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朝起きたら、パティーメンバー(主治医)が追放されていた

作者: らいら
掲載日:2026/05/09

朝起きて、顔を洗って、服を着替えて。

ひと段落したところで、宿にある自分の部屋を出た。

1階に降りて、いつものように朝食を食べながら、パーティーメンバーが集まるのを待つ。

この勇者パーティーの中で、僕(勇者)と錬金術師だけが朝型で、他のメンバーは夜型なので、いつも僕は皆を待つ側だ。

だから僕が1番乗りだったことは、大して気に留めるべきことでは無いはずだった。

はずだったのだが・・・・・・。




しばらく待っていると、まず弓使いが来た。

弓使いーーーーラオは僕の向かいの席に座った。

いつもの定位置である。


勇:「おはよう、ラオ。今日もコーヒーで良かったかい?」


弓:「ああ。いつもありがとうございます。」


メンバーが来るまで暇だったので、カフェラテを頼んでおいた。

ラオは、戦闘では頼もしい限りだけれど、私生活ではちょっと抜けており、ついついお世話したくなってしまうようなお姉さん?お兄さん?的存在だ。

この砂糖とミルクのたっぷり入った飲み物が良く似合っている。

主観だけれどね。



また少しして、戦士ーーーーリカルドが来た。

昨日の戦闘の疲れを全く見せず、朝からダンベルを持っている。

これもいつものことである。

剣を扱う勇者として、彼のような立派な筋肉に憧れはあるのだけれど、こうはならなくていいかな、と思っている。


戦:「おう。今日はラオの方が早かったか。」


弓:「はい。ワタシもたまにはね。」


勇:「おはよう、リカルド。今日も走り込みに行くのかい?」


戦:「そのつもりだぜ。」


勇:「そうか。あと15分もすれば全員そろうと思うから、それまでには一旦帰ってきてね。」


戦:「おうよ。」



10分と少し経っただろうか。

魔法使いーーーーレベッカが来た。

まだ眠そうな目で、「とりあえず着替えだけ頑張りました」という状態なのだが、どことなく寝起きの色気がある。

さすが二つ名が”魅惑の魔女”なだけはあると言えるだろう。


勇:「おはよう、レベッカ。」


魔:「うむ・・・・・・むにゃむにゃ。」


弓:「ちゃんと起きてください。ほら、テーブルにぶつかっちゃいますよ。」


そう言って、ラオがレベッカを自分の方に引き寄せて、隣に座らせる。

2人はこのパーティーが結成される前から面識があったらしく、いつも何かとお互いを補いあっている。

ただ、そこまで親しい雰囲気ではないので、本当に助け合いの精神なのだろう。



ほどなくして、リカルドが帰ってきた。

肌を伝う汗を拭きながらこちらへ向かってきて、僕とラオの間にある席ーーーーーーいわゆるお誕生日席にどっしりと構える。

そして、火照った体を冷ますように、手で仰ぐ。


弓:「全員そろったようですね。では、今日の予定についてですがーーーーーー。」



勇:「ちょっっと待って!!」



戦:「どうかしたか?」


魔:「うぅ、朝から大きい声をだすでない。」



本当は、もっと早くから話題に出すべきだったのだろうが、誰も気にする様子がなかったので、なんとなく言い出せなかったのだ。

しかし、違和感自体は、はじめから感じていた。

いつも通りの中に圧倒的に欠けているモノ。

僕の席の隣が空白のまま埋まらない理由・・・・・・。


勇:「リナは?!」


戦:「リナなら今頃はじまりの村に戻ってるんじゃないか?」


弓:「危ない目には遭っていないないと思いますよ。」


魔:「そんなに心配なら、わしが水晶で視てやってもよいぞ。」


え、なに?その「急にどうしたの?」みたいな視線は。

僕がおかしいのか?

