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ラーメン屋

作者: おい

ラーメン屋

これは私の無知から起きた事件である。この出来事から改めて知らないことは損なのだと学ばせてもらった。地元から遠征していたため土地勘のない私は夕食を求めて街を歩いていたのだが、小さなビルの前に二郎という店の看板を見つけた。これは東京にあるラーメン屋のことだと直ぐに思い、以前から二郎のラーメンを食べてみたいと思っていた私にはまたとない好機であると思い気分が高揚していた。そして東京以外にもお店が存在しているのだと知らなかったので非常に特をした気分になっていた。夕食はここにしようと決め、エレベーターに乗りながら何をマシマシしてやろうかとほくそ笑んでいた。

エレベーターから出るとお店はすぐ目の前にあったのだが違和感があった。まず、カウンター席が見当たらない、テーブル席もなくふすまのようなものが見える。本当にラーメン屋なのか疑問に感じたが次郎はそういう店構えをしているのも特徴なのだと解釈することで納得することにした。時間も遅かったため焦っていたこともある。店の前についたのは22時30分ごろだったか、閉店時間を知らないため、ラストオーダーの時間が過ぎてしまっては困ると思っていた。そのため、あまり考えずまだ大丈夫ですかと入口付近の従業員に声を掛けてみた。表情に若干の曇が見えたが大丈夫ですと答えてくれたので中に入ることにした。

座敷に通され従業員からメニューを渡されたのだがどこにもラーメンの文字が見当たらず全面に押し出されているのは鍋であった。しかし、その動揺を悟られまいとすまし顔で決まったら呼びますと言っておいた。さて、どうしたものか、ラーメン屋だと思って入ったが鍋屋だとは虚をつかれた。完全にラーメンの気分であったのにどうしてくれようか、いっそ帰ろうかとも考えたが、閉店時間を確認して部屋まで通されたのではそうはいくまい。そんな恥ずかしことはする勇気もなかったため諦めて鍋料理をつつくことに決めた。よく見れば美味しそうな鍋がたくさんあるではないか、それに私はお店で鍋料理を食べたことがない。ならば、これはいい機会なのではないかと完全に鍋の気分に切り替えることに成功した。段々と人生初の鍋に向けてモチベーションが上がってきたところで従業員を呼び出した。

「ご注文をお伺いします」

「カニ鍋をお願いします」

「申し訳ありませんが、鍋は2人様からとなっております」

「……あっ、そうですか、1品物はどこにありますか」

「それでしたら、こちらになります」

「……じゃあ、ライス中と串と、あっ、これお願いします」

「かしこましました。失礼します」

大恥をかいたではないか。まさか鍋は2人以上でないと食べられないとは思わなかった。従業員の表情も曇るはずだ、まず鍋を一人で食べに来る奴なんてそうはいないのだろう。

鍋を食べられないとわかったあとからはやけに周りの声が耳に入ってくるような気がする。若い男女のグループが近くにいるな、楽しそうに会話が弾んでいるなと分かると悲しい気分になってきた。

結局、私は鍋もラーメンも食べることができなかった、苦い二郎デビューのお話である。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 読ませていただきました。店内に入ってから、意欲が落胆に変わったわけですね。入店して、予想外ということは確かにありますね。 [一言] ありがとうございました。
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