西宮薫は始める。
妹は母さんに似たのだろうか。
僕は夕飯を食べながら思った。
なんか…お袋の味?という感じがする。
いや、まだ高2の餓鬼がお袋の味などと洒落臭いと思うかもしれないがそこはよしとして。
なんかなー。懐かしいって感じがするんだよなー。
「どーしたのお兄ちゃん…なんかいつもよりよく食べるね!」
「お、おう…なんだろな、お腹すいてたのかな?」
「そうなのー?じゃあ…疲れてるのかな?大丈夫?」
確かに疲れてるのは正解だ。
こっちの世界に来てから休みなんてほとんどない。
襲われたり、そのようなことがなければ毎日のムーさんとの特訓。
疲れないはずがない。
「まぁー…最近忙しいからな…疲れてるっちゃあ疲れてる」
「そうかー…ご飯食べるのも疲れちゃうと思うから、お箸運ぶのも疲れちゃうと思うから、私があーんって……」
「いやどんな理屈だよ」
何かとつけて妹は僕とカップルっぽいことをしたがる。
しょーじき本当に引くときもある。
前は
「寝れないの…」
とか言って深夜に僕のベットに潜り込んできたことがある。
なぜか下着はつけてきてなかった。
と、このような事が週に3回くらいはある。
僕の疲れはコイツからもきてるんじゃないか…?
てかコイツの恋愛行動が怖いよ。
学校に好きな人ができたらこんな風に迫るのか?
可哀想に。未来の恋愛対象者。
「ごちそーさま。お風呂に入ってくるよ」
「んっ!んっ!…私も入るっ」
「食べるか喋るかどっちかにしてくれ…」
僕は逃げるように小走りでバスルームへ向かった………。
その頃、黒蓮寺家。
黒蓮寺家は最高権力者の家を本部、アジトにしている。黒蓮寺家は代々大きな和風の家に住んでおり、山の頂上あたりに建てられている。
黒蓮寺家本部では、自らの傘下である部隊の確認をしていた。
ある特殊な魔法で、黒連寺に所属している能力者を数える事ができるのだ。
大きな紙を広げ、魔法をその上で練ると、大きな魔法の塊を中心に点々、と魔法が散りばめられる。
中心が主君で、周りが傘下である。
「ひぃー…ふぅー…みー…やっぱり何人か抜けてますね…」
黒蓮寺の最高権力者、黒蓮寺由紀が首を傾げる。
「どうされました、我が君」
「いや、八戸彦。この前の学園襲撃から、私の元で働いていた闇堕ち能力者が数十人の単位でいなくなっているのよ」
由紀が相談相手としているのは黒蓮寺八戸彦。
由紀の甥に当たる人物である。
八戸彦は闇堕ちしておらず、普通の魔法使いだ。
普通といっても並大抵の魔法使いじゃ太刀打ちできないほどの実力ではあるが、由紀の前ではそれが掠れる。
「いやはや…新規というのは信用ができませぬな」
「いや…それが不思議な事に、新規だけでなく拓郎の部隊全員がいなくなってるのよ」
「たッ!…あの野郎…」
なぜ裏切ったと言わんばかりに、鬼の形相を浮かべた。それを由紀がなだめる。
「まだ裏切ったとは限らん…。よほどな事情なのかも知れんな…」
「は、はぁ…しかし、最近はオーバーロードの勧誘が盛んになっていると聞きましたが…」
「裏切ったわけではないと言った手前ではあるが、その可能性が1番高いかも知れない…」
「我が君というものがありながらあの野郎は…!!!」
「だから落ち着きなさい!!」
「……すみません、熱が入ってしまいました」
八戸彦が怒るのも無理はない。
拓郎という男は黒蓮寺家の養子で、年は八戸彦と同じである。
昔はよく2人で何かにつけてケンカしたもので、今まででは良きライバルという関係であった。
あれだけ怒ってたのは仲が良かったからこそなのかも知れない。
「大丈夫…それよりもオーバーロードの動きが気になりますね…そろそろ動く時なのかも知れない…いつでも戦闘の用意はしておきなさい」
「御意に」
その言葉と共に八戸彦はその場から消えるように去った。
言葉通り消えるように。
瞬間移動をしたかのように、魔法の痕跡を残して八戸彦は姿を消した。
「最近の若い子は盛んで困る…」
由紀は悩みの種を増やしていた。
次の日は休みで僕は久々にゆっくり家でゴロゴロできた。
いや、世界を救うとかあいつを取り戻すとか言っても休息は必要不可欠だよ?
筋肉はついてきたけど、やっぱりムーさんの特訓は厳しいから筋肉痛もあるし…
これからは至福の二度寝タイム。
この時間は誰にも邪魔させない。
部屋の鍵は閉めてある。
窓の鍵も閉めてある。
布団のぬくぬく感…バッチリだ。
窓の鍵必要か?
まぁこれで準備は整った。
グッバイ!朝よ!!
僕が目覚めるのは特訓の時間の1時間前さ!
おやすみ!!
っと心で叫び、布団を頭までかぶった瞬間に、
バァリィーーーーーーーンッ!!
………え?
何この大きい音。いやいやいやいや。音が近いからって僕の家のガラスが割れた音じゃないよな。ましてや僕の部屋のガラスが割れたわけじゃないよな?なんだ?イタズラか?
全くー最近の子供はイタズラが過ぎるというか…もうちょっと、マナーのいい、微笑ましいイタズラというのがわかんないのかなぁ…
「マナーが悪いガキが。死ね。っと言っておるぞ」
「そうか、死にてぇようだなクソガキ」
「………悪いな。邪魔して」
マナーが悪いガキとか言ってねぇよ…
僕の心の中を悪く伝えるのやめてくれないかなぁ…
僕の部屋の窓ガラスを割って部屋に入ってきたのは師匠達3人であった。
ってか予想はついてた。
「…特訓は午後からですよね…寝かせて下さいよ…」
「テメェ…わざわざここに来たってことの重大さを察しろボケ」
「あ、たしかに」
「うるせぇ貧乳。ってのが本音じゃな」
おい、フリンさん。心を読めることを利用して楽しんでるんじゃないか。全く思ってないことを言うんじゃあ…ッ!!!
言い訳する暇もなく僕は師匠のマッハパンチを顔面で受け止めた。
1階のリビングまで体が突き抜ける。
幸い和美は外に出かけていたようだ。
「し、師匠…修復代がバカに…ならない…」
僕の身体でできた穴から師匠が1階へ降りてきた。
「こんなもん、魔法がどうにかしてくれんだよ」
というと気づいたらもう穴は塞がっており何もかも全て元どおりになっていた。
そしていつのまにかフリンさんとムーさんがリビングでくつろいでいた。
「……魔法ってすごいっすね」
「小並感かよ」
そして4人掛けのテーブルに全員が座り、本題へ入った。