黒と煌
黒蓮寺由紀はオーバーロードの幹部、サーマルキュレーを追っていた。
希の話ではグラディエーターの右腕として働いており、相当な実力者。だが、グラディエーターには遠く及ばず、黒蓮寺が相手取れば敵ではないと言っていた。
黒蓮寺。
その組織ほとんどが闇堕ちした異能力者で構成されているが、心が闇に染まった後、由紀に救われた者達だ。
なので悪い集団ではない。
ならず者の集まりではない。
そして。
通常の異能力より上回る力。
それが闇堕ちした異能力。
当然戦闘力も蓮寺家の中でズバ抜けている。
…木蓮寺ほどではないが。
そもそも木蓮寺には組織という者がない。
強いていうならムーさんと言われた男、フリン、蓮、そして西宮薫が挙げられるだろう。
前木蓮寺当主、最高権力者の時には組織というものがあったらしいが、希の代になってから作らなくなった。
希は集団が嫌いらしい。
なので戦闘特化の木蓮寺家は、ほぼ希の戦闘力だけで名前が知られているのだろう。
それほどに、『超越者』というものは強い。
魔法に超能力がついただけではない。
超能力というのは、魔法力を上げることが異能力研究で発表された。
その超能力の能力に関わらず、自身の魔法力を底上げする。
それに希の超能力は『愚者』。
超能力の例外に値する力である。
圧倒的な魔法、例外に値する『愚者』。
この超越した力を持った者が『超越者』である。
超能力と魔法を持った異能力者は世界で1人しかいないので、超越者と言ってもそれは木蓮寺希しか該当しないのである。
話を戻すとしよう。
この圧倒的な戦闘力を持った集団、黒蓮寺が目指すのはエジプトである。
いつもサーマルキュレーはグラディエーターの近くにいるわけではなく、アジトとしている場所があるらしい。
そこがエジプト。
詳しい場所はまだ分かっていないが、それはおいおい考える。
まずは向かってから、というわけだ。
サーマルキュレーを叩けばオーバーロードは致命的欠如となる。
相手の士気を下げてこちら側の勢力で圧倒するのが目的だ。
「それに…」
それに。
「拓郎は相当な実力の持ち主。オーバーロードに入ったならば、幹部クラスの座になっていると考え、オーバーロードの幹部、サーマルキュレーのアジトへ向かうのですね、我が君」
と飛行機の中で由紀と八戸彦が話していた。
中は一般的な物とは違い、プライベートジェットのような自由空間がある。
そしてこの飛行機は魔法の力を使い動いているので、エジプトまでは30分もせずに着いてしまう。
機械と魔法の融合というのは難しいらしいのだが、日本の技術により、運用できるほど安定が取れたのだ。
「そう…。まぁ、しかし幹部1人1人にアジトがあると仮定するならば、拓郎はエジプトにはいないわね…」
「ですが我が君。途中から組織に入ってきた者にトップを張らせアジトを預けるなど、普通の組織なら考えられません…。なので、サーマルキュレーの手下としている可能性の方が高いかと」
「そう言われればそうね…。あの阿呆がどこかへほっつき歩いてただけ、という結末が一番嬉しいのだけれど…」
「違いありませんな」
由紀と八戸彦は上品に小さく笑う。
黒蓮寺家が飛行機に乗って20分が過ぎようとしている。
もうそろそろエジプトに到着だ。
「ふむ…そろそろ…」
由紀が機内についている時計を確認して指揮を取ろうとした時に。
「な…んだこりゃあ……ッ!?!?」
飛行機を操縦していた黒蓮寺家のパイロットが驚いていた。
「どうした!?敵襲か……なんだこれは…!?」
その声に反応し操縦室に向かった八戸彦も驚愕していた。
「我が君ッッ!!!!」
八戸彦が操縦室から由紀に顔を向けた。
その顔は恐怖と焦りと憤怒が混ざったような表情をしていた。
「ど…どうした…?」
「エジプトが…」
「エジプトが……ないです…ッッッッ」
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煌蓮寺楓はいつもの通り、魔道具作りに勤しんでいた。
いや、いつもの通り勤しんでいたのだが、今回は少し違った。
「…ッ!…これでよし…。渚君、渚君」
広い研究室には楓専用の部屋がある。その中で楓は大きい声で呼んだ。
目線は完成した作品を見たままである。
「はいはい聞こえてますよ博士」
助手?的な立場の煌蓮寺渚を呼んだ。
楓は手下の者に博士と呼ばれているらしい。
「君は僕の後を継ぐ煌蓮寺を名乗る者として、見せなければならない道具がある」
「あぁ…はい。もう名乗っていますけど…」
代々蓮寺家の最高権力者、つまり当主というのは蓮寺を名乗る決まりになっている。
たとえ名字が別のものであってもだ。
元は違う名だったが、今は煌蓮寺渚として、楓に仕えている。
とは言っても煌蓮寺は蓮寺家の中で少し特殊な集団だ。
あまり戦闘には参加しないらしい。
実力こそはあるものの、自分が発明した道具を戦闘に役立ててほしい、裏方の仕事が大事だからね、と楓はいつも言うのであった。
楓が発明した魔道具を日常的にどう使えるか研究し、それを普及するために量産することを計算するのが煌蓮寺一家のスタイルだ。
例えばBARで使われているあの扉なんかも煌蓮寺で考えられたものだ。
その時の最高権力者は楓ではないが。
「で、見せたいものとは?」
「あぁ…渚君、僕がいつも言っていた言葉、覚えてる?」
