西宮薫は護った。
「か…かお…」
「彩さんは…ここで待ってて」
僕は彩さんの方へ顔を向けず、背中向けて話した。
「なんで…そんなんでいられるのよ!!目の前で!!…ッ…お父さんが…」
彩さんは多分ぐしゃぐしゃに泣いていた。
人が目の前で死んだのだ。無理はない。
っと言って僕も死んだのは初めて見た。しかも自分の父親だ、悲しくないわけがない。
できるのなら、ここで人目を気にせず、一晩…いや1週間ぐらい父の体を抱いて泣き続けたい。
もう何もしたくない。
そんな気分だった。
だが、僕は父から力を受け取った。
父の命を引き換えに、命を守る力を手に入れた。
能力や使い方は…分かる。感覚的に分かる。父から伝わってきた。
僕しか、守れるものを守る力が、僕しかなかった。
「彩さん…僕だって悲しい。今すぐ泣き崩れて病院へ父さんを運んで助かる確率を1パーセントでも多くできるようにしたい……。でも違うんだ。父さんが言いたかった、父さんが伝えたかったことは違うんだ」
「命より……大事なものってなんなの!?!?」
彩さんが僕の背中に向かって叫んだ。
鼓膜を激しく揺らし、中の器官まで振動させるような、大きな声だった。
「私のことなんかいいから…そのよくわからない超人的な力を使って逃げればいいじゃない…見てたでしょ?薫くんのお父さんでも敵わない相手よ?勝てるわけないじゃない…逃げなさいよ…逃げてよ!!!!!!!!!」
言い終わると彩さんは泣き続けた。
大きな声で泣いた。
絶望しているのだ。
死ぬことに、死が迫っていることに。
僕があいつに勝てなくて皆殺されることを。
「君が…」
僕は背中を向けたまま語りかけた。
「君が僕を信じてようが信じてまいが構わない。負けると予想して、殺されると思っても構わない。だけどね…僕は…父さんが伝えようとしていたことがわかったんだ。…僕に残した言葉が」
と僕は言い終わると、瓦礫の山から出てきた男の方へと向かった。
「なによ!!!!!やめてよ…これ以上死なないでよ!!!!!今までの2人に戻って…平穏に暮らそう!?…そうだ、これは夢よ!!夢だわ!!」
彩さんが僕に向かって走り出そうとしていた。
そんな彩さんに僕は制止をかけた。
「彩さん!!!!!!!」
ビクッとなり彩さんの動きは止まった。
「父さんはね、西宮義人はね、僕に残していった言葉は…」
僕は彩さんの方へとくるりと体を返し、走り出そうとした体の肩をそっと抱いた。
「『惚れた女を守れなくて、何が男だ』………だってさ…全く、最後の最後でカッコいいんだからあのクソ親父は…」
そして彩さんを安全な場所を指示し、そこで隠れてるように言った。
彩さんは頷いて、さっきの動揺が嘘のように無言でその場所へと向かった。
「あッつ〜〜い青春ごっこは終わったかァ?今日は大変だなぁー親も子もヤンないといけないとはよォ〜」
「待たせたな…腐れ外道が」
僕はその声のする方へと向かって言った。
こんなに怒っていたのは初めてだ。
「おぉー怖い怖い。父とは違って言葉遣いが汚くなるのなァ…」
「父の話は……するなァァ!!」
そう言って、僕は右手から光の砲撃を放った。
これはただの砲撃ではない。
僕は能力を完全に把握していた。
僕の能力は…
『知覚』
知覚とは心理学用語で、目に見える刺激とは別に、モノの性質をその刺激から解ろうとすることの事で、これをベースにしている能力だ。
つまり…
僕が叫びながら右手から放った光の砲撃は目に見える刺激として相手に捉えられている。
だが…
僕の思惑とは違う。
「あぁん?なめてんのか?こんな砲撃…テメェの父さんの方が能力はずっと上だったなァァ!!!」
そう言って男は空間を湾曲させて光の砲撃を吸い込んだ。
「ハッッ!あんなドカスな攻撃、今更俺に通用すると思うなよォォォ!!」
「…それは…どうかな?」
「なに…?………ッッッッ!?!?ゴファァァァァ!!!!」
男はその場で腹を抑えうずくまった。
大量の血を口から吐き出し、なにが起こったかまるでわからないような顔をしていた。
「な…にが…起きた…?」
「お前が息を止めるまで、脈が消えるまで、思考が停止するまで、心臓が鼓動を止めるまで…僕はお前を殺し続ける」
「ク、クソがァァァァ!!!!」
僕の右腕を巻き込み空間を湾曲させようとしていた。
しかし。
「フンッ」
僕は右手であしらった。
湾曲した空間は消え去った。
どういった経緯で何がどうなったのかは男はわからない。
僕もよくわからない。まぁ、心理学なんて勉強してないならよくわからないのは当然なんだけどね。
しかしこれは言える。
この力は特別に強い。多分、この世であってはならないぐらいの力だ。
自分で自分の能力に恐怖する。
使っている者にしか解らないだろう。
この能力…異能力は父が言ってたように人間を見ていると驕ってしまう。見下してしまう。
人間を超越したような気分だった。
僕は普通ではなくなった。
「ハッ…ハハッ…ハハーーハーーハハハハハッ」
僕は狂ったように笑った。
「テメェ…なに…笑ってやがる!!!」
男の攻撃はもう、僕には通用しない。
空間を湾曲させても、無惨に消え去る。
それを繰り返しているだけであった。
「ハハーーハーーハハハハハ!!無駄無駄無駄!!!!僕にはそんなもの効かないよ!!残念だったねぇ!!」
「ヒッ…」
「バイバーイ、父親の仇♪」
僕は何度も、何度も、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も……
男を力一杯傷つけた。
男は息をしてなかった。脈が消えていた。思考が停止していた。心臓が鼓動を止めていた。
死んでいた。
僕は攻撃を止めなかった。
壊れていく中でも、父を殺した男への恨みが大きかったので、その恨みをぶつけていた。
「ハハーーハハハハハッッ!!このッ!!クソッ!!父さんのッ!!クソッッッ!!」
その時、攻撃をぶつけている腕を掴まれた。
「もうやめとけ。そいつは死んでるよ」
なんだ。誰だ。急に入ってくるな。これは僕の敵討ちなんだ。他人は関係ないだろ。
そんな気持ちで、その掴んだ主にも殴りかかろうとした。
「ほーほー…。血の気が多いなぁ。なんだお前腐った目してんな」
掴んだ主は女性で美しい顔立ちと綺麗なスタイルをした人だった。…口は悪いが。
どんだけ力を入れても、腕はビクともしなかった。
「どうあがいても無駄だぞ?誰も『愚者』には勝てないよ」
これが木蓮寺希との出会いであった。




