ヤンデレ1【妄想癖男子×無邪気女子】
これからはヤンデレ中心の話を書こうと思います
6月1日
「お客様、こちらなどはいかがでしょうか?」
店員に進められた結婚指輪。ハート形のダイヤで色は赤色。よくおとぎ話に出てくる、女王様がつけていそうな指輪をもう少し控えめに、結構小さくしてなかなか可愛らしい指輪だった。
これなら、雫にも似合うな。
「彼女の指はもう少し細いな・・・。サイズ、もう少し小さめのありますか?」
「ありますよ、少々お待ちください」
髪が少し短めの女性店員は曇りもない笑顔で僕にそう言うと、少し小さめの指輪を見せてくれた。
「どうですか?これなら入りますか?」
「そうですねぇ・・・。うん、このサイズなら雫・・・いえ、彼女にもぴったりです」
「あら、しずくさん。っていうんですね。可愛らしい名前」
店員はくすくすとひかえめに笑った。そうだろう。僕は名前を呼ぶことにいっつも思っていることだ。
「いいんですか?雫さんに意見をお求めになれなくても」
「あぁ、いいんですよ。サプライズですから」
まぁ、と店員は驚いた顔をした。確かにサプライズなんて日本人がやるのは珍しいだろう。テレビではよく外国人が好きな人に突然プロポーズをしたりするもんだが、日本は恥ずかしがり屋の人種だからな。
「それはびっくりするでしょうね。でも、指の大きさとか良く分かりましたね。本人に聞いたんですか?」
ずかずかと質問する女性だ。こういう恋愛話などが好きなのはやはり女らしい。
雫も、こんな感じな女の子でも結構かわいいかもしれないね。
「いえいえ、さすがにそんなの聞けませんよ」
「そうですよね。ではどうやって?やっぱり付き合った時間が長いと分かるものなんですかねぇ」
「いえ、付き合ってませんよ」
「え?」
店員はまた驚いた顔をした。さっきの顔とは違い、不安が混じった顔だ。
「だけど、わかるもんなんですよ。だって」
僕はさっきから店員が見せている笑顔を真似て笑って見せた。
「ずっと、見ていますから。雫の事」
曇りもない、無邪気な笑顔で。
「お前ってなんか、前より明るくなったよな」
一緒にゲームをやっていた霧斗にそんなことを言われた。
片手にゲーム機のコントローラー、片手には僕が買ってきたクッキーをつまみながら。
「そうかなぁ、そこまで変わってないと思うけどなぁ」
「いーや。お前結構明るくなったよ。目が輝いてるもん」
霧斗がそういうと、康祐も両手にコントローラーを握りしめながら細かくうなずいた。
康祐はゲームに集中しやすい体質なので、あまりゲームの時はしゃべらない奴だ。
「えー僕って昔そんなに目腐ってた?」
「まぁ、例えるなら死んだ魚のような目だったな」
ひどいなぁ、と僕が起こると霧斗は笑った。だけど、ぎこちない笑い方だった。よく見ると康祐もテレビをにらんでいたので、表情は分からなかったが渋い顔をしている。
どうしたんだろう、僕はとりあえず疑問を2人にぶつけてみた。
「なんで2人とも苦虫を噛み潰したような顔をしてるんだい?クッキー、おいしくなかった?」
「いや、そういうわけじゃないんだが・・・」
霧斗が言葉を濁した。彼はズバズバ言うタイプなのでこういうことはめったにない。
しびれを切らし、僕がさらに問い詰めようとした途端、急にテレビ画面に一時停止の表示が出た。どうやら康祐がボタンを押したらしい。
「あ、あのさ・・・関」
康祐は目をキョロキョロ動かしながらしどろもどろに話した。
「俺、今からすげぇ失礼な発言するけど・・・・怒るなよ?絶対・・・怒るなよ!」
「いいよ、というかコースケはしょっちゅう失礼な発言するじゃないか」
「話を逸らさないでくれ・・・いいかよく聞いてよ」
康祐は息を大きく吸って、やがて決心したように言った。
「お前って・・・雫の事あきらめたのか?」
彼は何を言ってるんだろうか。
僕の顔がそういってたんだろうか。康祐が苦笑いしながらあわてて言葉を紡いだ。
「い、いやあのな。ほら、雫って先月から亮太と付き合ってるじゃん。それ聞いた時のさ、あの・・・関、お前の顔がさ、絶望っつーか・・・この世の終わりみたいな顔してたからさ・・・」
「うん」
「う、うん。それでさ・・・みんな結構気遣ってさ、お前を刺激しないように何も言わなかったんだよ。特に亮太が一番気を使ってたんだ。けどお前・・・6月入ってからすごく明るいよな?」
「うん、そうだよ。で、なんでコースケはそんな事を僕に聞いてるの?」
康祐は自分が失礼な発言をしてるんだと思ってるんだろう。顔が青白い。
「だ、だから・・・俺はてっきり吹っ切れたんだと思ったんだよ。お、お前が雫をあきらめたのかと思って、もう雫のことを気にしていないんだろうな、って。でもさ・・・」
