西宮薫は悩む。
予定外だ…。
まさか、シナリオに従わず最初からアジトへ向かうとは…。
これでは作品通りにはならなくなってしまう。
…
だがグラディエーターがなかなか良い仕事をしてくれた。
多少狂った所はあるが、まぁ本編には支障をきたさないだろう…。
さて、西宮薫。存分と僕の作品の上で踊るといい………。
蓮寺家の集会。
「水臭いじゃあないか、希ちゃん。グラディエーターのアジトへ向かったんだろう?せっかく西宮薫君につけてくれたんだ。一緒に戦わせてくれたっていいじゃないのか?」
「……まぁパパッとやってパパッと帰れると思ってたんだけどな…。予想外にやべぇヤツになってたぞグラディエーター…。あと手下のサーマルキュレー…?とか言ったかな。あいつもなかなかのヤツだったわ」
「へぇ…希ちゃんがそんなに言うんだ。てっきり半殺しにしてくると思ったんだけどねぇ…」
「私が半殺しにしたのはお前だクソやろう」
今回は火蓮寺由伸からではなく水蓮寺要の文句から始まった。今までの戦い…というか偵察っぽくなってしまったが、希が、敵の元アジトであった出来事を話した。
実質、蓮寺家の中で無敵を誇る木蓮寺希がやべぇと言っているだけあって、全員の顔は険しいものだった。……要を除いて。
「………というか、今西宮と言ったか?西宮って、あの異端視と言われた西宮義人大佐の事か?」
要の言葉を聞いて由伸が反応した。
由伸が西宮という名前を知っていても不思議ではない。
西宮義人はかつて魔法軍に所属していた。
魔法軍というのは、外部からの魔法組織、魔法テロ集団から自国を守るといった組織で、全員が魔法使いで構成されていたが、西宮義人たった1人だけ超能力者であった。そこから「魔法軍のエース」や「魔法軍の異端視」といった二つ名があり、異能力界でも広く知れ渡っていた。
「西宮義人大佐は殉職したんだったよな…ということは息子か、娘か…。しかし、子供は異能力を持っていないと聞いたことがあるぞ?」
由伸は薫の情報を少し知っていた。しかし、希は過去を語る気はなかった。
「まぁーあれだ、超能力を手に入れたんだよ」
少し濁して、簡単に答えた。
「そうか…それで代償が父の命と考えると…辻褄が合うな…悪い、本題とあまり関係なかったな」
由伸が言うと、
「いや、そーでもねぇぞ。今回はその義人の息子が主人公として、回ってるからな。そして、今回の戦闘であいつは余裕で負けた。私も勝てるかわかんねぇ。……ということは、だ」
全員がため息をつく。
このメンバーの中で最強を誇る木蓮寺希が勝てるかわからないと言っているのだ。これは蓮寺家の中では対処しきれない問題となるだろう。
そうなった場合、外部からの援助を頼むのだが。
「………魔法軍の手も借りて異能力戦争ってわけですか…」
煌蓮寺楓が答える。
全員の心の中に思っていた言葉を代弁した。
外部の大型組織、そして力を持っているとなると魔法軍しか思い当たらないのだ。
「えー…あそこ嫌いだなー…頭固い人多いしー…義人さんみたいな人全然いないもんなー…」
「私も要さんに賛成です…あの人達は黒い魔法に理解がなさ過ぎる…」
要の文句に黒蓮寺由紀も賛成する。
「そーそー!痕跡がちょっとおかしいからって人を反逆者扱いしたり、誰を殺しただの何人の死を見てきただの、義人さんがいなかったら全員ブッコロ…」
「要さん、言いたいことは非常に理解できますが、それから先は言ってはいけません」
要と由紀は結構仲がいいらしい。
「………とりあえず、各々自分達の戦力を整えて来たるべき日の為に準備するのだ。…問題は魔法軍だがそれは…」
「それは私と愚弟が行こう」
由伸の話に割り込み、希が答えた。
「ここで、だ。西宮の名が効いてくるってこったぁ。利用できるもんは全部利用しないとな」