「聞いてもいないのに、モノを作ると毎回僕に言うから嫌でも覚えてますよ。『僕が作りたいものは虐殺の道具じゃない、大切な人を守るための道具だ』でしたっけ?」
「そう!ピンポン!それだよ」
楓は戦闘に使うための魔道具だって作ることもある。
一番普及しているのは対異能力拳銃である。
これは異能力を持たない人でも、異能力者と戦えるようにと作られたものだ。
今の日本の警察が所持している拳銃は大体対異能力拳銃である。
しかし、警察はそれを知らずに、普通の拳銃だと思い込み使っている。
現実世界では、異能力世界と一般的な世界とは干渉しあってはいけないタブーな関係だったからだ。
時々、異能力を持たない警察が異能力持ちの悪党を逮捕する時がある。
楓の発明品は世の中で大いに役立っている証拠でもあった。
「そう、僕は虐殺の道具を作りたくない、しかし大切な人を守るためにとなるとそりゃあ大きな力を秘めてしまう。…ようするに、扱い方次第では虐殺も守ることもできてしまう」
「……言いたいことはわかります。でも今までのモノでそんなものは無かったはず…」
「そう!僕は天才だからそんな無理難題もサラッとこなしてしまった。…しかし今回の、この世界での騒ぎで僕はその無理難題を超えることができなかった。僕は大量虐殺兵器を作ってしまったのかも知れない」
「…最初の部分は腹立ちますが、博士が そんなモノ、作ったんですか?…あれだけ嫌っていたのに」
「だってそれでしか勝機がないんだ!!!」
机を叩き叫ぶように言葉を吐き、楓は俯いた。
少し沈黙が続いてから楓は続ける。
「知っているかい?…あぁまだ君には伝えてないから知らないか。あの木蓮寺希がグラディエーターと一戦交えたらしい。希が言うには、私でも勝てるかわからねぇと言うほど今回の相手はそれほど凶悪で強敵なんだ。なんせあの『愚者』が効かない……え?」
実際には希が交えたのはサーマルキュレーの方だが、細かい事はあまり希は説明しなかったので、そういう解釈をしていた。
「どうしたんですか博士?その話してる途中で疑問を浮かべて黙るのは悪いクセですよ」
楓は自分の発した言葉で疑問が生まれることが多い。
楓が言うには『僕の頭の中には知識と発想と天才で埋まっているから言葉を考えるという無駄なスペースを入れるほど余っていない』と言うらしい。
自分の発言から疑問が生まれることがあるというなら、本人が言っていたこともあながち間違いではないだろう。
「いや…でも…あれは……」
楓は色々考える。
「博士!!!それよりも、このモノを説明してください!!」
こうなった楓は疑問が溶けるまで考えるのをやめないので強制的に思考を切らす。
「あぁ…そうだったね…。これは『魔剣』だよ」
「魔剣…博士が前に作った『聖剣』と対となるものですか?」
「いや、違う…。言っただろう、大量虐殺兵器になるって。この剣を所有するものは、というか使った、剣を振るった者は…」
「者は…?」
「まぁ…個人差もあるけど5分で魔剣の呪いにかかり死に至る。もって…せいぜい10分かな?」
「…そんなデメリットしかないものをよく作りましたね…。実力が拮抗する者同士の戦闘なんて、優に5分を超えるでしょうに…」
「いや、超えない。拮抗しない」
キッパリと言い切った。
「この剣はね、超越…あまりこの言葉を使うのは良くないかな…いや、この世界だから良いか。『超越者』と似たような力を手に入れることができる」
超越者という言葉は一般的な異能力者の間ではタブーな言葉だ。しかしここで気を使う必要などないと判断し説明を続けた。
「この剣がね、魔法の力を向上させる超能力の働きをしてくれるんだ。超越者のメカニズムを調べ、それに改良を加えた。既に超越者であっても能力をブースト、超能力しか持っていなくても能力をブーストできるようになっている」
「…画期的な発明ですね。この剣さえあればグラディエーターもワンパンでしょう」
「いや…これは肉体の限界を遥かに超える力だからね、そう長くは体が持たない、だからせいぜいもって10分、普通ならば5分が限界なんだ。僕はこの肉体の負担を呪いと呼んでいるがね…。あと、ここからが大量虐殺に繋がるのだが」
「まぁここまでしか聞いていなかったら、諸刃の剣、最終手段で使えるジョーカーとしか思いませんね」
渚の相槌を見てから、少し間を置いて続けた。
「…僕の頭では、知識では、心まで制御できなかったんだ」
「……博士が無理ならこの世界誰でも無理でしょう…」
悟ったように渚が呟く。
「……この剣を振るった者は、力に取り込まれ、破壊衝動を抑えきれなくなり周りの全ての命を破壊する。これがこの『魔剣』最大の呪いだ。自分の心をまず一番先に破壊し、周りの命を破壊する。そして肉体の限界が訪れ当人も死ぬ。そして誰がが死体に転がっている『魔剣』に惹かれ手にし…負のループさ」
「……公表すべきではありません。禁魔道具認定は勿論のこと、異能力者が所持することさえ許されないものでしょう。…それは博士が持っていて下さい。この世界を終わらせる1つの鍵になるかも知れません」
「なればいいのだけれどね…そうだ、渚君、考え事をしたいから1人にしてくれないか?」
先ほど抱いた疑問について考えたいらしい。
渚は一礼して楓専用室から出る。
楓は考えた。
なぜ僕はあの発言で疑問を抱いた?