康祐はごくっと唾を飲み込み。今一番聞きたいことを僕に質問した。
「それにしては妙に元気だなって・・・なんか、無理してない。まるで・・・」
雫が誰とも付き合ってない、と思っているみたいだ。
と、康祐は震えながら僕に言った。
見れば霧斗だって目をそらしている。
僕は少し息を吸って、心を落ち着かせてからゆっくりと笑った。
「もう、いいんだよ」
「えっ・・・?」
2人とも声をそろえて僕の顔を見た。
「ってことはあきらめ・・・」
「もう、いいんだ」
2人とも、もう何も言わなくなった。
僕は腕時計に目をやった。1時34分。
「それじゃ、僕は今日行くところがあるからまた今度ね。」
持ってきたショルダーバックを肩にかけ中身を確認した。
よかった、持ってきてたか。
「あ、あぁ。またな」
霧斗はやっぱりぎこちない笑いで僕に手を振った。康祐は下を向いてこっちを見ようともしない。
やっぱりさっきの話の事だろうか。僕は気にしてないけど、彼は礼儀正しい人間だからね。ひどく後悔しているんだろう。
僕は康祐の家から出て、空を見上げた。曇り空。強い雨が降りそうだなぁ、急いで行くか。僕は急ぎ足で目的地へと向かった。
1時50分。
私は昼食を食べ、食器を洗っているときにふと時計に目をやった。
そういえば見たい番組があったんだ。
私は急いで洗い物を終わらせて、急ぎ足でリビングに向かってテレビの電源を入れた。だけど、まだ始まっていなかったので安心。テーブルに置いてあるスマホの電源も入れた。
メールが一通。
「亮太からだ!」
私の彼氏、亮太からメールが届いて自然に顔がほころんだ。メールの内容は
『今日は雫の誕生日だよな!とってもうまいケーキ買ってくるから一緒に食おうぜ(^ω^)』
「・・・私の誕生日覚えてくれたんだぁ」
やばい、顔がにやけている感じがする。私は近くにあったクッションに思わず顔をうずめる。数秒そうしてからまたメール画面を見て、またにやけた。
「送信、早くしないと!」
がばっと起き上がり、両手で文字を打つ。
『ありがとう!絶対一緒に食べようね!楽しみにしてるよぉ~』
よし、こんなもんでいいでしょ。「送信」を押そうとした。すると
ピンポーン
「ん?」
誰かがきた。
スマホの時刻を見ると2時ピッタシ。
「おかしいなぁ・・・この時間に誰だろう?」
宅配便でもあったかな?だけど、亮太は荷物が届く日はいつも私に言う。
まず、言わなくてもだいたい夕方か夜中に届けるようにしているはずだ。
「もしかすると私が今日仕事を休んでいるからこの時間に・・・?」
そんなことを考えてるうちにまたチャイムが鳴った。
いけない。待たせるのはいけない。私は「送信」を押すのも忘れて急いで玄関に駆け付けた。
「今出ます!」
玄関につきドアノブを回した。
そこにいたのは意外な人物だった。
「あれ?」
私は笑顔でその人に挨拶と質問をぶつけた。
「珍しいね。関が私の家を訪れるなんて」
俺は関を見送ってから、しばらくは康祐とゲームをしていた。だけど3時でゲームをやめ、雑談をすることにした。
外を見ると強い雨が降っていた。
「うっわ、雨降ってんじゃん。よかったー傘持ってきて」
「あ、あぁそうだな・・・持ってこなくても俺がかしてやんのに」
康祐は笑っているが、やっぱりさっきの事が思い出してしまうのかどことなく目が暗い。
「・・・なぁ、康祐。そんなに思いつめるなって。あいつも言ってただろ?気にしてないって」
「いや・・・それもそうだけど・・・」
「ん?じゃあ関のあの見事な豹変っぷりのことか?まぁ確かにあれは俺もびっくりしたけどよ。本人も気にしてたんだから、ああやって明るくしたんだろ?それは俺らが気にすることは・・・」
「違うんだ!」
いきなり顔を上げて、強く叫んだ。その声の大きさに俺はびっくりした。
俺の顔を見て察したのか、康祐が謝ってきた。
「ご、ごめん。急にデカい声だして・・・」
「いや、大丈夫だ。でも、何が違うんだ?」
俺が疑問を聞くと、康祐は目を伏せてなかなか話そうとしない。
「それは俺に言えないことなのか?それなら俺も無理には聞こうとはしないが・・・」
「いや、そうではない。ただ・・・」
「ただ?」
「俺が見たことがあまりにも信じがたいことだからさ・・」
康祐は大きく息を吸って、真っ直ぐに俺の目を見た。
「あのさ・・・俺関の鞄の中見ちゃったんだよね」
「は?」
「い、いや・・・なんかあいつってさ俺たちとやりたいゲームと財布、携帯ぐらいしかもってこないじゃん。だから、鞄の中いっつもすっかすかなんだよ」
いまいち話の内容が見えてこない。康祐は何が言いたいんだ?