全員ホッとしたような顔をした。
正直魔法軍と接触もしたくないというのが、全員の本音だった。
「それと…楓。前頼んでおいたアレ、持ってきてるよなぁ?」
「…一応禁魔道具ですけどね。探すの大変でしたよ。保管庫にあったのに無くなっているんですから」
世に出回っている魔道具はほぼ楓が管理しており、禁魔道具に関しては、実力のある能力者に管理という名目で預けている。
ほぼ、フリンが持っているだろうが。
「アレさえあれば、グラディエーターを救うことができんだよ…。あの愚弟のストーリー通りになる」
「……いけないんだけどな…」
ボソッと要が呟く。
この声は誰の耳にも届いていないようだ。
「…よし!じゃあ希ちゃん、薫君に僕も付いてっていいかな?」
「まぁ…しょーがねぇか。いいぞ、遅刻したら殺すけどな」
「しないしない!…じゃあ、台本通りのストーリーを薫君に送らせてあげようじゃあないか。…それがハッピーエンドで終わるかバットエンドで終わるかはあの子次第だけどね…」
「…?どーゆーことだ、要」
「いや、なんでもないよ!今のことは薫君が一番よく知っているからね」
今回の集会は次の集会の日程と魔法軍へのコンタクトを決定し終了した。
「………薫…!薫…!!薫ッッッッ!!」
達馬の声で目が覚めた。
どうやら南極から帰ってきて、そのままBARで寝てしまったらしい。
しかし寝かせてくれればいいのに…。
あ。
「今日学校あるよ!?!?」
南極で日にち感覚が狂っていたが、僕が二度寝しようとしていたのが土曜日、そして南極から帰ってきたのが日曜日らしい。
そのままぐっすりだった。
やばいなぁ…でも、学校より大事なことをしなくちゃならない気がするんだよなぁ…。
「普通の人だったら高校を、そんなに頻繁にサボらないよ」
僕はその一言で学校へ向かう決心をした。
「かっおるん!!全然ケータイ見てくれないじゃん!……なんかあったの?大丈夫?」
学校に入るや否や、智美が駆け寄ってきた。
まぁ彼女だもんな…そりゃ心配するか。
「大丈夫、大丈夫!ちょっと…あ、そうそう。近所にさ、いいカフェ見つけたんだよ。なんかあそこは見つからないだろうなぁ〜ってとこ!学校終わったら行こうぜ」
とムリやり話を変えた。
勿論、近場にカフェなんてない。
テキトーにどっか探しておくか…。
「!!!!行く行く!!!めっちゃくちゃ行きたい!!…やった。カフェデートっ」
「全くー…2人は毎日そんなベタベタしてて飽きないのかい?」
そう、コイツと話すと知らないうちに腕が絡んでいるのだ。
それを踏まえて達馬が言ってきた。
「ははー…」
苦笑しかでてこなかった。
久々な感じがするクラス。
僕は空いている扉からそのまま席に着こうとした。
クラスに入ると僕は異様な光景を目の当たりにした。
クラスの大半を、認識できない。
認識できないというのは、顔を見ればあぁ、あいつか。となるが、目を離した途端に記憶が曖昧になり、すぐに忘れてしまう。そしてもう一度見て、あぁ、さっきみたような。ぐらいの感覚である。
勿論、それは彩さんも例外ではない。
今は高橋彩という名前さえもあやしい。
あ、間違えた…斎藤彩だ。
……事態は深刻なモノと化してるな…。
前の状態より酷くモブ化が進行しており、主要人物しか捉えることができなくなっていた。
主要人物…か。
世界の主要人物は自分の中の世界であって、他の人の主要人物は変わってくる。
なのに、これは僕中心で回っている世界だ。
僕主人公のテンプレ世界で、勝手に人を主要分けしているんだ。
こんな世界、あってはダメだ…。
ちなみに、僕の彩さんセンサーも完全にぶっ壊れた。
あれ…?なんだ?
認識できないとはいっても、数は数えられる。
…。やはり、欠席が目立つな…。
クラスの10人休んでいるは異常じゃあないか?
