エピローグ
あれからどれだけ時が過ぎたか。
或いは僕は愚かで、さらに一層愚かになっただけかも知れない。
今の僕を見たら、トードリリーはなんて言うだろう。
――いや、砂のキャンバスになんて描いて返すだろう。
黒ずくめの軍服の、胸ポケットにカンムリウズラのブローチを付ける。
爆風でヒビの入ったそれは、トードリリーの遺体から十メートルも離れた先で見つかった。
あの日、可能な限り人から離れた彼女は、たった一人で命を断った。
――いや、絶たされた、か。
その翌月に声明を出した武装組織は、僕がこの手で指揮を執り殲滅した。
認めたくはなかった。僕の一言が彼女に死を決意させた事実を。彼女が僕に向けていた思いを、そして気づけなかった自身の暗愚を。
それから僕は恋人と別れた。
別れてからはずっと前線に留まっている。
トードリリーが散る間際、監視カメラに残された映像が頭にこびりついて離れない。
その口元は、確かに「死にたくない」と叫んでいた。
今の僕の願いはたった一つ。
もう二度と、彼女の様な存在を生まない事。
だから今日も、僕は銃を手に取る。
例えそれが、冥府へと続く過ちの道だとしても。
「こちらルフゼロ《メジヌン》。状況を開始する――、自由は常に銃と共に」
黒鉄の外装が金切りを上げ、僕は脱兎の様に砂塵を舞う。
全ての怨嗟に終焉を。
そして鳴けない鳥が救われる世界を。
なあトードリリー、君は天国に行けたかい?
だったら僕は、地獄の底で罪を贖おう。




