇな…」
男は肩を抑え、持っていた頭部をどこかへ投げた。
ガシャンッと言う音がする。
その音は、僕の心をかき乱すのに十分であった。
無線機から聞こえる声も男から放たれる言葉も僕の耳へは届かなかった。
これが戦争。
戦闘ではなく、戦争。
魔法組織同士とはいえ、非道の限りを尽くし視界に入る敵を殺す。
これが戦争。
「ぁぁ…あぁぁ…」
「ハッ…上の奴らが西宮には気をつけろとかなんとか言ってたがよぉ…正直拍子抜け、ガッカリだぜ…こんなもんでビビって声も出せねぇなんざなぁ!!!!」
男が強く地面を蹴り僕に近づき、みぞおちに拳をめり込ませた。
「爆ぜろ…『圧縮』ッ!!」
人間は殴られたぐらいでは吹き飛ばない。
体が浮くことすらない。
しかし魔法による身体強化を行うことでこの法則はいとも簡単に破られるのである。
「グハァァッ!!」
僕は入って来た校舎入り口の壊れた扉と共に校舎外のグラウンドまで吹き飛んだ。
『ピーーー…ガガッ……おるッ!薫!大丈夫か!?』
外に出た僕に気づき、蓮は学校から距離をとった。この通信がバレてしまえば真っ先に蓮が殺されるということを分かっていたからだ。
「グ…強化してないとこんなに痛いんだな…」
だが、この一撃で正気に戻った。
そうだ、覚悟を決めなくては死ぬ。
そこで負けなのだ。やらなくてはならない。
他でもなく、僕が、やらなくてはならない。
「よぉ…まだ息の根があったか」
『…そいつの異能力は、分かっていると思うが『圧縮』。ある程度の距離の空間を圧縮、そして元に戻すことができる』
あぁ、分かってるさ。
僕が食らった一撃から僕が吹き飛ばされるまでラグがあった。
これは殴ってから空間を圧縮し、一気に元に戻す事による反動で僕を吹き飛ばしたのだと考えていた。
しかも殴ってから発動したのだ。
異能力を発動できる有効距離は限りなくゼロに近い。
言うなれば、触れなければ発動できない。
「…ッ。今のは効いたぜ…。というかさっきごちゃごちゃ言ってたが、なぜ僕の名前を知っている?」
僕は初対面だと思っていたが相手からは違うのか?さっきから僕のフルネームを口にしているような。
出会った時も西宮薫と、ちゃんと口にしていたし…。
「ほー…まぁ他クラスだから仕方ねぇか。俺がお前を知ってんのは上の奴らがお前の名前を腐るほど言ってるからだよ、西宮薫。よかったなぁ。人気者だぜ?」
「全く嬉しくないね」
「はぁーん…。俺も人気者になってみてぇなぁ…お前の首持って帰れば俺も組織で人気者なんだがなッッ!!」
『右腕から圧縮攻撃、そして相手は圧縮を利用して一気に距離を詰めてくる!!気をつけろ!!』
よし、落ち着け。僕には蓮がいる。蓮の未来は絶対だ。みぎからの攻撃は…こうだ!!
「ッ!?ほー…」
落ち着いて対処すると男は少し驚いた表情を見せた。
「驚いたぜ。避ける事に関しては一人前なのな」
「伊達に修羅場潜ってないんで」
蓮の未来が少し外れた。
圧縮での急接近はなく、先ほどとの同じ間合いのままである。
『…すまん薫…。未来がまた見えなくなった…』
こっちの世界で蓮が未来が見えなくなることが多々ある。
最初は世界が変わった直後だ。
世界が滅びる未来ともう1つの未来。
そこから先の未来が見えなくなるという現象。
あとは日常時に時々あった。
まさか戦闘中に起きるとはな…。
「大丈夫だ…なんとかするよ…」
正直にいうと結構心細い。
相手の圧縮による超接近は僕の『狂戦士』を使用した時のスピードに近い。
それを未来予知なしの対応は結構難しい。
というか不可能に近い。
体を強化して耐えるしかないのか…。
「楽しい楽しい殺し合いを始めようぜェ」
男はニヤリと笑った。




