2話
― 私、坂崎璃子が「リシェ・ウォーカー」として転生してから早15年になりました。どうやら私はこの異世界「アレステイア」の中の大国、アウステス国の伯爵家の娘に生まれたようです。まだまだ下手ではあるけれど、なんとか日常生活には支障がないくらいにはこの世界の読み書きが出来るようになってきたし、家族もみんな私を愛してくれているので、ほぼなにも問題らしいことが無く幸せに暮らせています。…そう、『ほとんど』は… ―
「リシェ!聞いてください!アルフレード達ったら酷いんですよ!?私に『そろそろお前も妹離れをして嫁を見つけろ。跡継ぎだろ!』なんて言ってくるんですよ!?」
―またか…この話題は数年間ずっと平行線なのでめんどくさいんだけどなぁ…。 アルフレードさん達もお疲れ様です、兄がいつもすいません… ―
と妹が心の中でその件の友人に詫びを入れているとも知らない上の兄、エンリケが綺麗な顔を怒りに染めながら私の部屋でいつもの話をし始めた。
「エンリケ兄さん…それはラフォレ伯爵様達が正しいと思うよ…。」
なぜなら貴族の息子、それも跡継ぎとなると10代半ばですでに婚約者を見つけ、20歳になるころには婚姻、もしくは婚約してるのがこの世界での常識なのだ。しかし、エンリケは今年26歳にもなる伯爵家の跡取り息子だというのに、恋人どころか女の影すら無いので家族どころか友人たちですら心配しているのである。なので、リシェはいたって静かに兄を諭したつもりだったが、さらにエンリケは悲しげでいてかつ、悔しげな表情になったかと思うと、声を荒げた。
「いいえ違います!そりゃ私だってリシェみたいな子だったら結婚するのもやぶさかではないですけれど、そんな子が周りにいないんだからしょうがないじゃあないですか!?」
―そんなの知るかこのシスコン野郎!折角のイケメンなのにもったいない!―
と、これまたいつもの兄の酷いシスコン発言に、やはり心の中でリシェがツッコミを入れていると、部屋の扉が再び大きな音を立てて開かれた。
「リシェ!聞いてくれよ!レオンg…っ!」
「お前もかブルータス!」
「えっ、ブルータスって誰だ? 」
「おっと…!」
― 思わず叫んでしまった。いけないいけない、ここでは誰もこのネタに正しく反応なんてしてくれないのだから、自重しなくては。 ―
「…はっ!ま、まさかブルータスって恋人か!?何処のどいつだ!ぶちのm…ゴホン。ちょっと話し合いするからお兄ちゃんに話してごらん!」
― ブルータスは前世の世界で有名な格言に出てくる昔の人名前です。 ―
とは言えずシスコン野郎2号で下の兄、ネーデを軽く睨んだ。どうせこの兄もさっきのエンリケと大して変わらないような内容を、これまた同じくいつもの様に話しに来たに違いないのだから。
「恋人なんていませんよ。何言ってるんですか。」
「え、ああ、いないなら良いんだ。…それより聞いてくれよ!レオンが『君ももう22歳なのだから、いい加減妹離れをして恋人でも作ったらどうだ?ま、出来たらの話だがな!(笑)』なんて言ってきやがるんだぜ!自分だって恋人いねえくせに鼻で笑いやがって!」
― レオンというのはこの国の王子の名前だったような気がするんだが、幼馴染というのはこんな不敬発言が許されているのだろうか…、というか性格悪いなレオン殿下! ―
と、そんな遠くの王子の性格よりも今は身近な兄たちのほうが問題だ!なんとかしなくちゃ!
「…なんというか、私からも妹離れしてくださいとしか言いようがないのですけれど…。」
「「それは無理かな(だ)!」」
― 性格合わなさそうな癖にこんな時だけ息の合う兄弟だなこいつら!―
そう、この兄たちの重度なシスコンっぷりが今の私の数少ない頭痛の種です…。
補足:「アルフレード・ラフォレ」長男エンリケの友人の伯爵。「レオン・メル=アウステス」主人公の住むアウステス国の第一王子。二男ネーデの悪友でドS。 リシェのシスコン兄達です。次こそは父親を出したい。