いや、そんなはずは無い。

昨日だって、この宿の同じテーブル、同じ席の配置で、5人で話し合いをしていたじゃないか。

それなのに朝起きたら1人だけ消えているなんて、簡単に受け入れられることではない。

しかし・・・・・・。

このパーティーの破天荒さを鑑みるに、そんな馬鹿な!とは言えないのだ。



勇:「よし、皆。今日の任務は中止だ。ここじゃあ何だから、僕の部屋に来てもらおうかな。何をやらかしたしたのか、きちんと白状してもらおうじゃないか。」


いつも人当たりの良い勇者の面影は微塵もなく、かろうじて表情だけは険しくないが、パーティーメンバーは背筋の凍る思いであった。

ちなみに、朝食や談話目的で同じ室内に居合わせた人達は、ただならぬ雰囲気を感じ取ってはいたものの、勇者の恐ろしい気配には、気づかなかったようである。










◇◆◇



勇者の顔は、「またか」という諦めと「こいつらいい加減にしろ」という怒りで、引きつっていた。

一方、旅の途中で、既に何度か勇者のお説教を受けているメンバー達は、顔面蒼白で、今にも泣き出しそうな者までいる。

とにかく、勇者の自室は、息をするのも苦しいほど冷え切っていた。

そして、これは比喩ではない。

感情を高ぶらせた魔法使いレベッカから漏れ出ている高い魔力によって、部屋には霜が降りていた。



勇:「まず、正座しようか。」


「「「はいっ!!!!」」」


勇:「で、何でリナが、ここにいないんだ?」


魔:「それは、わしが転移魔法で、、、。」


勇:「転移させちゃったんだね。どうして、転移させようということになったのかなあ?」


レベッカの言葉を遮って、食い気味に質問を重ねる。


魔:「女の子1人だと、馬車での長距離移動は危ないかと思うて。」


勇:「うん。僕の聞き方が悪かった。なんで、リナははじまりの村に行くことになっちゃたの?」


弓:「昨夜、リーダーが寝た後もワタシ達は、あの場に残って歓談していました。それで、各々の戦闘スタイルの話になって。リナが・・・・・・。」


戦:「リナは、体力ねぇし、攻撃魔法も武器も使えない。本人が、勇者パーティーに所属するのは荷が重いって、言い出してだな。」


魔:「わしらは、リナも十分役に立ってくれておると否定したのだが。『これは気持ちの問題なの。』とゆうていたので、無理に引き留めるのも申し訳ないと思うて、家に返してやることにしたのじゃ。」


勇:「リナは、家に帰りたがっていたのかい?荷が重いとは言っていたとしても、パーティーを抜けるとは言っていなかったのではないかい?」


戦:「言われてみれば、そうかもしれねえな。」


魔:「なんせ、話の流れでそのまま転移してしもうたので、そこまで聞いておらんかったわ。あ、荷物のことは気にせんで良いぞ?ばっちりリナと同じ座標に送り届けておいたからの!」


勇:「なぜ誇らしげなんだ・・・・・・。まあ、おおよその経緯は理解したよ。君達に言いたいことは山ほどあるけれど、今はそれどころじゃないからね。また後でじっくり話をするとして。レベッカ。」


魔:「な、なんだい?」


勇:「僕をリナのところまで転移させて。」


魔:「えぇと、そのぉ。大変言いにくいのじゃが。実は、最近転移魔法を使いまくってしもうてな。リナを送り届けるので使い切ってしまったので、今月はもう使えそうにないわ。」


勇:「本当に?僕の魔力を大量に分け与えてもダメかな?」


魔:「無理なもんは無理なのじゃ。すまんの。」


勇:「レベッカがそこまで言うのなら、転移はもう諦めるしかないことはは分かっているのだけれどね?正直、信じたくないよ!?本当に何てことをしてくれたんだよ、君達(特にレベッカ)は・・・・・・。戦闘は超一流なのに。戦闘の時は、あんなに頭が切れるのに!!」


戦:「う~ん。そういわれちまうと申し訳がねえな。すまねえ。」


勇:「はぁ。いや、いいんだ。僕はもう、君達のことについては諦めるつもりなんだ。だから、気にしなくていいよ。そのかわり、しばらくは僕の我儘に付き合ってもらおうかな。」










