西宮薫達は始める
攻撃は通らなかった、というか誰かに止められた。
今の状態…白虎の拳を止められるなんて…。
ありえないと思っても不思議ではない。
触れれば大ダメージ、攻撃となれば致命傷…いや、即死レベルである。
それを……手のひらで止められた?
「いやー…頑張って特訓したんだね。短期間でこんなに強くなっているとは、到底思わないよね。こいつの『大袈裟な道化師』を超えてくるなんて、僕も予想外だよ。でもー…強くなればなるほど、僕は困るんだけどね」
止めたのは、先生ではなく、違う男だった。
『大袈裟な道化師』…こいつはコピーと言ったか。
なんでコピーという単語から大袈裟な道化師って分かったかは、それは主人公補正と考えてもらって構わない。主人公補正というか、小説とか漫画である当て字みたいなものだ。
こいつの登場で先生に感じていた嫌な感じの正体が分かった。
こいつに似ていたからか…。
「水蓮寺…要……」
「アハハ!僕を覚えていたんだね!いや、君の専属になったんだ、覚えてて当たり前かな?…と、」
くるっと振り返り先生の方を見た。
先生は綺麗な気をつけ状態で立っていた。
「ねー?カナちゃん…それを使ったら薫君を殺しちゃうかも知れないし、殺されるかも知れないから使うなって言ったよねー?覚えてるよね?」
ビクッッ!となって先生は下を向く。
相当に怖がっているようだ。
こっちを向いていないからわからないが、今要は笑いながらもめちゃくちゃ怖い顔をしているのでは…と思った。
「はい…先輩ぃ…でも、死にかけましたよぉー…」
「まぁ薫君の成長は予想外だったからね、今回は許してあげるよ」
要は説教を終え、僕の方を向いた。
いつもの憎たらしい笑顔だ。
「なんで、カナちゃんがここにいたかを説明してあげる。僕もグラウディング勧誘を見張っていたからさ。そして、メンバーをこの廃ビルで見つけたから、カナちゃんにボコしてもらって、洗いざらい聞いたさ。それでね、その狙われてた生徒ちゃんからなんか情報を聞き出せないかなーって思ったんだ。…今回の生徒ちゃんは、なんか他の連れ去られた生徒ちゃんと違う感じだったからね」
ほーう…まぁ辻褄があうな…。
え?でもなんで僕をここに連れて行かせないようにしたんだ?
「じゃあ、なんで僕を先生は教室に居残りという形で、連れて来させないようにしたんですか…?」
そう、先生がここにいる時に思ったんだ。
居残りをさせるということは、僕をここに来させたくない理由があるはずだ、と。
無理やり理由をつけて居残りにさせたもんな、達馬と一緒に。
「それはー…」
「それはね、君に言っても信じないと思うから、今は言わないでおくよ」
先生の言葉を遮り、要は答えた。
「信じないじゃなくて、信用してないからの間違いじゃないですか?」
僕はこの男がどーしても味方に思えない。
バランスがどーたらこーたらいってるけど、蓮寺家の1人だ。この世界では共闘するはずなんだが…
どーしても思えない。
「ハハハ!!とことん僕は嫌われてるなぁ。信用はしているよ。信じてはいないけどね」
コイツ日本語不自由なのかよ…。
何言ってるかわかんないよ…。
「っと、こーしちゃあいられない。僕は仕事があるんだよ。…あーそうだそうだ、カナちゃんもBARに連れてって。そこで色々聞いちゃってね」
そう言うと、要はどっかへ行ってしまった。
というか台詞を言った瞬間消えた。
…。
「…先生も来んのかよ」
正直、もう家に返して欲しい。
ムーさんにも聞きたいことあってBARには寄る予定だったが……うん、なんかもう疲れた。
てか白虎による自分への負担ダメージがデカい。
全身めっちゃスゴい筋肉痛みたいになってる。
歩くと痛い。
「えー、行かせてよー薫君のひみつきち、見せてよー」
「幼稚園児に言うような言い方すんな!!ひみつきちって言うな!!」
しかもひらがなでな。
すんごいちゃっちく見えるだろ。
なんやかんやして、
僕達はBARへ向かった。
「うぃーす…変な客人がいますよーっと…」
合言葉を言って…というか、もう『あ、薫です』と言うだけで扉を出現してくれるようになった。
