回想・フレデリック07
最後の日。
と言ってもその日の僕は、それが最後だなんて思いもしなかった。
いつも通り彼女と会った僕は、フライトのおおまかな日取りと、あとの煩雑な手続きはこちらで済ませる事を伝えた。話を聞く間ずっと落ち着きの無いトードリリーは、少し震える様に身体を僕に摺り寄せてくる。
不安なのかなと彼女の頭を撫でた僕は、少し早いけれどと用意したプレゼントをフードの中に忍ばせた。中には僕の国へ向かう為のパスポートが、レイリ・ロックフェザーの新しい名が刻まれている。本当はもっと奮発してあげたかったけれど、最近は忙しくて買い物にも行けなかった。
だから埋め合わせは帰ってからさせてくれと内心で詫びながら、僕は彼女を背にゲートをくぐった。
掃討任務も佳境だ。これが終われば年末まで幾分か落ち着くだろう。外には装甲車が止まっていて、さらに前線の臨時司令部まで向かう手筈だった。
――なに、終わらせるさ。娘の帰国にパパが付き添えないとあっちゃあ沽券に関わる。
そうだ、これからはトードリリーは僕の子になるんだ。もう少し……公私混同は差し控えなければ。幸せにしよう。今までの不幸を全て笑い飛ばせるくらいに。
現場への車中。
僕の脳裏に描かれていたのは、遠い未来への漠たる希望だけだった。
人と人は分かり合える。敵対していた筈の僕たちでさえ、こうして新しい日々へ手を取り合って踏み出せるんだ。今生きている、そしてこれから生まれてくる子どもとだってそれは出来る筈だ。――この眼前の争いさえが無くなったなら。
――ドン。
気のせいか、爆音が背後から聞こえた気がした。
そんな訳は無い。なにせ後ろには基地しか無いのだから。
どうやらまた戦闘が始まるらしい。
無辜の命が失われていない事を願いながら、僕は正面に照準を向けた。