◇◆◇



カキィン


ヒュン


-hikariyokanomamononosikaiwoubaitamahe¡-


ズドォーン


ドド、ドドドドドドッ



金属音や攻撃の音、呪文など様々な音が入り交じり響く中。

勇者は仲間が作ってくれた隙を縫い、魔物に向かって一直線に向かってゆく。




魔王討伐という大義を掲げ、勇者が幼馴染の錬金術師と共に、はじまりの村を出発してから約5年。

旅の途中、迷った森の中で誘惑の魔女と出会い、仲間になってから3年と半年。

食料を買いにたまたま寄った町の酒場で意気投合し(主にリナと)、戦士が加わってから3年弱。

魔法使いの伝手で、弓使いと知り合って2年と少し。

魔王城は目前に迫って来ており、今回の宿を過ぎれば、人の居住地は無く、魔界と呼ばれ恐れられる地域に入っているはずだった。

また、魔王城に近づくにつれ、退治する魔物も、全員で力を合わせてやっと倒せるレベルにまで強くなっていた。




しかし、今勇者が聖剣を一振りすると、”ストンッ”というように、ほとんど音もなく、あっさり魔物の胴体が真っ二つになった。

なんなら、魔物の下にある地面が抉れ、周囲の草木までもが衝撃により、なぎ倒されてしまっていた。


勇:「えっ・・・・・・。」


勇者一行は、錬金術師リナを連れ戻すため、はじまりの村に向かっていた。

つまりは、逆走していた。


弓:「あれ?弓って、こんな貫通してなお飛んでいくものでしたっけ??」


戦:「斧に力なんか入れていないぞ?俺はいつ魔物の足を切断したんだ?」


魔:「???まだ、幼子でも扱えるような初級魔法しか使っておらんのだが。敵はいづこへ行ってしもうたのじゃ?」


パティ―メンバー達は大変困惑していた。

「なぜ魔物がこんなに弱いのか」「なぜ大地がこんなに脆いのか」と。

考えてみれば当然である。

魔王の持つ高濃度の闇の魔力が、魔物を驚異的な強さにし、土地や植物を毒々しく頑丈なものへと変容させていたのだから。

魔王の住むと言われる魔王城から離れたこの土地ならば、こんなもんである。

まあ、これでも一般人からすれば十分な脅威の魔物ではあるのだが・・・・・・。

今回のことに関しては、「魔王討伐の旅終盤の、魔王を倒せる(=魔王より強い)状態にかなり近づいていた勇者一行」が、「旅の初期ステータスでも十分に倒せるレベルの魔物と対峙してしまった」ことによる混乱であった。

要約すると、ゲームでレベルMaxにしてから、チュートリアルをプレイするようなものだ。(←分かりにくい)


勇:「うわあ。なんか、更地にしちゃった・・・・・・。」


弓:「え、と。新しく建物を建てるのに、丁度良いですし。大丈夫ですよ、きっと。たぶん。大丈夫、ですよね?」


魔:「わ、わしの魔法で植物は再生できるぞ!-kusakiyosigeritamahe¡-」


地面から芽が生え、草となり、次第に木も生えてきた。

そして、瞬く間に直径500メートルほどの、立派な森が完成する。

いや、少々立派すぎるかもしれない。

レベッカの魔法によって作り出された植物は、元よりあった植物よりも艶があり、果物まで実っている。

周囲の森の植生との違いは一目瞭然だ。


勇:「・・・・・・。」


実は、勇者一行は宿から、近くにあったワープゲートで王都まで飛び、そこからはじまりの村へと向かっていた。

そのため、王都から数日は住宅街を移動していたのだ。

魔物と遭遇する機会は無かった。

よって、ここにきて、急に魔物が弱くなったように感じたのだろう。


しかし、住宅街が近かったとは言えども、ここまで小さな魔物1匹にすら遭わなかったというのは、かなりの強運?だ。

普通は、森に入ってすぐのところで、害が無いほど弱い魔物に出くわすのだ。

それらを狩って売ることを生業にする人もいるくらいには、魔物の数がいる。

それにすら遭遇しないというのは、よほど魔物に怯えられているのだろうか。

そう考えてしまえば、先ほど倒した魔物が、必死の形相で突撃していっていたことも、理解できる。

要は、「人の気配がしたから出て行ってみたら、なんかヤバい集団だった。だけど、もう逃げられそうにない。どうしよう。もう覚悟を決めて、死ぬ気でヤるしかない。」ということだったのだろう。

