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第4話 視線の向こう側


 配信を終えた夜、

 アイラは宿のベッドに仰向けになり、

 天井を見つめていた。


 端末は枕元。

 画面には、

 先ほどの配信ログが表示されている。


「……五人」


 視聴者数の数字を、

 指でなぞる。


 多いとは言えない。

 けれど、

 確かに誰かが見ていた。


 コメント欄を開くと、

 短い言葉が並んでいる。


「剣の動き、

 見やすい」


「初心者?

 落ち着いてるね」


 たった数行。

 それだけなのに、

 胸の奥がじんわり温かい。


「……ちゃんと、

 伝わったんだ」


 剣を振る姿。

 息遣い。

 怖さと楽しさ。


 それらが、

 画面の向こうに届いた。


 アイラは、

 ゆっくりと目を閉じた。


 次の日の朝。


 ギルド前の掲示板は、

 相変わらず人で賑わっていた。


 アイラは、

 その端に立ち、

 依頼を眺める。


「今日は……

 少しだけ、

 難しいのにしよう」


 選んだのは、

 同じダンジョンの

 少し奥まで進む依頼。


 危険度は低のまま。

 だが、

 魔物の数は増える。


「無理はしない」


 自分に言い聞かせ、

 カードを提出する。


 ダンジョン前。


 昨日と同じ入口。

 同じ警備員。


「今日もか」


 声をかけられ、

 アイラはうなずいた。


「はい」


 胸元のカメラを確認し、

 配信を開始する。


「こんにちは。

 探索者のアイラです」


 昨日より、

 声が少しだけ

 はっきりしていた。


 ――視聴者:2人。


「……え」


 思わず、

 目を見開く。


 入った瞬間から、

 もう見ている人がいる。


「来てくれて、

 ありがとうございます」


 自然に、

 言葉が出た。


 通路を進む。


 スライム。

 ゴブリン。


 昨日より、

 動きが滑らかだ。


 剣を振る角度。

 足の運び。


 戦いながら、

 どこかで

 「見られている」

 意識がある。


 ――コメント:

 「昨日の人だ」


 ――コメント:

 「今日も来た」


「……覚えられてる」


 胸が、

 少しだけ跳ねる。


 そのとき。


 通路の先で、

 空気が変わった。


「……?」


 嫌な気配。

 重たい魔力。


 現れたのは、

 通常より一回り大きい

 ゴブリン。


 腕には、

 金属製の盾。


「……強そう」


 後退する選択肢もある。

 だが――


「大丈夫。

 無理しない」


 そう言い聞かせ、

 剣を構える。


 ゴブリンが突進。

 盾が振り下ろされる。


「っ!」


 受け流す。

 腕が、

 じん、と痺れた。


 ――コメント:

 「やばくない?」


 視界の端に、

 文字が流れる。


「……平気」


 誰に言ったのか、

 自分でもわからない。


 一歩、

 横に回り込む。


 盾の死角。


 剣を振る。


 刃が、

 確かな手応えを伝えた。


 ゴブリンが、

 崩れ落ちる。


 静寂。


 息が、

 少し荒い。


「……倒せた」


 ――コメント:

 「今の判断、

 よかった」


 ――コメント:

 「無茶しないの、

 好感持てる」


 アイラは、

 剣を下ろしたまま、

 小さく笑った。


「ありがとう」


 その声は、

 震えていなかった。


 ダンジョンを出る頃には、

 視聴者は十人を超えていた。


「……少しずつ、

 増えてる」


 空を見上げ、

 深呼吸する。


 その様子を、

 別の場所から

 見つめる目があった。


 探索ギルド、

 最上階。


 ギルド長室。


 男は、

 複数のモニターを

 静かに見ている。


 その一つに、

 アイラの配信画面。


「……判断が早い」


 誰に聞かせるでもなく、

 呟く。


「だが、

 まだ甘い」


 画面の端に、

 流れるコメント。


 視聴者数。


 それらを見て、

 男は小さく息を吐いた。


「目立ち始めている」


 それは、

 危険でもある。


 魔界の気配は、

 この世界にも

 確かに残っている。


「……近いうちに、

 動きがあるな」


 男は、

 端末を操作する。


 あるダンジョン情報を、

 非公開に設定した。


「ここには、

 行かせない」


 誰にも知られぬ配慮。

 父としての、

 静かな介入。


 一方、

 アイラはまだ知らない。


 自分が、

 誰かに守られていることを。


 そして――


 配信という窓の向こうに、

 期待と危険が

 同時に集まり始めている

 ということを。


 それでも。


 アイラは、

 剣を背負い直し、

 前を向く。


「次も、

 頑張ろう」


 その一言が、

 やがて多くの視線を

 引き寄せることになるとは、

 まだ知らずに。


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