念のため、他のクラスへ…
「よう…薫。お前もなんか変だと感じたか」
クラスを出て、まずは智美のクラスに…と思っていると、扉に蓮が待ち構えていた。
「久々だな、蓮。すまんな、最近は特訓やらなんやらが忙しくて」
「おう。それは俺も同じだ。ムーさんから教え込まれているところだからな。…色々聞いたぞ、あと3ヶ月なんだってな」
「そうなんだよ…それまでに、何をしていいかわかんないし、魔法や超能力のスキルアップと言っても、ずっとやってきていることだし…」
僕の悩みはこれだ。
沼西に負けてから、僕は色々考えたのたが、特訓はずっとやってきているし、沼西が世界を征服するために襲いかかってくるのは3ヶ月後だし、何をすればいいんだろう…と考えていたところだ。
実際あの実力差では3ヶ月特訓しただけじゃまたボコボコにされると思う。
魔法はフリンさんから教えることはないって言われてからは1人でずっと練習はしている。
でも、やはり独学だけでは限界がある。
うーん…どうしたものか。
「だったらお前の師匠につけてもらえばいいんじゃねぇか?」
え、あぁ…
そういえばその案考えつかなかったなぁ。
でもあの人フィーリングで戦ってる部分大半だと思うから、教えることなんてできない気がするんだよな…。
「ま、そうだな。また師匠に聞いてみるよ。っでさ、お前んとこのクラス欠席者何人くらいいる?」
そう聞かれてると蓮は少し驚いて答えた。
「やっぱりか…お前のクラスも結構いないんだな。俺たちのクラスは半分以上いない。なのに誰もそのことを気にも止めずに雑誌やらテレビやらの話をしている…。正直恐怖を覚えるね」
そうか…モブにはおかしいと思う感情すら与えられないのか。
僕は最近戦闘続き(特訓も入る)であまりこの世界の侵食を気にしていなかったけど、学校にくると改めて理解する。
クソテンプレ世界が。
「まぁ多分、この欠席の理由はオーバーロードやグラウディングの仕業とみて間違いはないだろうな」
「?でも勧誘はあの学校での騒動以外やっていなかったはずだろ?」
「…お前が学校をサボったりしている間に、段々と人が少なくなっていって、気がついたらこの有様だ。帰り道いなくなった内の1人をつけて歩いていったのだが、未来を見たとき俺もヤバいと思ってな、途中で切り上げて帰った」
「……一歩間違えたらお前も沼西側についていったのな」
「ぬかせ。俺がヘマを踏むと思うか」
まぁ、未来が見えたら踏むことはないけど…
「報告しようとしたんだが、お前ら南極に行ってたそうじゃねぇか」
「ま、まぁな。…放課後少し付き合えるか?」
放課後、また生徒が勧誘される前に阻止しようと思ったのだ。
「悪いな、薫。……俺はBL属性はないんだ…」
まぁ。OKということだろう。いちいちツッコんでたらきりがない。
僕は念のため他のクラスも回る。
「……おい、無視すんな殺すぞ」
疲れていたので、授業は寝て、昼を食べて、授業を寝た。
帰りのホームルームで、
「もぉー薫くん!今日ずっっっと寝てたでしょ!」
新担任の鈴谷香菜子先生がぷりぷり怒っていた。なんとなく可愛らしい印象を持つ。
「すいません…なんとなーく調子が悪くて…」
「もー…薫くん、あなた放課後残ってなさい!」
えぇ…今日蓮とやらなくちゃいけないことがあるのに…
「えぇー…明日じゃダメっすか先生…」
と言ってみる。まぁどうせバックレるからいいんだけど。
「薫ーーーーーッッ!!これは、絶対、絶対あれだよ!!!!」
小声で達馬が話しかけてくる。
「な、なんだよ…心当たりあるのか?」
「薫…これは絶対お誘いだよ!!……誰もいない教室で、香菜子はゆっくりとブラウスのボタンを1つ1つ外していき…」
「お前はバカか!!!!」
達馬の頭を思いっきり叩く。
ちょっと想像しちゃったじゃねーかバカヤロウ!!!
外したブラウスから覗く胸がやけに眩しかったじゃねぇよバカヤロウ!!!!
「達馬くーん?何を想像しているのかなぁ?」
僕に話しかけるために後ろを向いていた達馬は背後に近寄る香菜子先生を感知できなかった。
「えぇっと…せ、先生はいつも可愛いですよねぇ〜」
「放課後2人で残りなさい」
バカな奴だな……。
でも達馬は
「3……3…!?まさか…初が…3…P…」
手に負えないバカの間違いだった。