単なる可能性の話ではあるが。



勇:「聖剣は、しばらく使わないことにしようかな。皆も、なるべく昔使っていた初期装備に戻した方が良いかもしれない。」


勇者の言葉に、他の3人も、全力でうなずく。

こうして、チートな実力を除き、ほとんど旅の初めの状態に戻った勇者一行は、1週間後、はじまりの村に戻った。











◇◆◇



”コンコン”と、数年ぶりに実家の戸口を叩く。

狭い家だから、たったこれだけの音でも、誰かしらが出迎えてくれるのだ。

そういう、決して裕福ではないが、あたたかい家だった。

数年経った今もそうだろうか。


少ししてから”トトト”と軽い足音がして、玄関のドアが開く。

出てきたのは、知らない女の子だった。

まだ4歳か5歳くらいだろう。

こちらを見て、知らない人だと分かると、人見知りをしたのか、奥の方へ駆けて行った。

おそらく、親を呼んで来てくれるのだろう。


はて、久しぶりすぎて家を間違えてしまったのだろうか。

はたまた、僕の家族は引っ越してしまったのだろうか。

どちらにしても、少し寂しい。


そう時間の経たないうちに、今度は大人の人が家から出てきた。

予想に反して、その影は僕のよく知っているものだった。


「シータ?シータなのかい?!」


「姉さん!そうだよ、僕だ。」


「あんたぁ!久しぶりだね。もっと頻繁に帰ってきてくれても良かったのに。最近は大魔法使いレベッカ様の発明のおかげで、ワープゲートもそんなに高価じゃないんだしさ。」


「そうはいってもねえ。よほどの理由がなくちゃ帰れないよ。王命で勇者として旅しているのだから。」


「それもそうだね。ところで、今度の帰省は、その”よほどの理由”ってやつがあるのかい?」


「うん。リナはこっちに帰ってきてる?」


「いるよ。」


「実は手違いで、リナがこの村に転移させられてしまったようでね。リナを追って来たんだ。」


「そうかい。リナちゃん無しで、あんたは大丈夫だったの?」


「う~ん。まあ、ぼちぼちってところかな。何かあった時のために1カ月分の薬は渡して貰っていたし。」


「さすがリナちゃんは頼りになるねえ。まあ、元気そうで良かったよ。村のみんなにも、顔を出してきな。」


「はい、って言いたいところなんだけどさ。その前に、その女の子は誰?僕には紹介してもらえないの?」


僕は、姉さんの後ろに隠れて様子を伺っている、先ほどの女の子に視線を向ける。


「ああ!悪かったね。私の娘のレイナだよ。あんたが旅に出た年の末に生まれたんだ。ほらレイナ、シータ叔父さんに挨拶しな。」


「こ、こんにちは。」


「こんにちは。僕は君のお母さんの弟で、シータというんだ。よろしくね。」


レイナは”こくん”と1つ頷いて、また姉さんの後ろに隠れてしまった。

僕もついに叔父さんか。

まだ心の準備ができていなかったな。

まあ、姉さんが結婚するってなった時に、ある程度覚悟を決めようとは思っていたんだけどね。

思っていたよりもレイナちゃんが愛らしくてびっくりしている。

ん?幼女趣味とかではないよ?

ただ、親戚としてね?

