彼女の魔法使い
『シンデレラ』のお話をかなりアレンジして書いています。
元の話が好きで変えてほしくないという方は、ご遠慮ください。
なお、大まかなシンデレラのあらすじをしらない方には読みづらい作品ですのでご注意ください。
美しい姿に変わった姫は魔法使いの方を向いて言いました。
『ありがとう!魔法使いさん!!』
優しく嬉しそうに微笑む姿はとても可憐で、見慣れていた魔法使い自身でさえも思わず見とれてしまうほどでした。
「…さあ、行っておいでシンデレラ。約束どおり、十二時までには帰ってくるんだよ」
『はい!行ってきます!』
ガラスの靴をはいたシンデレラは、軽やかにお城の階段を上って行きます。
振り向くことなく。
光り輝く世界へと。
「……………………」
『…本当に、よかったのかい?』
魔法使いの背後に静かに姿を現したのは、黒いローブをまとった女でした。
「…はい。お師匠さま…これできっとシンデレラは王子と出会える…」
『お前がいいなら、私も口出しはしないよ…けどね』
「……?なんでしょう?」
『いや…お前はなかなかできる使い魔だったのにね、と思ってさ』
「ふふふ…。ありがとうございます」
『まったく、新しい使い魔を育てるのは苦労するんだよ?』
「大丈夫ですよ。お師匠さまなら」
そう言って、白いローブをまとった魔法使いはそれを脱いだ。
下から現れたのは、橙色の髪をした青年だった。
『私の好きな夕焼け色も、これで見おさめか……。せっかく私好みに仕上げてやったというのに、人間の娘一人に力を使い果たしてしまうなんて…』
「さっきは『お前がいいなら~』とかなんとかおっしゃっていませんでしたか?」
『………………そんなところだけ私に似おって……』
「だって、私はお師匠さまの最初の使い魔、ですからね」
青年は小さく笑うと、女の方に向き直りました。
「それに、まだ使い果たしていません。今夜の十二時までは……」
『もうすぐさ…』
「そうですね…。それでも、あの子をまだ見ていられる」
『………好きにしな。最後の、命令だよ』
「…お師匠さま、大好きです」
『…………知らん』
黒いローブをまとった女は、それを翻すと瞬く間に消えていってしまいました。
「………ありがとう、ございます」
橙色の髪の青年は女の残した大好きな香りを吸い込んでから、お城の大広間が良く見える木を探して空へと舞い上がりました。