西宮薫は襲われた。
全ての現象において、何らかの理由が存在し何らかの原因が生じる。
それを1つ、1つ理解し、受け止めるということが簡単そうに見えて1番難しいのである。
個々で解くのは容易いかもしれないが、それらを繋げ、1つの現象へ結びつけるという、小さい事柄を大きなものへと形成していく事は容易にはできない。
こんな事を語れるのもあの出来事を経験したからだ。
あの日までの僕では、語るのことはできない。
僕は彩さんと別れた後、家の扉の前で深呼吸をしていた。
このテンションで家に帰ってはまずい。
絶対親にバレてしまう。
それだけはいけない。昨日の今日だからな、絶対いじられる。
ふぅ…。
「なにしてんの、薫」
「ドッキリマンボウッッ!!!」
後ろから不意に妹に声をかけられ驚いてしまった。
いやーでも危ない危ない。変な姿は見られていないからな。うん。そう信じたい。
「キモいわ…早く入って」
「チッ…うっせーな分かってますよ入りますよ入りますよーだ」
さっきまでの上機嫌が嘘かのように今は不機嫌になっていた。
そりゃあな。妹だもん。腹立つわい。
しかし、不機嫌が続いたのは歯を磨くあたりまでで、全てを済まして部屋に行きベットで横になった瞬間思い出した。
………
可愛いな。おい!!!
ドキドキしてきたわ。
ちなみに僕はこんな感情を抱くのは初めてではない。
人並みに、幼稚園の先生が好きになって、幼馴染が気になったり、そんなことを経験してきた。
全員が昔好きになるであろう恋愛対象を好きになってきた。
あ、いや、付け加えておくが、もう幼馴染には抱いてないぞ?ありえんありえん。
いやはや。どーしたものか。この気持ち。
寝よう。
いや寝れんわ。
ドギマギしてるうちに寝たのだが、次の日の学校は遅刻した。
僕と彩さんは周りの人達には気づかれないように仲良くしていた。
なんせみんなのアイドル。僕と仲良くしてるなんてバレてしまうと僕がみんなの嫉妬の対象となり、最悪殺される。
あまり彩さんが男子と話している姿なんて見ないからな。
何かと帰りが遅くなることが多かったので、学校を出るのは5時あたりになってしまう。
彩さんはそれに合わせて教室で自主勉強をしてくれているようだ。
付き合いたてのカップルかよ。
初心初心でいいな。
まぁ実際は付き合ってなどいないのだが、それと勘違いされてもいいほど仲良くはなった。
まぁ勘違いする人は僕であって、周りの人間ではないのだけれど。なにせ誰も仲良い2人を見ていないからな。
「でねー?その時お母さんが言ったの!『念力があったら捻り殺してたのに』って!」
「いや、怖いわ!!笑って言うことじゃないだろ!!」
少し肌寒い季節の帰り道での話である。
お互いはもう黙認カップル的な感じではあったが、周りにはバラしていない。
もちろん、達馬や智美にさえ。
その時である。
例の別れる交差点。
運命が交差する場所でもあったのかもしれない。
「ははっ!!やっぱ彩さんは面白いや……ん?どうしたの?」
話の途中で、彩さんは交差点の真ん中を凝視していた。
「な…に…あれ…?」
「何って?…道だろ?視線の先は………」
僕は彩さんが見ている方を向いた瞬間硬直した。
そこには湾曲した空間が…いや、説明できる現象ではなかったが、例えばで表すと、空間が湾曲したようにねじれているのだ。
中心に集まるようにぐるりとねじれていた。
「…薫くん…にげよ」
「え?あ、うん…!!!」
僕は何から逃げるのかわからなかったが、まずあれが敵か、僕たちを狙っているのかもわからなかったがとにかくやばい、と思い全力で逃げた。
その2人が振り返って走り出した瞬間。
背後から聞いたことがないような轟音が響き渡った。
「!?!?」
「キャッ…!!!」