この線引きは大切だからね。

はっきり断っておかなければ。


「姉さん。僕の部屋はまだ残ってるかい?」


「掃除で少し物が移動しているかもしれないけれど、あんたが家を出てからほとんどそのままだよ。」


「じゃあ、今夜は泊っていっても大丈夫かな?パーティーメンバーも招きたいんだけど。」


「シータの仲間なんだろう?良いに決まっているじゃないか。使ってない部屋を片付けて置くよ。あんたは、挨拶まわりしてきな。それと、目的のリナちゃんもね。」


「りょうかい。ありがとう。」


僕は家の畑を抜けて、そのままリナの家を目指す。

本当は村長さんに挨拶しに行かなければならないのだが、さほど猶予がないのだ。

姉さんには誤魔化したが、実は薬が足りていなくて、少々きつい。

何よりも先に、自分の家に帰りたかったから無理をしてしまったのだ。

この5年と少しで、たくさんの人に出会って、別れた。

そうしているうちに、故郷へ帰りたくなってしまったのだ。

けれど、そんな私情で魔王討伐を遅らせたとなれば、国王陛下に言い訳ができない。

だから、今回のハプニングにかっこをつけて、家族に会いに行ってしまったのだ。

リーダーとしてパーティーメンバーに注意をすることが多い僕だが、僕自身も大概である。

こんな体たらくでは、リナに呆れられてしまうかもしれないな。


ああ。なんだか、視界が霞んできた。

これは本格的にまずいかもしれない。

どうにか、リナの家の前までは動けるといいんだけれど。

数日前から体がだるいし、聖剣の威力の調節も危うかった。

家族に会えたのは良かったけど、なんで飛ばされたのがよりにもよって、リナだったのか。

だが、リナでなかったのなら、姉さんには会えなかったわけだし。

レベッカの転移魔法が、後1回分だけでも残っていれば良かったのだけれど。

いや、欲張りすぎるのはよくないな。


そうこうしているうちに、なんとかリナの家の前まで着くことができた。

最後の力を振り絞って、ドアをノックする。


「はーい。今開けますねーって、きゃあ。」


僕は自分の体を支えきれなくなり、思わずリナの方に向かって倒れこんでしまった。

細身のリナが、仮にも勇者を支えられるわけもなく、そのまま2人そろって床に倒れる。


はたから見れば、僕がリナを押し倒したも同然だろう。

しかも、息も絶え絶えにここまでやって来たため、完全にかわいい女の子を押し倒してハァハァしている犯罪者にしか見えない。

実際、リナのやわらかいモノがあたっていたりーーーーーーラッキースケベの状態なのだが、僕にそれを愉しむ余裕はない。

だるい体を何とか起こして、リナの上から退く。


「シータ大丈夫!?ちょっと待ってて。すぐに薬を取って来るから。」


リナは、目を白黒させたまま、急いで駆けてゆく。

本当に具合が悪い。

最近は薬を欠かさずに飲んでいたので、ここまで症状が悪化してしまったのは久しぶりだ。

勇者として覚醒した時以来かもしれない。



人が生活を営めば、穢れが溜まってゆき、やがてそれが個を成し魔王となる。

その魔王を討ち、世界にしばしの平和を与える者。それが勇者である。

勇者は穢れが濃くなってくると女神様によって選ばれるのだと言われている。

特に、人口の多いこの大陸では、定期的に勇者が現れる。

しかし、それは武術の達人などではなく、大抵は幼い子供だ。

成長途中の子供なら、勇者としての大きな力を受け入れやすいからであろう。

僕に勇者の印が現れ、国から勇者に認定されたのも、まだ7歳の時だった。

あの時も、勇者の印が顕現すると同時に膨大な力が流れてきたため、丁度今のように体調を崩してしまった。

それからというもの、代々の勇者と同じように、力を抑える薬を飲んできたのだ。

そして、その薬の製法を受け継ぐ一族の末裔が、勇者パーティーの錬金術師こと、リナだった。



「はいっ!これっ、はあはあ。飲んで!!」


走ってきたのであろうリナが、まだ作りかけだったのだろうかーーーーーー乾燥しきっておらず、とりあえず丸薬の形にしたのであろう物を渡してくれる。

それを口に放り込み、コロコロと舌で転がしてから飲み込む。



「ありがとう。大分落ち着いたよ。」


「よかったあ。ドアを開けるなり倒れたから、心配したよ~。」


「あははは・・・・・・。あれに関しては、なんか色々ごめん。」


リナは何を思ったのか、途端に顔が真っ赤になった。


「え、と。だいじょうぶ、だよ。」


「本当に申し訳ない。」


「い、いや。ホントに気にしてないから!!シータが無事で良かったよ。だけどさ、やっぱりこのこと、パーティーメンバーにも伝えたほうがいいんじゃないかな。」


「それって、リナに薬を作ってもらっていること?」


「うん。みんな信頼できる仲間だし。知ってもらえば、今回みたいなことも無くて済んだかもしれないでしょう?」


「それは、そうだけど・・・・・・。」


「やっぱり言いたくない?」


「・・・・・・。」


「そう、だよね。でも、私はあのメンバーになら言ってもいいと思ってるよ。万が一ダメだったとしても、私がついてるし。ちょっと考えてみて。」


この世界には、過去に数十人の勇者が存在している。

そして、中には日記を残した勇者なんかもいて、それは今代勇者の僕が受け継いだ。

日記の中には未来の勇者に宛てた言葉なんかも書かれており、過酷な旅の励みになってくれていたりする。

そんな中、ほとんどすべての勇者にとっての悩みの種は、この勇者の力と薬のこと。

魔王を倒さない限り、”勇者の力”は勇者の身体を圧迫し続けるため、日常生活を送るには、薬の存在が欠かせない。

故に、薬と、それを作れる錬金術師は悪党に狙われやすい。

完全無欠の勇者の、唯一の弱点と言っても過言ではないからだ。

しかし、これには少々語弊がある。

勇者から薬を取り上げ、勇者の力が暴走した場合、被害を受けるのは勇者だけでなく、周囲の人々や国だ。

それでも、それが分からずに錬金術師を誘拐・監禁して勇者一行を良い様に使おうとするバカは、いつの時代も後を絶たなかったようである。

だから現在では、薬の製法及び勇者に関する情報の一切が秘匿されているのだろう。

知っているのは、国王陛下とリナの一族、姉さんくらいなものだ。

そのため、いくら信頼しているパーティーメンバーだからと言って、おいそれと話すことはできないのである。

それから。

実はこちらが本音だったりするのだが、仲間にこの力のことがばれて、拒絶されるのが怖い。

もちろん、あからさまに恐れられることは無いだろうけれど、それでも何年も寝食を共にしていれば、分かってしまう事もある。

実際、過去の勇者には、このカミングアウトをきっかけに、パーティー内がギクシャクしてしまった例もあるようだし。


「分かった。ありがとう。年頭に入れておくことにする。それと、一応確認なんだけど、リナはパーティーを抜けたりしないよね?」


「もちのろんだよ!もう。私がシータを1人にするわけないでしょ。

いやあ、それにしても、急に転移魔法をかけられたときは焦ったな~。次の日には、村から出て合流しようかとも思ったんだよ?!でも、行き違いになっちゃうと良くないし、薬を作り足しながら待ってたんだ。」


