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『僕』と『君』の話

恋の予感

作者: hibana


 僕は恋を失った。正確に言えば、恋をすべき相手を失った。彼女が自ら命を経ったその時に、僕の恋心は永遠にへそを曲げてしまったんだ。


 それから僕は、恋について深く考えるようになった。恋ができない人間として、誰よりも客観的に考えられた。


 例えば一目惚れについて。僕は一目惚れをしたことがなかった。目があった瞬間にビビっとくるというあれだ。意味がわからない。顔が好みとかそんなことなのだろうか。僕が出した結論は、『完全なる判断力の欠如』だった。


 例えば結婚について。彼らはなぜ結婚などしたがるのだろうか。約束をしたいというその気持ちはわからないでもないが、結婚すると恋は終わると言う。昔から言われていることだ。それでも結婚したがる人間。僕はやはり『判断力の欠如』としか思えなかった。


 例えば友愛と恋愛の違いについて。『友愛』とはその人の自己を認めて愛すること。『恋愛』とはその人に自分を重ねること。ならば、『友愛』から『恋愛』になることはないのか。『恋愛』が『友愛』であることはないのか。


 僕はずいぶん考えて、それでもわからないことは本を読んだ。あまり納得のいく解答はなく、どれも同じように見えたが、それでも本を探さずにはいられなかった。不思議なことに、本というのはいつまでも『答えがあるのではないか』という魅力を絶やさずにいた。


 今日も僕は本屋に来ていた。しばらく見ていると、興味をひかれる本と出会った。


〈恋する脳を科学する〉


 題名からして意味がわからない。そこがいいと思ったのだ。手を伸ばしたその時に、誰かと手が触れた。微かな蜜柑の匂いに少し下を見ると、小さな少女が精一杯背伸びをしてその本に手を伸ばしていた。


 少女は可愛らしく僕を見上げ、小首をかしげる。


「どうして恋って、説明できないような気持ちで始まって、納得できないままに終わるんですか?」


 胸が高鳴った。永遠にへそを曲げたままだと思っていた僕の恋心が高らかに叫ぶ。


 恋ですよ。

 恋をしたんですよ。

 僕は恋をしたんですよ。


 たぶん、と口にしていた。

「たぶん、僕らはこの世界が好きなんだ」


 そして僕らは見つめあった。思い出したのは、彼女のことだった。


 彼女は素敵な人だった。強がりでわがままで可哀想で子供っぽいところもあって、守ってあげなきゃと必死になった。愛している、と思った。その気持ちは本当に本当で、本なんて読むまでもなく答えは見つかっていた。


 納得なんかできないけれど、僕はこの恋をあきらめるだろうと思った。


 少女のほうも、一度瞬きをして諦めの笑みを浮かべる。僕らはもうなにも言わず、別々に本屋をあとにした。


 そういえばあの本には、なにが書かれていたのだろうかと、僕は少し気になった。

 ただただ思考するだけの恋愛小説。

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