西宮薫は戻る。
「お前…死ぬぞ?」
蓮が言っている意味が分からなかった。
死ぬ?
いや、死ぬかもしれないけれどそれは戦いの中であって、今の平和な日常生活では死など無縁に近いものだろう。
「ハハ…どーしたんだ蓮。頭くるってんじゃないか?」
「狂ってんのはお前だバカ。お前、最初にムーさんに言われたこと覚えてないのか?」
はい?…ムーさん?……。
「えっと…?」
「バカが。…でもおかしいぞ。結界は張って貰ったんだし、どんな影響も受けないはずでは…でも主人公の力で捻じ曲げ…いや、でもフリンさんの力は…」
蓮が目をそらしブツブツ言っていた。
最初に?ムーさん?
あっ。
「『特別なんか必要ない。』このサムい言葉はこの世界でも僕のモットーだよ」
蓮がブツブツ下を見てなんかを言っていたが、その言葉を発するのをやめ、こちらを呆れたように見上げた。
「はぁ…全く。最近のお前はこの世界に、この環境に慣れすぎている。らしくもない。なにが超越者だ。普通からかけ離れ過ぎだろ。いつ『俺薫』に取り込まれてもおかしくはないな」
そうだ。
僕は元の世界に戻るため、普通の生活に戻るために普通を忘れかけていたのか。
目的も、普通の世界に戻り、モブ化してしまった彩さんを救うこと。
グラディエーター、沼西を救うことではない。
まぁそれも目的だけども。
第1の目的、最優先事項は彩さんのモブ化を壊す。
このテンプレ世界を壊して、モブ子にもう一度恋をすることだ。
「ありがとう、蓮。最近僕はアニメ、ラノベの非日常的なテンプレ世界に慣れてきてしまってたようだ。テンプレ現象、元の世界ではありえないようなこともスルーしてしまっていた」
「よかったな。まだ助かって。因みにな、あの俺が助けた女子生徒、あれ斎藤彩だからな?気づいてなかったろ」
それだけを告げて蓮は教室の扉を開けて自分の教室へ帰っていった。
僕は頭の中が真っ白になった。
普通のスルーしてしまったとはいえど、あの彩さんを、認識できなくなってしまうほどテンプレ病が進行しているなんて…。
ヤバいヤバいヤバい……ッ!!
一刻も早くこの世界をオサラバしなくては!!
「いい友達を持ったね」
いつの間にか隣に香菜先生がいた。
「アヒャン!!!!!!!」
「変な声出さないでよ…」
「変な登場しないで下さいよ…」
驚きのあまり声が出てしまった。いけないいけない。
「いやー先輩も薫君のこの世界へ馴染み過ぎて心配していたんだよ?なんかつまんないオトコになりかけてるとかなんとか言ってた」
「それ心配してます?」
「まぁでも、蓮君のおかげで助かったよ。私と先輩が動く手間が省けてね!」
「心配というか面倒くさかっただけじゃないですか!!」
「まぁ君にはこの世界を抜け出すために必要不可欠な存在だからね、この世界に染まっちゃあいけないっていうかー困るっていうかー…」
ぬっ?
僕が必要不可欠な存在?
さっき思い出したというか気づいたからなんか変に思われるかもしれないが、僕は普通の人間、普通でいたい人間なのだ。
元は、ね。
だからなんか必要だとか、不可欠だとか、そういった言葉には縁がなく僕は全然先生の言っている意味がわからなかった。
「ぼ、僕がですか?」
「いや、だって蓮君の未来視によれば薫君ともう1人の男の子が重要なんでしょ?じゃあ必要不可欠じゃない」
いや…でもそれはこの世界滅亡、人類滅亡を防ぐ為の必要なシーンなだけで、このテンプレ世界を壊す為の必要不可欠な存在ではないはずだ。
多分、この世界のことは蓮寺家の人達とかがなんかしてくれるだろうと考えている。
まぁ結局、大きな事は上の人達が解決してくれるだろうと考えている。
皆だってそうだろう?