「そう言ってくれるって信じてた。」


「・・・・・・うん。」


リナは僕の方をじっと見て、それから「しょうがないなあ」とでも言うかのように、優しく抱擁してくれた。

人肌がぬくくて、なんだかとても安心する。

リナは昔から、不意に抱きしめて”よしよし”してくれることがある。

リナ曰く「だって、寂しそうっていうか、すっごく危うい雰囲気だったんだもん」らしい。

僕には自覚がないので、よく分からないが。



「そうだ、シータ。メンバーのみんなはどうしてるの?」


「一緒にこの村に来ているよ。カトリーナおばさんにつかまってたから、僕だけこっそり抜けてきちゃったんだよね。」


「ああ・・・・・・。カトリーナおばさんの所なら、しばらくは気にしなくても大丈夫そうね。」


「うん。だから取り合えず、この後村長さんちに挨拶しに行こうかなって思っているところ。」


「私もついて行ってもいいかな?」


「もちろん。あ、それとさ。今晩レベッカを泊めてあげてくれないかな。やっぱり女子同士の方がいいかなって。リカルドは僕の家に泊めるつもり。ラオは・・・・・・本人に聞いてみようと思う。」


「そうね、それがいいわ。客間を掃除しておくね。」


「ありがとう。」


「シータにお礼を言われずとも、部屋を貸すくらいパーティーの仲間として当然よ!」


「ふふっ。」


「何で笑うのよ。」


「いや、姉さんも同じようなことを言っていたからさ。」


やはり、故郷ここの人はあたたかい。

早く旅を終わらせて、ずっとここにいたいな。











◇◆◇



そのあと、村のお世話になっていた人には一通り挨拶を済ませて、気が付けば、夕暮れ時になっていた。

ちなみにリナは一足先に自宅に帰って、パーティーメンバーを泊める準備をしてくれている。


「そろそろ皆を回収しに行かなきゃ。」


カトリーナおばさんの家は村の入り口付近にあり、ここから少し遠い。

両手いっぱいにおみやげを抱えた今の状態のまま向かうのは大変だろう。

1度家に戻ろうかな?

そう考えて、遠回りをしながら歩いていると、実家の方がやけに騒がしい。

来客でもあったのだろうか。

もう少し近づいていくと、中から大変聞きなじみのある声が。


「ーーーーーー8歳くらいだったかな。シータが夜中にアタシの部屋に入ってきたと思ったら、『怖い夢見ちゃって寝れないよう。姉さん、一緒に寝てもいーい?』って言ってきてさあ!」


「リーダーにもそんな時期があったとは、可愛らしいのう。」


「そうでしょう?それが今はどうよ。立派な勇者になっちゃってさ。姉としては鼻が高いけどねえ。」


「ちょっと姉さん!?」


そう叫ぶと同時に、僕は”バンッ”と扉を勢いよく開ける。


姉:「お帰り、シータ。」


弓:「お邪魔しています。」


勇:「何で3人とも、僕の家にいるんだい?!」


扉を開けた先では、姉さんとーーーーーーラオ・レベッカ・リカルドが居間でくつろいでいた。


姉:「ああ、それは。さっき卵をわけて貰おうと思って、カトリーナおばさんの所へ行ってきたんだ。そしたら、偶然この人達と会ってね。話を聞いたら、シータの仲間だっていうじゃないか。おもてなしをする以外の選択肢は無いだろう。」


勇:「そ、れはありがたいんだけどっ!僕の話をする必要あった!?」


魔:「なんじゃ、恥ずかしいのか?」


戦:「リーダーがそんなに慌てるなんざ、珍しいな。」


姉:「そりゃあ、アタシ達にはシータくらいしか共通の話題がないからね。」


勇:「いや、姉さん、魅惑の魔女のファンだったじゃないか。そっちの話とかさ。」


姉:「アタシみたいなファンがいるのかい?」


魔:「そう言えばわしだけ名乗っておらんかったのう。わしは、魔法使いのレベッカじゃ。魅惑の魔女とも呼ばれておる。今年でさんじゅ、、、むぐぐ。何をするんじゃ!」


ラオがレベッカの口を途中で塞いだ。


弓:「今、年齢まで言おうとしていませんでしたか?!ワタシとレベッカは同級生なのですから、あなたが年齢を公開したら、必然的にワタシの年までバレてしまいます。お願いですからやめてください!」


