西宮薫は叫ぶ。
「何をしているのじゃ?」
「………防寒ぐらいしとけよ」
「魔法の扱いは得意じゃなかったのかよ」
「…何をやっているんだい?薫」
みんなして責めてきた。
僕と変わらないような服装なのに、てか季節感覚がおかしかったのだが、合っていれば今の日本は秋に入ったぐらいだ。
そんな服装で南極に耐えられるわけが無い。
数秒で死ぬ。
「フリンさんフリンさんフリンさんフリンさんフリンさんフリンさんフリンさんフリンさんフリンさんフリンさんちょちょちょっと…簡単にやり方を……ガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチッッッッ」
薄れゆく意識の中で精一杯命を紡ぐためにフリンさんに尋ねた。
「って言われてものぉ…。感覚でできるもんだからのぉ…」
「じゃあもういいから僕に防寒魔法をかけてぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!」
僕は一命を取り留めたのである。
「はぁ…薫?防寒魔法や耐熱魔法は基本だよ?君がやっていた物体投影と同じぐらい基本なのに…。なんか残念系超越者だね」
「残念イケメンみたいに言うな」
とは、流してみたところ。
なんで僕は達馬が言うには基本、簡単な魔法が使えなかったのだろう。
使えなかったというよりかは、使い方が分からなかった。
うーん…フリンさんが大丈夫って言ってたんだけどなぁ…。
あ、そーか。戦闘に対しての魔法は大丈夫ということか。
だから戦闘向きの投影はできて、どちらかというと生活向きの防寒はできなかったのか。
「さーて…行くか!」
師匠がうんっと伸びをすると歩きだした。
それに皆がついていく。
「…え?歩いてくの?」
僕は驚いてつい聞いてしまった。
「他に何があんだよ。車でも出すか?無理だろ、歩け若人」
たしかに、魔法で車やバイクは作れない。
中の構造や仕組みを理解し、それをイメージできなければ具現化することができないのだ。
魔法も万能、という訳ではないのだ。
でもぉ…歩くってぇ…
どこにあるかもわかんないじゃ〜ん…。
目視できない時点で遠いじゃーん…。
僕は先ほどのやりとりを聞いていなかったので歩くとか走るとか知らなかった。
まぁあの状態で聞ける方がおかしいけどな。
「フリンさんのワープじゃダメなんですか?」
そこにフリンさんではなく達馬が答える。
「薫……。ワープ魔法というのは移動先の位置が特定できてないとできない魔法なんだよ。フリンさんがここまで来れたのは、南極という大雑把な位置なだけだ。南極内のアジトまで、とは特定できていないだろう?……そんなことできたなら最初からしてるよ、薫。そんな推測までできなかったのかい?」
呆れたように言われた。
なんか腹立つ。
しょーがねぇーじゃんかよー。
そーゆー知識は持ち合わせてないんだからよー。
「まぁー、バカはほっといて行くぞ」
師匠は走らず、歩き出した。
まぁ、歩くといっても魔法で強化された移動魔法なので歩くスピードは80キロを軽く越す。
このやり方はなんか…感覚でわかっていたので使えた。
『狂戦士』の強化の感じと少し似ていたからな…。
道中。
「はいー行くぞーキュンとする言葉ー」
「「「おー」」」
「お、お〜…」
パンパンッ
「俺から…離れんなよ」
パンパンッ
「貴女と共に生きて行きたい…」
パンパンッ
「………こっち来いよ」
パンパンッ
「おっぱい揉む?」
パンパンッ
「えっと…好き」
「はい単純死ね」
僕は師匠に蹴り飛ばされ皆の前方200mくらい先に進んだ。
「待て待て待て待て待て待って!?その師匠の思いつきでやったそのゲームなんなんすか!?まさかムーさんもノッてくるとは思わなかったわ!!」
「………いや、暇だし」
ごもっともだ。
「あと!!!!達馬の!!!おっぱい揉む?って!!キュンじゃねぇじゃん!お前の願望じゃん!女の子におっぱい揉む?とか聞かれたいだけじゃん!!」
「薫〜。女性陣の前でおっぱいとか流石に言わない方がいいよ?」
コイツイツカコロス。
「文句ばっか言うなよ。せっかく暇つぶしにゲームでもしてやろうとか思ってたのによー歩いてるだけでも暇だろー?」
「まぁそうですけど…」
「まーいいじゃないかの?そーこーしてるうちに…ついたぞよ」
僕が視線を先にやると…遠くの方に氷の塔が見えた。