「それが、どうかしたのか?」
「うん。いつも空っぽに近い鞄なのに・・・今日は、つか今日だけだと思う。少しふっくらしてたというか・・・荷物が多めに入ってたんだ」
「今日?今日はなにかあった・・・あ」
俺はカレンダーをみた。6月6日。
「雫の誕生日・・・だよな」
「うん。関って雫の事好きじゃん。だからなんかプレゼントでも買ったのかなぁって。ちょっと気になったんだ」
康祐は、関がトイレに行ってる時に鞄の中をのぞいたそうだ。
別にやましい気持ちなど考えてなくて、ただ疑問に思って鞄の中身を見た。
見てしまったんだ。
「それが・・・」
すると康祐はカタカタと震え始めた。
俺は心配したが、康祐は目をそらしながら話の続きを喋り始めた。
「小さな箱だったんだよ」
「小さな箱?」
小さな箱。なんだろうか。雫に似合うピアスとかそういうものか?
「別にプレゼントならいいんじゃないのか?」
「違う。違うんだよ・・・関は、壊れちゃったんだよ」
何が言いたいんだ?また同じ疑問に戻った。
「おいおい、プレゼントぐらいいいだろ」
「・・・はぁ、霧斗は鈍感だね」
「はぁ?いいから教えろよ。その箱の中に入っている・・・ん?」
小さな箱。関は雫の事が好き。その単語がパズルのようにあてはまっていくのが分かった。
「おい・・・その箱の色って」
「パッと見黒だけど、正式には深い青色だろうね」
箱の色を聞いて、俺は背筋が凍りそうになった。
「まさか・・・あのバカ」
「そうだよ、多分関は・・・」
康祐はいったん言葉を区切り、俺を真っ直ぐ見て答え合わせをした。
「雫に婚約指輪を渡すんじゃないかな」
2時10分
「今日さ、確か雫の誕生日だったよね」
そう関は言うと鞄の中身をごそごそと何かを探し始めた。
「だからさ、プレゼントあげようと思って」
「私の誕生日覚えていたんだ。嬉しいなぁ」
関はゲーム好きで、よく寝てて、無愛想な顔だけど、こう見えてよく人を見ている人間だ。仲間想いといっても過言ではない。よく康祐や霧斗、亮太にもお菓子を持って来たり、ゲームの手伝いとか快く引き受けてくれる。
最近私から距離を置いているって思ってたけど、そうでもないかもしれない。とにかく、私は嬉しかった。
それにしても、プレゼント何かなぁ。
プレゼントの中身を考えていると、関は鞄から取り出した。
「はい、これ」
なかなか見れない関の満面の笑み。
だけど
「・・・え?これって」
関の手の平にある箱。その箱は小さくてそしてさわり心地がよさそうな、とても黒い箱。
「・・・せ、関?」
私がリアクションに困っているのを見ると、関は少し顔を赤らめた。
「あけてみて」
関がいった通りに、ゆっくりと私はその箱を開けてみた。
中には赤いハート型のダイヤの
指輪。
「多分、ピッタシだと思うよ」
関は照れながらもやはり満面の笑顔でそう言った。
指輪はとても可愛らしく、とてもきれいなものだった。よくアニメで見る王女様やお姫様がつけているような指輪だ。
「ね、ねぇ関・・・これってさ」
私が言葉に詰まっていると、関はなんのためらいもなく
「うん、結婚指輪。ようやく雫の分も買えたんだ」
さらっと、まるでこれが普通なんだと思わせる口ぶり。
背中に冷たい風が通ったような、寒気がした。
さっきまでは可愛らしいと思っていた笑顔も、今だととても恐ろしく感じる。
私は感情を表に出さないように、ずっと思っていることを問いかけた。
「あ、あのさ・・・なんでこれを私に?」
ぎこちない笑顔だっただろう。でも関は首をかしげてから、また笑顔で
あの、満面の笑みで
「なんでって・・・俺達結婚しただろ?」
また、寒気がした。
3時30分
「な、なんでそんなこと・・・」
俺は関の行動が理解した。
関はどうしようもなく雫が好きなんだろう。だけど、雫は亮太を選んだ。雫は関の気持ちなんか知らないで亮太と付き合ったんだろう。雫はそういう奴だ。無邪気、と言えば聞こえがよくなるが悪く言えば無知だ。だけど、知らないもんは知らない。仕方がない。不可抗力だ。
「そんなこと?・・・いや違うと思う」
目をずっと伏せていた康祐は、顔を上げ、悲しそうな顔をしていた。