戦:「ラオとレベッカは同級生だったのか。」


魔:「知らんかったのかえ?わしとラオは同じ高校出身でな、寮で同室だったのじゃ。」


僕も知りませんでした。

ついでに、ここにきてラオの性別が発覚。

ラオって女性だったのか。

・・・・・・そうは見えない。

何というか、ラオの性別はラオという感じなんだよな。うん。


姉:「貴方が大魔法使いレベッカ様だったとは。失礼な態度でしたね。すみません。」


魔:「そんなにかしこまらなくて良いぞ。もうこんなに語り合った仲ではないか。」


姉:「それもそうですね。じゃあ、遠慮なく。」


語り合ったって、何をカナ?!

僕のことじゃないよね!

僕が旅に出る前まではずっと一緒に暮らしていたので、姉さんは僕の恥ずかしいエピソードをたくさん持っているのだ。

姉さんからしてみれば、かわいがっていた弟の昔の話かも知れないけれど、僕にとってはただの黒歴史だからね!

自分がリーダーのグループのメンバーに知られているかもしれないと思うと、顔から火が出そうだ。

というか、どのくらいの時間、話していたんだろう。

レベッカの自己紹介もまだだったようだし、そんなには経ってはいなさそうだけれど。

そんなに長くないことを祈っておこう。


勇:「まあ、いいや。今晩だけど、一応ここと、リナの家に寝泊りできるよ。誰がどこへ行くか、決めて貰いたいのだけれど。」


弓:「ワタシはどこでも大丈夫ですよ。」


魔:「わしはラオと一緒の方が都合が良いかもしれんな。」


弓:「またワタシに、あなたの世話をさせようとしていません?」


魔:「てへ、バレちゃったかの。」


姉:「は~い。アタシはもっと話したいから、レベッカさんを家にお招きしたいです。」


戦:「そんじゃ、レベッカとラオがリーダーんちに泊って、俺がリナの家に泊れば解決だな。」


勇:「・・・・・・ダメだよ。」


戦:「ん?」


勇:「若い男女が2人きりで、朝まで過ごすのは良くないよ!ダメだ!!」


戦:「これまでだって野宿もしたことあるし、メンバー皆で雑魚寝なんて、いつものことじゃねえか。」


姉:「うっふっふ。分かってないねえ、リカルドさん。ここだけの話、リナちゃんはねえ。シータのコレなんだよ。」


そう言って、姉さんは、わざとらしく小指をたてる。


戦:「なんだ、そういうことか。」


勇:「はあ!?何言ってるの姉さん!!違うからね!僕はあくまでもーーーーーー。」


魔:「分かっておる、分かっておる。(魔王討伐の旅にまで連れて行ってしまうほどの愛!幼馴染への淡い恋心。実に良いのう。)」


勇:「絶対に分かっていないよね!?本当に違うからね。」


姉:「はいはい。からかって悪かったね。じゃあ、レベッカさんとラオさんがうちに泊って、リカルドさんとシータがリナちゃんちに行けば問題解決だね。そうと決まれば、2人はさっさと出ていきな。」


勇:「ちょっと待ってよ、姉さん。何で僕が泊りにーーーーーー。」


姉:「もう準備はできているから。ほら、さっさと行きな。」


勇:「何で準備できてるのさ!?もしかして、始めからそのつもりだったんじゃ」


姉:「アタシらは、女子会をするんだ。明日の朝まで帰って来るんじゃないよ。」


そのまま、僕とリカルドは、家を追い出されてしまった。

仕方がないのでリナの家に向かうと、リナは快く迎えてくれてくれ、僕達は夕食とお風呂を頂いて就寝した。

緊張で寝れないかとも思ったけれど、全くそんなことはなかった。

リナの家は村の診療所でもあるので、薬草なんかも置いてある。

リラックス効果のある葉の臭いで、ぐっすりだ。

本当にあっという間で、気づいたら朝だった。

なんとなく、自分が情けない。




もともと、各地の魔物を間引くことも大方済んでおり、ここから王都にあるワープゲートまで移動するよりも、レベッカの転移魔法の回復を待った方が早いということで、しばらくはこの村に滞在することになった。

その間、僕は家業を手伝ったり、レイナちゃんと遊んだりして過ごした。

おかげで、始めは緊張していたレイナちゃんとも仲良くなれたし、姉さんも、一時的に育児から解放されて、久々に旦那とデートしてきたそうだ。

もちろん遠出はできないので、近くの町までだけれど。

というか、結婚してからもう7年は経つはずなのに、何であんなに仲がいいわけ?