あれは、この前メディア報道されていた例のアジトだ。
よくもまぁ…人のってかメディアの目につくようなデカさとスケールの塔を建てたな…。
「よーしやるか」
と一言師匠が言うと、手のひらを塔の方へ向けた。
「ん?師匠、何をするん……」
僕が話しかけようとした途端、視線の先にある塔が爆発した。
爆風が僕達がいるところまでくる。
やっと立っていられるような爆風だ。
どんな力を込めて爆発させたんだよ…。
「いや〜…相手の用意した土俵でやるのはなんか癪だからなー。とりあえず引き摺り下ろすところからだな」
…。
「薫…。君の師匠ってムチャクチャだね…。ちょっと同情するよ」
「うん。ありがと」
「………結構長い間共にいるが、相変わらずな奴だな」
「そーゆーところが強さの秘訣なのかも知れんの」
氷の塔は跡形もなく無くなった。
「………これで完。っていうわけでは無さそうだな」
塔の跡地にシルエットが2つあった。
「そーじゃねぇーと面白くねぇもんな」
「希殿、この世界で一番じゃないことがそーとー嫌らしいの」
「そーゆー人ですからね…」
2つのシルエットがゆっくりこちらへ歩いてくる。
「折角用意したアジトなのに…酷いことをしてくれる…」
と、微笑する1人と、
「あやつらを直ちに処分致しますか?」
と、問う1人。
「よくぞ、まぁ、色々手下を回したのにその段階を飛び越えてやってきたの…」
あいつは…。
あいつの声は…。
覚えている。
沼西奈々。
エンド・ザ・ワールド・グラディエーター。
「ようやく会えたな、エンド・ザ・ワールド・グラディエーター」
「その呼び名はもう古い…今は『エンド・オブ・ザ・グラディエーター』前の私より数段強くなった、とでも言っておこうかな」
「どーでもいいんだよそのサッブい名前の改名とかよぉ…とりあえずやろうぜ」
師匠は笑っていた。
戦闘はするものの、毎回相手にならないらしい。
そりゃそのはずだ。
能力的に、師匠に勝てるわけがないのだから。
『愚者』
この能力は異能力界で例外の部類に属している。
基本異能力というのは、魔法が1にあり、超能力が2にある。
つまり悪く言うなれば超能力とは魔法の劣化版みたいなものなのだ。
どれだけ身体を強化しようが、未来を見ようが、魔法には勝てないのだ。
しかし超能力の中でも一部だけ例外的な強さを誇るものがある。
魔法に優る超能力。
それが師匠が持っている『愚者』である。
因みに、僕が持っていた『知覚』も例外の中の1つである。
そんなバケモノじみた超能力に比べれば僕の『狂戦士』なんか普通の中の普通だ。
「楽しみで仕方がねぇんだよ…。本気でヤりあえる相手が目の前にいるなんてよぉ…」
目が獲物を狩る目だ。
怖い。
「………未来予知ガン無視じゃねぇか」
あ、確かに。
まぁでも師匠がケリつけてくれたら楽なんだけどなぁ。
とっとと壊れねぇかなこんな世界。
「血の気が多い…サーマルキュレー。相手をしてやりなさいな」
「ハッ」
そう命じるとサーマルキュレーがこちらへ走って近づいてきた。
走る速度は闇堕ちした魔法で強化されているので相当に早い。
およそ190キロぐらい。
やはり通常の魔法より、闇堕ちした魔法の方が能力的には上のようだ。
「フッ…ここまで来たのは褒めてやるが、残念ながらここでお前らはリタイアだ」
数秒の内に距離のあった2人の差を埋めたサーマルキュレーは直前で静止し、発勁を魔法を練り込ませ、放った。
が、師匠は微動だにしない。
「よぉ…遊ぼうぜ」
「ッ!?」
驚きながらも咄嗟に距離をとったサーマルキュレー。その直後に師匠の周りの氷が大きく凹んだ。
「逃げ足も速いんだな…」
「コイツ…少しはやるようだ」
2人の闘いに目が奪われる中、
「薫…あのサーマルキュレーとやらが君の師匠に引きつけられる間に、グラディエーターを叩こう…!」
「お…そうだな」
達馬が提案した案に乗り、ムーさんとフリンさんにも伝えた。
「………俺はいくが、フリン、お前は念のためにここに残っておけ」
「了解じゃ、援護しておくの」
と、3人と2人に別れることにした。
「………それじゃあ、行くぞ…ッ!!」
ムーさんの合図で3人が超スピードでグラディエーターへ接近した。
「沼西ィィィィィィィイイ!!!!」
僕は走りながらかつての友の名を叫んだ。
「久しい名を口にするの、同志よ」
僕らの突撃を待っていたのかのように答えた。