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第3話 はじめての配信者


 ダンジョンから戻ったアイラは、

 地上の光に少し目を細めた。


 外は夕方。

 空がオレンジ色に染まり、

 人々が足早に行き交っている。


「……生きて帰ってきた」


 当たり前のことなのに、

 胸の奥がじんわりと熱くなる。


 探索者カードを握りしめ、

 アイラは小さく息を吐いた。


 スライム数体だけの討伐。

 報酬はわずか。


 それでも、

 自分の力で踏み出した一歩だった。


「次は、

 もう少し奥まで行けそう」


 そう呟いたとき、

 背後から楽しそうな声がした。


「お、君も初心者?」


 振り向くと、

 軽装の青年探索者が立っていた。

 片手には、

 小型のカメラのような機械。


「それ、何?」


「配信用カメラだよ。

 ダンジョンの中を

 そのまま映すんだ」


 アイラの目が輝く。


「配信……」


 頭の中で、

 ずっと気になっていた言葉。


「見てる人、いるの?」


「まあ、

 今は十人くらいかな」


 青年は苦笑する。


「でもさ、

 続けてたら増えるんだ。

 強くなくても、

 面白ければ」


 その言葉が、

 アイラの胸に刺さった。


「面白ければ……」


 青年は手を振り、

 そのまま去っていった。


 残されたアイラは、

 しばらくその場に立ち尽くす。


 強さだけじゃない。

 見せる戦い。

 伝える冒険。


「……やってみたい」


 その夜。


 アイラは簡素な宿の一室で、

 探索者向けの端末を操作していた。


 画面には、

 配信アプリの登録画面。


「名前は……

 アイラでいいよね」


 隠す必要はある。

 でも、

 偽りすぎるのも嫌だった。


 登録を終えると、

 画面に文字が浮かぶ。


 ――配信準備完了。


「……ほんとに、

 できるんだ」


 胸が、

 どきどきする。


 翌日。


 アイラは再び、

 同じ小規模ダンジョンの前に立っていた。


 胸元には、

 小さなカメラ。


「……えっと」


 深呼吸して、

 小さく声を出す。


「えーと……

 はじめまして」


 言葉が、

 妙に空間に吸い込まれる。


「探索者のアイラです。

 今日は……

 ダンジョンに潜ります」


 画面の向こうに、

 誰がいるのかはわからない。


 それでも、

 言葉にすると少しだけ

 勇気が出た。


 ダンジョンに入ると、

 すぐに表示が変わった。


 ――視聴者:0人。


「……ゼロ」


 思わず苦笑する。


「まあ、

 最初はこんなものだよね」


 長剣を抜き、

 通路を進む。


 足音が、

 やけに大きく聞こえた。


 しばらく進むと、

 前方で音がした。


 ぬめる気配。


「スライム、

 来た」


 剣を構え、

 一歩踏み込む。


 斬撃。

 魔物が消える。


「……えっと、

 今のがスライムです」


 誰に説明しているのか、

 自分でもわからない。


 だが――


 画面の端に、

 小さな文字が浮かんだ。


 ――コメント:

 「お、配信してる?」


「え?」


 思わず立ち止まる。


 視聴者数が、

 1になっていた。


「見てる人、

 いる……?」


 胸が、

 一気に高鳴る。


「えっと、

 見てくれてありがとうございます」


 ぎこちない声。

 でも、

 無視はできなかった。


 さらに進むと、

 ゴブリンが現れた。


 緑色の肌。

 粗末な棍棒。


「……ちょっと、

 強いやつ」


 剣を握る手に、

 力が入る。


 踏み込み、

 真正面から斬り合う。


 剣と棍棒がぶつかり、

 乾いた音が響く。


「っ……!」


 一瞬の隙。

 アイラは体をひねり、

 横から斬りつけた。


 ゴブリンが倒れる。


 その直後。


 ――コメント:

 「今の動き、

 きれいじゃない?」


「……!」


 心臓が、

 跳ねた。


 誰かが、

 見て、

 評価している。


「ありがとう……!」


 自然と、

 声が弾んだ。


 ダンジョンを出る頃には、

 視聴者は五人になっていた。


「……少ないけど」


 でも、

 ゼロじゃない。


 アイラは空を見上げ、

 小さく笑う。


「楽しい」


 その様子を、

 ギルド長室のモニターが

 静かに映していた。


「……始めたか」


 椅子に座る男は、

 腕を組む。


「配信者、か」


 小さなため息。


「やれやれ。

 目立つ道を選んだな」


 それでも――


 画面の中で笑う娘を見て、

 その口元は、

 わずかに緩んでいた。


 こうして、

 剣士アイラは――


 探索者であり、

 配信者として、

 現代のダンジョンへ

 一歩踏み出した。


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