木蓮寺希も言っていた、グラディエーターに勝てるかわからない。
そりゃあ世界最強のあの女も、この世界では世界最強ではなかったというだけだろう。
いや違う。あの女は、木蓮寺希はどの世界でも最強な筈だ…なぜなら『愚者』を持っているからだ。どの異能力学者が、僕が考えても答えにたどり着けなかった『愚者』のメカニズム。
強き者に必ず勝利し、弱き者に必ず負ける。
しかし魔法の力だけでも世界最強を誇れるほどの力。
強き者に勝利し、弱き者に勝利する。
この定理を覆すことができるのか…?
いや、…それができるものがある。
これは…初代煌蓮寺当主、最高権力者が作ったと言われる、今でも第一級禁魔道具だ…。
いや、まさかアレが盗まれた…?
それはない。なぜならアレは…
そういえば確かアレを巡って…2年前くらいか?騒動が起きたような。確か西宮義人と水蓮寺要が関わっていたな…。
あの2人が口に出していた名前…。
あぁそうかだからか。だから西宮薫が主人公なのか。
分かった。
これは木蓮寺希に報告しなくてはならない。
と、楓が自分専用室のドアノブをひねろうとした時。
「貴方は本当に頭が良いですね。参りましたよ」
誰もいない自室はずの、楓しかいないはずの自室から声がした。
声の主は黒のマントに身を包み、全身闇堕ちの魔法で満ち溢れていた。凄まじいオーラだ。
その気配に気づいたのか、扉の向こうから渚の声がした。
「博士!!!!開けてください!!何があったんですか!!!」
「無駄だよ煌蓮寺。貴方の声は向こうまで届かない。貴方の導き出した答えは届かない」
いくら楓がドアノブをひねっても扉はビクともしない。
楓専用室には扉以外に情報を与えるものはない。窓もなければ、ガラス張りでもない。
完全に鉄。音さえ外に漏れない。
しかし扉付近なら別である。しかしその扉さえも楓を拒否している。
楓は即座に外に伝えることを諦め声の主の方をむいた。
「…僕の答えはあっているかな?」
声の主に問いかけた。
「大方ね…。でもね、貴方はもう少し考えれば全てが分かるはずだ。この世界を作り出した者が。協力した者が」
楓は考え、答えが導き出され、驚愕した。
「ま、まさか……そんなはず…なぜならアイツは…」
「ハハッ!!答えは出たようだね。…そして」
「ッッッッッ!?!?」
「答えは闇へ消えていく」
声の主は姿を消した。まるで粒子のように分散するように姿を消した。
楓は気づくと自分の胸に『魔剣』刺さっていた。
じっくりと『魔剣』の呪いで楓の体を破壊していくのが分かった。
ようやく扉が開くようになった。声の主が張ったある種の結界だろう。薄れゆく意識の中楓は考えてた。
「博士!!!博士!!!…楓さん!!!!何があったんですか!?!?楓さん!!!」
楓は最後の力を振り絞り、後継者である渚に伝えた。
「煌蓮寺…『聖剣』『魔剣』の事は……頼…む…。渚君が……これからは…引っ張っていけ…」
「ダメだ!!楓さん!!!死んじゃダメだ!!!考えることを…止めるな!!」
「もう……考え……飽きた…かな…答え…は……出たし…ね…」
吐血する。刺さっている胸からも大量の血が流れている。
顔が渚の涙で濡れる。
「……渚…君…。聖と魔は…対に……主に捧げ………『木蓮』には………」
そこで楓の意識は途絶えた。