僕達は爆風で吹き飛ばされ道路に転がった。
「彩さん!!大丈夫!?彩さん!」
……
彩さんはぐったりとして動かなかった。
「お、おい…嘘だろ?おいおいおいおいおいおい!!!!!!」
僕は叫んだ。そしてあの交差点へと走った。
その交差点は衝撃で跡形もなくなっていたのだ。その上に立つ1人の男がいた。
「ケケケッ。あの男の息子に手を出したら楽に殺せると思ったんだけどな。親同様、簡単に死なねぇのな」
?親?何を言っている。今の僕はそんな事を考えていられる余裕はなかった。
「テメェが…テメェがやったのか!?!?!?」
あの超常的な現象を人が起こしたとは考えにくいのだが、発言、行動や態度を見ている限りその男がやったと感じたのだ。
超能力とか、信じる方じゃなかったのにな。
「あー?…あぁ、知らないのか。異能力の事。ケケケッ…そうだよ?俺がやったんだ。そーいや知らねぇ女が居たけどよぉ、ごめんな死んじゃったか?死んじゃったのか?悪りぃなそんな気はなかったよ」
「テメェ………!!!」
僕は軽い挑発に乗っかり殴りかかろうとした。
よく考えてみたら分かることだ、あんな能力を持ったやつに敵うわけがないって。
けど殴れずにはいられなかった。
「無理だよー…ケケケッそんな腕で何を殴るってんだぁ?」
男は僕の腕を掴むと、力を込め握った。
すると僕の腕がありえない方向へ向いた。
さっきの空間のようにねじれ上がった。
「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!!!」
「ん〜〜〜〜〜〜〜〜〜!心地よい悲鳴だ!聞かせろ聴かせろォ!!あのクソ野郎の息子をボコしてるとなると気分が良くなるぜぇーー!」
僕は男が言う事が理解できなかった。
というか今の状況で考えること自体が難しかった。
腕がひん曲がり、彩さんの意識が無い。
そして人外的な能力を使う敵。
絶望するには十分すぎる状況だった。
「うぐっ…ぐあっ…う…で…がぁ……!!」
僕は痛みが強すぎて何もできなかった。
動くことも、
考えることも、
助けを求めることも。
倒れている彩さんのところへ行くことも。
その時であった。
「大丈夫か…すまんな…巻き込んでしまって。あの薫の彼女は大丈夫だ。気を失っているだけだ、じきに目をさますよ」
聞き覚えのある声だった。
そう、西宮義人。僕の父である。
「こいつ…変な力…気をつけて…逃げ…よう…」
途切れ途切れだが、逃げようと伝えた。
僕の声を聞いて義人は
「そうか…痛みで辛いのか…その腕は治せないが、痛みからは解放してあげよう…」
義人は僕の腕に手を当てた瞬間、痛みが僕の腕から消えた。
「……!?!?父さん!!なんだよ…その力は…なんだよこの男は!?!?」
「おおー涙ぐましいねぇ…息子の痛みを『引き継ぐ』とは…。そんな事もできるのかお前の力は。余計に手に入れたくなったねぇー」
「誰が貴様ら外道のグループに入るかぁ!!!無能力の人間を2人巻き込むなんてテメェは正気かぁぁあ!?!?」
義人が憤怒をあらわにしていた。
こんなに怒っている父は初めて見た。
「……薫」
「!!…なに…父さん…」
急に名前を呼ばれてビクッとなった。
「彼女を連れて離れろ」
「……わかった」
「すまんな…お前たちを庇って戦える自信がない」
「あらら〜魔法界の軍人が情けない事を言うんじゃないよ」
「黙ってろ。今すぐ殺してやるからな」
僕は走って彩さんの元へ駆けている時、後ろから聞こえる父の声はいつもの父からは想像もできない声色をしていた。
あんなどす黒い声を出せるのか。
そして僕は彩さんをそっと動かし、仰向けにした。
そして、戦闘が行われようとしている方を向いた。
それが僕が初めて目にする異能力者同士の殺し合いである。