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プロローグ02

 その古びた日記の表紙には「Toad lily(トードリリー)」の文字だけが新しく記され、中には確かに彼女の文字で、事件に至るまでの日々が綴られていた。彼女の死の翌日。彼女の部屋のベッドの下からこの本を探り当てたのは、皮肉にも捜査の指揮を執る僕だった。


 亡母から引き継いだであろう手記の初めは、家族を失った彼女が組織に引き取られ、人間爆弾としての訓練を受ける様子が事細かに描かれていた。しかし暫くすると文量は一気に減り、疲労や厭世を示す一文が並ぶ期間が続く。経年の劣化と劣悪な環境の、滲みと寄れで皺苦茶(しわくちゃ)の手帳は、(めく)る力を間違えればうっかりと破れてしまいそうで、僕は急き立てる気持ちを必死に抑えながら頁を進める。


 僕と彼女が一緒に居た時間は、一ヶ月と少し。

 だけどもその僅かで絡み合った偶然の糸は、最初に彼女の首を締め、次に僕の人生にも呪縛を残した。

 

 やがて堪えたつもりの感情が堰を切って溢れ、滲みだらけの日記にまたいくつかの滲みを付け足す。或いは彼女も、そうやって涙を落としていたのかもしれない。僕が知らない陰の夜で。


 全ては遅すぎた。気づくことも、投げかける言葉も。

 あの日。砂漠の国の片隅で、一人の少女が命を落としたあの日。

 

 全ての美しかった日々の、その残滓に。

 せめてまだ、僕が人として生きていられるうちに、この告解と懺悔を。

 

 トードリリーの歌。

 A song less love song.

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