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第19話 迷宮の囁き


 朝の光が街を柔らかく包む中、

 アイラは宿の窓辺で身支度を整えていた。


 長剣を背中に背負い、

 探索者カードを手に取る。


 昨日の迷宮の異変で、

 視聴者は千七百人を超えていた。

 コメントも絶えず流れ、期待と緊張が入り混じる。


「……今日も、気を引き締めて」


 胸元の端末を確認し、

 視聴者に向かって笑みを見せる。


「みんな、今日も見てくれてありがとう」


 街を歩きながら、

 掲示板に貼られた依頼を確認する。


 今回のダンジョンは中規模。

 危険度は高めで、

 報酬も前回よりさらに良い。


 カードを提出し、許可を受けると

 通行証を手に階段を降りる。


 薄暗い通路に足を踏み入れる。

 湿った床を踏むたび水滴が跳ね、

 壁には淡く光る結晶が埋め込まれていた。


 胸元の端末を確認し、配信を開始する。


「こんにちは、探索者のアイラです」


 視聴者は千八百人を超え、

 コメントが次々と流れる。


「見てくれて、ありがとうございます」


 通路を進むと、小型の魔物が現れる。


 スライムとゴブリンの混合型。

 素早く攻撃してくるが、

 昨日よりも動きがぎこちない。


「……何かがおかしい」


 一歩下がり、距離を取りながら観察。

 隙を見て斬撃を入れる。


 ――コメント:

 「動きがおかしい!」

 ――コメント:

 「罠か?」


 胸の奥に不安が広がる。

 誰かが見守ってくれている感覚と

 同時に、迷宮の異様さを感じる。


 通路を進むと、分岐が現れる。


 右は狭く暗い通路。

 左は広く明るい通路。


「……どっちに行こう」


 配信画面に向かって説明する。


「右は魔物が少ないですが、

 逃げ場がありません」

「左は戦いやすいですが、数が多くなります」


 ――コメント:

 「左で!」

 ――コメント:

 「右は危険」


「じゃあ、左にします」


 剣を握り直し、慎重に一歩踏み出す。


 広い通路にはゴブリン三体。

 一体は盾、二体は棍棒。


「……気を抜けない」


 間合いを取り、突進を受け流す。

 横から斬りつけ、一体ずつ倒す。


 ――コメント:

 「判断いい!」

 ――コメント:

 「落ち着いて!」


 奥に進むと、薄暗い影が揺れる。


「……誰かいる?」


 壁際に不自然な影。

 潜入者か、それとも別の探索者か。


 剣を握り直し、慎重に進む。

 端末に向かって声を出す。


「みんな、少し驚くかもしれません。

 でも落ち着いて対応します」


 ――コメント:

 「気をつけて!」

 ――コメント:

 「無事で!」


 影の中から銀色の鎧を着た探索者が現れる。

 明らかに自分と同じギルドではない。


「……あなたは?」


 鋭い眼差しの相手。

 アイラの心臓が少し早く打つ。


 しかし、攻撃の兆候はない。

 静かな対峙が続く。


 小型ゴブリンの群れが襲いかかる。

 二人は無言で剣を抜き、連携して斬る。


 魔物が倒れ、静寂が戻る。


 視聴者のコメントが増える。


 ――「二人組、かっこいい!」

 ――「連携プレイ最高!」


 胸が温かくなる。

 誰かと戦う楽しさ、伝わる興奮。


 奥から大型の魔物が現れ、牙と爪で威圧してくる。


「……一緒に戦うしかない!」


 二人で距離を保ちつつ戦う。

 一撃を受け流し、隙を狙う。


 連続斬撃で倒すと、視聴者は千九百人を超えた。


 通路の奥に進むと、壁が微かに光り、

 空気が異様に重くなっていることに気付く。


「……迷宮の奥で、何かが動いている」


 胸がざわつき、背筋に寒気が走る。

 潜入者も警戒を強め、目を光らせる。


 一方、ギルド長室。


 男はモニターを見つめ、低く呟く。


「……迷宮の奥で、異変が起きている。

 娘に危険が迫る可能性もある」


 遠くで守る父、近くで戦う娘。

 その距離は短く、しかし危険を孕む。


 こうして、

 小さな剣士アイラは、

 迷宮の囁きに耳を澄ませ、

 新たな試練と謎の世界に足を踏み入れた。


 視聴者との絆を胸に、

 物語は次の局面へと静かに動き出す。


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