「それしかなかったんじゃないかな・・・」
関はどっちかというと内気な性格だ。まぁ、そのままスパッと違う奴と付き合っている好きな女に「お前の事が好きだ」なんていう奴のほうが少ないけどな。だけど関は内気だけど、消極的な性格ではない。だから雫の事を祝ってやろうという気持ち半分、というより半分以上雫が欲しいという、欲求があったんだろう。
「関は、ずっと苦しんでたんだな・・・」
「そうだろうね。でも、悩みに悩んで出た結果が・・・」
雫と自分は付き合っている。もう結婚するんだ。
と、いう妄想。
康祐は静かにそういった。
「妄想に逃げ込んでしまえば何も苦しくない。自分の見たかった世界が見れるからね。」
「それが、行き過ぎてああなったのか」
「行き過ぎたっていうか・・・麻薬みたいで『堕ち過ぎた』って言った方がしっくり来るね。あまりにも見たい世界が現実のものにしたくてしたくて・・・気づけば現実と妄想の区別がつかなくなったんじゃ・・・」
「・・・あのバカ野郎」
俺は関に対して哀れと怒りが込み上げてきた。
そうでもしないと苦しみが取れなかったのか?
妄想なんかする暇があるなら雫の事を見守るという判断はできなかったのか?
いろんな疑問が浮かんでくる。
だけど、どんなに悩んでいても後の祭り。
「もう手遅れ、かな・・・」
康祐があきらめたかのようにぼそっとつぶやいた。
俺はその言葉を聞いて、反射的に立ち上がり康祐の胸倉をつかんだ。
「てめぇ・・・ふざけんなよ」
さっきまでの疑問がすべて吹っ飛んで、今は康祐に対しての怒りしか思いつかない。俺は康祐を思い切りにらんだ。
だけど、康祐も負けじと睨み返した。だけど涙目で声も震えている。
「だって、だって!ああなってしまったらもう手遅れじゃないか!」
「手遅れとか決めてんじゃねェよ!ああなってもまだ・・・まだ取り戻せるはずだろ!」
「無理だよ!あんな風になった関は初めて見たよ!お前も見ただろ!?最後に話した時の関の目!あんな・・・あんな虚ろな目をした人間見たことないよ!」
思わず俺は言葉を詰まらせた。確かにあの時の関の目は怖かった。どこまでも黒く、どこまでも光が見えない。そんな目だった。
だけど
「それがなんだよ!あいつを救ってやるのはもう俺達しかいないだろ!あいつの気持ちを良く分かっている俺たちが救わないと・・・誰があいつを救うんだよ!」
気づけば俺も康祐も泣いてた。関はどうしようもない馬鹿で、雫が好きすぎて前が見えないぐらいの妄想癖があるけど、それでも20年間一緒にやってきた仲間なんだ。
康祐は俺の言葉を聞いて目を見開いてた。それから嗚咽を漏らしながら泣いた。俺も胸倉から手を離し、目をこすった。
「あいつを引き戻すぞ」
「・・・うん」
「まずあいつを一発殴ってから・・・それでも起きないなら何回も殴る!」
「・・・うん!」
康祐も涙を服で拭きながら元気にうなずいた。
「それでも覚めないなら・・・お前だけ苦しんでるわけじゃないんだってことを伝える」
「うん!・・・えっ?」
康祐は勢い良くうなずいてから、言葉の意味を理解したんだろう、俺の顔を見る目がどんどん丸くなっていく。
さすがの俺も顔が赤くなっていくのが分かる。
「霧斗・・・やっぱり君も」
「う、うるせぇ!と、とにかく俺は関の所へ行ってくる。多分雫の家だろ」
「そうだね。まずそこ以外にいかないと思うよ」
「あぁ。お前も行くか?」
康祐はまた眼を伏せて言いにくそうに体を縮める。
「僕は・・・あんなことを言ってしまったから、会いにくいよ。だから関が元通りに戻った時に、謝るよ」
「・・・そっか」
「ごめんね・・・僕はどうしようもない」
弱虫なんだ。
俺はそれ以上何も言わなかった。
言わないほうがいいだろう。これは康祐なりのけじめのつけ方だ。
「分かった、絶対引き戻してくる」
俺はコートを羽織って玄関から出た。外は土砂降り、腕時計を見ると4時。
「・・・いこう」
俺は雨の中、全力疾走で雫の家に向かった。
友達を、仲間を、どうしようもない馬鹿を救うために。
まだ途中なので、しばらくお待ち下さい