最終話 さらば、魔法少女プリティ・タンク!
戦い抜いた商店街の残骸の上に、汗にまみれたるなが立っていた。
「ククク……よくぞここまでたどり着いたっピ、るな。そう……ようやく気づいたみたいだな……怪物を生み出していたのは……僕だっピ!今ここに素晴らしい筋肉……最高の筋肉は完成したっピ!さあ、るな!僕と一緒に世界のボディビル大会を」
キュピ太郎が饒舌に語る中、るなの瞳から光が消えた。
キュピ太郎の言葉が終わるより早く、彼女の右足が大地を穿つッ!
商店街の舗装アスファルトが、彼女の内側広筋と外側広筋が生み出す爆発的な推進力に耐えきれず、まるでガラスのように粉砕されたッ!
発生した膨大なエネルギーは、寸分違わず下腿三頭筋から大腿四頭筋、そしてハムストリングスへと、筋肉の伸縮によって完璧に伝達されるッ!膝関節のロック、骨盤の前傾、脊柱のわずかなアーチ、その全てが最適化されたキネティック・チェーンの通りに機能し、寸分のロスもなく腰椎へと流れ込むッ!
更にッ!腹直筋と腹斜筋群が、まるで巨大な金床のように体幹を固定ッ!腰から伝達されたエネルギーは、一瞬にして爆発的な捻転力へと変換され、広背筋へと集約されて背中がきしむッ!
フリル付きのボレロの下で、背中の筋肉がまるで翼のように、あるいは巨大な盾のように隆起し、僧帽筋が首の付け根から盛り上がるッ!
その強靭なバネが、三角筋を押し出し、上腕へとエネルギーを送り込まれるッ!
可愛らしいパフスリーブの中で、上腕二頭筋と上腕三頭筋が、それぞれ長頭と短頭、三つの頭で分かれ、極限まで収縮ッ!肘関節は、完璧な軌道を描いて伸び、前腕の腕橈骨筋と総指伸筋が、もはや人体の限界を超えた速度で拳を押し出されたッ!
キュピ太郎の目の前で、るなの拳の先、わずか数ミリの空間で空気が断熱圧縮ッ!想像を絶する高温が発生し、空気がプラズマと化したッ!
超高圧、超高温に達した空気の壁が、キュピ太郎の周囲の空間そのものを歪ませ、その存在を原子レベルで粉砕したのだッ!
ボッ
乾いた音がした……。
空気の壁は、キュピ太郎の声を、光を、存在そのものを、一瞬にして無へと変えたのだ。
残されたのは、るなの拳の先に開いた、何もない、小さな空間だけ。
諸悪の根源はこれで消滅したのだった……。
光の中から、可愛らしいコンパクトが現れる……。
無音の世界に、変身が解ける光の粒子が舞い散る。
るなは、一撃を放った姿勢のまま、ゆっくりと腕を下ろした。
そこに立っていたのは、いつもの見慣れたワンピース姿の、華奢な少女。
しかし、その背中は違った。
小さく、しかし、世界中の重責を一人で背負ったかのような、広大な哀愁を漂わせていた。
彼女は、振り向かない。
ただ、夕暮れに染まる空を見上げ、小さく呟いた。
「……あんた。最後は筋肉に裏切られたわね」
その声は、街の残骸に、虚しく響き渡った。
彼女の冒険は、終わったのだ。ありがとう、魔法少女プリティ・タンク!
しかし、彼女の内に刻まれたマッスルメモリーは、永遠にその身体に残り続けるだろう。
(完)