中には、ムーさんとフリンさんしかいなかった。
「………最近、知らんやつらがここを出入りするな」
「だいたい蓮寺家じゃがな…その小娘も蓮寺家かの?」
お、鋭いなフリンさん。
「もー!!!小娘じゃない!!だいたい、歳あんまり変わんないでしょ!!」
歳のことは、あんまりフリンさんには振らない方が…
「ほーう…儂もまだまだピチピチというわけかの」
「………実際の年齢聞いたら驚くけどな」
「殺されたいんか、若造」
「………遠慮しとく」
あのムーさんが引くとは……
フリンさんの実力って一体…
いや、凄いのは分かってんだけども。
「そーいえば、師匠どこ行ったんですか?」
「あーあれじゃ、会議とか言っとったのぉ」
「そう!!それ!」
先生は急に手を叩いて声を上げた。
びっくりする。
「それを説明しろって、先輩に言われてたの!!」
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蓮寺家の会議。
蓮寺家の最高権力者達が集まった。
「遅いぞ、要。どこで油を売っていた」
「ごめんね、由伸くん。ちょっと後輩を叱ってたんだよ。会議にはギリギリ間に合ったんだから、許してよ!!…というか、今回は集会ではなく、会議なんだね」
「そうだ、今回は注意やら監視やらの話ではない。異能力組織総出で行う、グラウディング、オーバーロードを殲滅することを議題とする。希の話によれば、3ヶ月後にグラディエーター軍が世界へ一斉攻撃を仕掛けるらしいな。その攻撃の前に、こちら側が先に先制攻撃をしグラディエーター軍の戦力を削ぐ。…来たるべき日のために」
全員の表情は真剣そのものだった。いつものように、のほほんとした空気は一切感じられない。
「コンタクトは…日本の機関や世界の大きい機関は私達でできるが…大半を希に頼ってしまうかもしれん。すまないな」
「なーにかしこまっちゃって。似合わねぇ。…借りってことにしといてやるよ」
由伸は頭を少し下げ希にお願いした。
希の返答に少しイラっとしたが、要の『あ、これ照れ隠しだから。間に受けなくて良いよ』という言葉で収まった。
要は殴られたが…。
「よし、来たるべき日…Xdayに向けて始動するぞ…グラウディング、オーバーロード殲滅作戦…【GOD】を、今日を持って開始するッッ!!」
由伸がその言葉を言った瞬間、要を除いた全員が魔法を使って瞬間移動し、自分達のアジトへ帰っていった。
各々やる事はもう把握している。
足並みを揃えるわけではなく、個人で、各蓮寺家で与えられた使命を全うするのだ。
要だけはその場に残っていた。
「はぁ……どうだい?嬉しいかい?…君のシナリオ通りだよ。……ソレを持っている君には僕個人の力じゃ到底及ばないからね、僕だけが反抗しようとしてもどうしようもないんだけど。…本人が自分で気付いてくれれば一番良い展開なんだけどね。まぁ無理もないよ。僕は責めないさ。何処かで聞いているんだろ?…僕達は今言った通りに動くよ。さて、君は何をしてくるのかな?」
そう見えない誰かに言うと、要も瞬間移動し、何処かへ消えた。
その数十秒後、今まで蓮寺家の会議が行われていた部屋に1人見知らぬ影が椅子に腰を下ろしていた。
「あぁ…聞いていたよ。水蓮寺要。僕が何をしてくるって?……ハハッ。何もしないさ。ゆーっくりと沼にハマっていく西宮薫を眺めているだけさ…」
そう言うと、見知らぬ影は体から膨大な魔法エネルギーを放出した。
足を組み、頬杖をついたまま。
このエネルギーは、全世界の異能力使いが察知した。
「ッッッッッッッッ!?!?」
「………!?」
それは西宮薫とて、例外ではない。
「…ムーさん、フリンさん、先生…。今のって…」
「………あぁ。グラディエーターよりも凄まじい、膨大な力…」
「…よくわからんけど、相当ヤバい奴がいるもんじゃの…」
「…チビりそう……」
さぁ!!!西宮薫!!!!
この世界で足掻いてみろ!!!!
エネルギーに込められたメッセージ。
薫だけが、このメッセージに気付いていた。




