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テンプレを壊して僕はモブ子に恋をする。  作者: 戸塚 秦
昔話を語るとしよう。
12/37

西宮薫は手に入れた。

「グッ…ハァ…」


男は全身から血を流しながら、倒れた。

そこからピクリともしなかった。


「はぁ…やっと終わったぞ薫!!」


義人はいつもの父親の笑顔へと戻っていった。

先ほどの姿と大違いなので、僕は父のところへと駆けつけることを躊躇っていた。




さっきはできたのに。

あんな父さんを見たのは初めてだった。


「そうだ、その彩さんもそろそろ目を覚ます頃じゃないか?よかったよ、こんな血生臭い戦いなんか見られたくないからな」


そして僕はおぶっている彩さんの方を見た。

おぶっているからよくは見えないが、今思うとすごく顔が近いのを感じた。


「うおっ!!…彩さん…いい匂いする…」


「お前変態だな」


「とっ、父さん!そんなにド直球に言わなくても!!」


「そうよ…何勝手に匂い嗅いでるのよ…気持ち悪い」


「彩さんまで…て!起きたのか!!大丈夫!?」


「耳元で大きい声出さないで…で、何が起きたの?」


「いや…もう終わったんだよ。終わったことなんだよ、彩さん」


「あの血の海は何……?何があったの…?」


「あれは…敵の残骸だよ。さっき父さんがやっつけて…くれ…」









嘘だろ。






男の死体がない。



父さんは気づいていない。

男がどこへ行ったかはわからない。




しかしまだ生きていたことは確かだ。


「父さんッッッッッ!!!!まだ終わってないッッッッッ!!!」


僕はめいいっぱい義人へ叫んだ。

その声に気をとられた義人から、手が出てきた。






義人の体から手が出た。











義人のみぞおちから、男の手が、貫通して出てきた。








「な……に……?」


「なにを引き継いだァ?何の能力で俺を殺しかけたァ?あれはヤバかったなァ…だが、言ったろ?タフさが売りなんだって」


「グファッ…」


義人が大量の血を口から吐き出した。


「父さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!」


「やかましいガキだなァ…次はお前の番だから大人しく待ってろ」


「や……せ…か」


瀕死の義人が自分のみぞおちから出ている男の手を右手で掴んだ。


「なんだァ?悪あがきかぁ?」


「やらせるかァァァァ!!!俺の息子には指一本触れさせねェェ!!!!!」


左手を後ろポケットに入れ、何かを触った。

そして義人は男の指先から力一杯手を胸に押しつけるように押した。


そうすると男は後ろへ吹き飛んだ。

男も瀕死の状態なので、後方へ凄い勢いで吹き飛ばされ、倒れこんだ。



しかし、力を制御しなかったため、義人の右手が自分の胸をえぐっていた。


その状態で、僕らの方へ来た。

その速度は目で追えないほど早かった。


「ゴホォ…時間…を稼げれば…いいんだ…。よく聞け薫」


「とお…と…父さん…」


僕は泣きながら父さんの話を聞いた。

そして義人は左手で僕の肩を掴んだ。


「父さんの能力にはな…もう1つの秘技があるんだよ…それは『継承』ではなく…『伝承』だ…。これは引き継ぐ『継承』の能力の反対…何かを与えるんだ…」


「なにを言ってるかわからないよ父さん…」


本当は義人の話が理解できていた。




そして義人がやろうとしていることも。



「いいか、薫…。何かを得るときには同時に、何かを失っている。『伝承』ってのは、超能力の原理にすごく理にかなってんだ…。与えるときには…何かを失う」


「嫌だよ…父さん…嫌だ…いかないで…やめて…」


「どんな能力であろうとお前は普通の人間だ。驕ってはいけない…ハァ…ハァ…ゴフォ!」


吐血した血が僕の学生服を汚す。


「父さん!!!!!」


「聞け!!!!」


義人は父の顔ではなく、1人の男の顔をしていた。




これは男同士の対話だ。




「これから…お前は人間が醜く見えると思う、下等な生物に見えると思う!!……だが、これだけは言える。……なかには美しい人がいるんだって、かけがえのない奴がいるって。それを…忘れないでくれ」


「………父さん……」


僕は泣きながら父の目を見つめた。


ほぼ目をつぶった状態に近かった父は目を、口を歪ませ微笑んだ。


「きっとこの能力はお前の腕も、そして彩さんを守ってくれるよ」


そう言った時、肩に乗せている手が光った。

そして僕自身も光った。


「じゃあな…薫…母さんによろしく言っといてくれ……」


光が止むと父はその場で倒れこみ、動かなくなった。



「くッ…そ………くそ………くそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそガァァァ!!!!!!!!!!」


僕はそう吠えると全身に力を入れた。

その瞬間、ひねり曲がっていた腕がピンと伸び、使用できるまでに回復していた。


「彩さん……」


「!!…なに?」


彩さんは僕の背中でビクッとしながら聞いた。


「ここで待ってて…。君を、守るよ」


そして僕は一呼吸おいて、自分に言い聞かせるように言った。





「父さんとの、約束だからね」

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