別に悪い事じゃないんだけどさ。


レイナちゃんもいるし、この旅が終わってはじまりの村に帰ってきたら、実家を出ようかな。

叔父さんがいつまでも居座るのは良くないよね。

それなら、姉さんが結婚したときに別居するべきだと思うかもしれないけれど、一応、そのときは僕、まだ未成年だったから!

許されるよね!!

とはいえ、僕の成人と同時に旅に出たわけだから、僕ももう立派な社会人(無職だけど)として、自立すべきだろう。

そんな訳で、国王陛下の命を完遂した後に住めそうな土地を探しつつ、仕事をしつつで、旅立ちの日を迎えた。


勇:「じゃあ行こうか。レベッカ、お願い。」


魔:「うむ。-tennimahou¡maoujouhe¡-」


レベッカが呪文を唱えると、一瞬にして視界が切り替わる。


戦:「うお!何回体験しても、慣れねえな。って、ここどこだ?」


弓:「ワタシ達が滞在していた宿の近くでは無さそうですね。」


錬:「・・・・・・なんかあの建物から、すっごく禍々しいオーラを感じるんだけど。」


リナの指さす方を見上げると、大きな城が立っている。

一見、この国の王城と変わらないようにも見えるが、所々歪んでおり、生き物の気配も全くない。

とにかく、異質だった。


魔:「そりゃそうじゃろう。魔王城だからの。」


勇:「魔王城の前まで飛んできてしまったのかい?!」


魔:「元より魔界へ行くつもりだったじゃろ?魔界なら救うべき民もおらんし、手っ取り早く魔王を打ち倒すまでじゃよ。」


戦:「それもそうだな。」


錬:「そうと決まれば、レッツゴーだね!」


勇:「えぇー。普通は魔界の探索も含めて、徒歩でここまで移動するんだけど。」


弓:「ワタシ達のパーティーには、貴重な”転移魔法使い”がいますからね。早い分に越したことは無いでしょう。」


魔:「そうじゃそうじゃ!ということで、魔王の位置が大体把握できたんで、このまま魔王のいる部屋まで転移するから振り落とされんようにの。」




約40分後ーーーー


僕たちは、魔王の首を落としていた。

もしかすれば、歴代最速で魔王討伐に成功したかもしれない。


倒された魔王の亡骸はボロボロと崩れ、世界の中に溶け込んで消えてしまう。

すると同時に、勇者の印が僕から乖離し、輝きを放ちながら天高く昇ってゆく。

どこまで行ってしまったのだろうか、目視が困難になってきたところで光がはじけ、雪のように降ってくる。


「きれい。」


皆が息を飲む中、リナが、思わずといった風にそう発した。

実際、それはとても美しい光景で、僕の一生では、もう2度と見られないのだと思うと、とても名残惜しい。

光は穢れを浄化しながら落ちてゆき、やがては消えてしまう。

世界中の穢れが浄化されるまでの、ほんのひと時の夢のようなものなのだ。

しばらくして光が収まれば、もぬけの殻になった勇者の印は、僕の所へ戻って来る。

過去の勇者の日記が正しければ、力を使い果たした勇者の印は、静かに眠りにつくそうだ。

そうなれば、以前のように世界を書き換える程の力を発揮することはできないだろうが、もう僕の身体を力で圧迫することはなく、薬も必要なくなるだろう。

それでも僕は、身体能力とか魔力とかの諸々が常人離れした、チートのままだろうけれども。


あまりにも短時間で終わってしまったものだから、勇者の力の秘密とか、皆に話さずにここまで来てしまった。

皆、今はこの光景の美しさにみとれているようだけれど、我に帰れば、質問攻めにされるに違いない。

リナに言われたことを僕もよく考えて、折角打ち明ける決心をした所だったのに。

村では、いつ誰がどこにいて、何を聞いているか分からないので、なかなか話をすることが難しかったのだ。

人のいない魔界に着いたら話そうと思っていたのだが、急展開過ぎて、そんな余裕はなかった。

なんて説明をするのか、今のうちに考えておかなければ。

また妙な勘違いをされてしまうと、メンバーの規格外な実力のせいで、大事になりかねない。



でも、まあ。

しばらくは僕も、余計なことは考えずに、この絶景に心を委ねようかな。

だって隣を見れば、心を許し、感動を分かち合える、大切な仲間がいるのだから。

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