どっか基地が移設だとか、外交問題がどーとか、やっぱり僕達一般人はどうすることもできない。上の人達に任せるしかないのだ。
まぁ色々やることはあるかもだけど。
結局この世界だって、何が原因で作られたかもわからないし……
ん?
僕がいつも見てきたラノベやらアニメやらでは、異世界に飛ばされるときそれは大抵、エルフやらドワーフやらファンタジー性の強いものだったりがいたりする。
…。
僕が入り込んだこの世界はそんなものはない。
元いた世界が基盤となってできている…。
他の人は同じようで、魔法使いだったり超能力者だったりモブだったり、存在的には色々違うけれど、基本人格や名前、種族などは変わっていない。
僕は大きな勘違いをしていたのかもしれない。
この異世界に、テンプレ世界に飛ばされたのではなく、元の世界がなんらかの力によってテンプレ世界に変えられたのかも知れない。
だからテンプレ世界を壊すことはできない。
世界を壊せば僕もたちまち沼西と同等の犯罪者。というかテロリスト。
……。
そんなことが、いくら魔法であってもできるのだろうか。
異能力自体は自身に影響を与えるものや、空間に影響を与えるものが多いが、世界規模の広範囲となると、それはいくら師匠やムーさん、フリンさんでも不可能。
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絶対にできない。
異能力の力では不可能。
ということは異能力の力で作った魔道具でも不可能と考えることができる。
…そもそもなんでこんな世界ができたんだ?
「…?なーに考えこんじゃって…薫君いつも考えるとき下向いてブツブツ言うよね」
そんな癖が…。
「そうですか…?嫌な癖ですね…って先生!!僕色々考えてたんですけど、この世界って…」
「元の世界を基盤としている…と言いたげだね」
僕が言い終わる前に先に先生が言葉の続きを言った。
「え…知ってたんですか」
僕がドヤって言いたかったのに…拍子抜けだ。
というよりなぜ知っていたのに教えてくれなかったんだよ!!
「そりゃそうさ!いやーここまで分かってくるなんて中々上出来だよ薫君」
全てを知っているような口振りが鼻に付く。
この人は…いや、この人達水蓮寺家はどこまで知っているんだ?
「…先生や要さん達はどこまで知っているんですか…?」
「詳しくは私も知らない。けど先輩はほぼ分かっていたような感じだったよ。教えてはくれなかったけど」
「なんで…」
それが元の世界に戻すキーになるかも知れないのに…。
なぜ黙っているのだ水蓮寺要。
「いやーなんかバランスの問題なんだって」
そこまで言うと、先生のケータイが鳴った。
「ちょっとゴメンね……もしもし!はーい!香菜です!はいはい…はい…」
最初は明るい感じで電話の対応をしていたのだが、話を聞いているうちに顔が真剣になっていった。
その雰囲気に僕まで緊張した。
と、電話切った後すぐ僕の方を向いて今までにないくらい真剣な表情で僕に言葉を残した。
「……薫君。ちょっとやばい事態になってきたかもね…」
そう残すと、走って教室を出て行き学校を後にした。
「なんだよ…意味深な言葉ばっかり残しやがって…」
少し不満を感じながら腕に付けている時計を見ると、1時間目の授業開始時間をとうに過ぎていた。
緊急的に呼び出されたとはいえ、遅れていく生徒達はせいぜい10分程度。
僕は30分。
「ここでも僕は普通の生徒と仲間はずれにされるのか…」
主人公体質とは全く関係ないが。
ただの言い訳だが。
これは蓮と先生が悪い。
うん、正当化しよう。
と思い、先生が開けっ放しにしていった空き教室の扉を、教室から出て閉めようとしたタイミングで僕のケータイは鳴った。
その時、僕は煌蓮寺楓の殺害を師匠から知るのであった。




