第2話 自己紹介をしよう
「僕が異世界転移者?」
まさかそんな漫画やゲームみたいな状況が起きる訳がない。そう思って自分の頬をつねってみるがしっかり痛みがある。テレビで見たことがあるドッキリも疑ってみたが一般人である僕にここまで大掛かりな事をする事もないだろう。
「そうとしか思えません……」
しかし、彼女がそんな発想になる理由が分からない。もしかしたら僕と同じような状況になった人がいるのだろうか。
「も、もしかして僕と同じような人が過去にも?」
「はい、ただ私も実際に出会った訳ではございません。言い伝えで異世界より転移者がこの国に現れた事があると……」
どうやら本当に僕と同じような状況になった人が過去にいたらしい。それはありがたい情報だ。このままこの世界に居続ける危険は回避出来る可能性が出てきた。
「なるほど……、でその人は元の世界に帰れたのでしょうか?」
「伝承では姿見を通して転移者の世界とこちらの世界を行き来していたそうです」
僕はそこで背後にある姿見を見つめる。この姿見を使えば元の世界に帰れるという事だろうか。僕は立ち上がり姿見の前に行き鏡面を触る。すると廃墟のときのようにぬるっとした感覚が手に伝わった。このまま姿見の中に入れば先程の廃墟のところに戻れる事が出来るのだろうか。僕は怖いのを我慢して顔を鏡面の中に入れてみる。すると眼の前に先程までいた廃墟の部屋が出てきた。今の僕は鏡から顔だけ出している。今の状況を誰かが見たら間違いなくお化けだと勘違いして倒れる人が出るだろうな。
「ど、どうやらここから元の世界に帰れそうです」
「本当ですか。それは良かったです!!」
ずっと悩んだ顔をしていた少女がぱあっと笑顔になった。あまりに可愛らしい笑顔に僕はドキッと心臓の鼓動が早くなる。この少女ともう会えなくなるのかと少し淋しい気持ちになるが仕方がない。
「驚かせてしまってすみませんでした。それでは……」
僕はそう言いながら元の世界に帰る為に姿見に体を預けようとする。
「ちょっと、待ってください!!」
彼女は慌てて僕を呼び止める。僕はその声にびっくりして姿見から体をひょいと戻す。一体、どうしたというのだろうか。
「も、元の世界に帰る前に少し私とお話出来ませんか?」
「え?」
僕と話がしたいとはどういう事だろう。何か伝える事でもあるのだろうか。僕は姿見から離れて彼女と正面で向き合う。
「一刻も早く元の世界に戻りたいというのに申し訳ございません」
「あ、いや、そんな事は……」
彼女は申し訳なさそうな顔をして下を向きながら話す。正直、僕はすぐに元の世界に帰りたいという訳ではないし彼女の話を聞くのは全然問題ない気がしてきた。
「貴方様の世界のお話を聞きたいのです。くだらないとお思いでしょうがよろしいでしょうか……」
「くだらないなんてとんでもないですよ。僕もこの世界の事気になりますし」
それは心よりの本心だった。先程までは帰れるかも分からない状況だったからすぐ戻ろうとしただけでここがどんな場所なのかはとても気になるところだ。
「良かった……。そういえば自己紹介がまだでしたね」
「確かに……、僕も名乗ってなかったですね……」
先程、お互いが急に現れて慌てていたため、名前を名乗らずそのまま話をしてしまっていた。僕達はそれに気付いてお互いふふっと笑い合う。
「では私から……レソル王国、第一王女のアデライン・メリダシアです」
「お、王女様!?」
出で立ちから貴族というかお偉方のお嬢様というのは分かったがまさか、王女様というのは想像していなかった。え、これはかなりまずいのではないだろうか。僕は慌てて正座をする。いや、この場合片膝を立てたほうがいいのだろうかと頭の中でごちゃごちゃ考えながら取り敢えず平伏する。
「や、やめてください。転移者がそんな事をする必要はございません。楽にしてください」
「は、ははあ……」
いや、この返事は御殿様にするやつかと思ったがこういう時のマナーが全く分からない。一先ず平伏するのをやめて正座状態になる。
「その座り方が楽なのですか?」
「申し訳ございません。普通に立ちます」
このままだと足が痺れるし、彼女も立っているのだから大人しく立つことにする。彼女はふふっと笑ってくれた。どうやら掴み(?)はバッチリらしい。
「お、王女様、こういった時のマナーが全く分からないので失礼な事をしてしまうかもしれません」
「そんなにかしこまらないでください。友と接するように自然にしてください」
そうは言われてももし王女様に無礼な事をしてしまえば極刑ものなのではないだろうか。だが、彼女としては余計な気遣いをされる方が嫌なのか先程から自然にして欲しいと言われる。どうせマナーなど分からないのだ。失礼のないくらいで普通にしよう。
「ご、ごほん、僕の名前は垣本蒼汰です。元の世界では学生でした」
「学生ですか。お歳はいくつですか?」
「十六です」
「あら、私と同い年なのですね」
そうなのか。彼女は豪勢な服と整った顔立ちから自分より少し上だと思っていたがまさかの同い年なのか。これも僕が転移した理由と関係があるのだろうか。まあ、ただ僕が偶々廃墟にいただけの偶然か。
「垣本蒼汰様……、何とお呼びすれば?」
「何でも大丈夫ですよ。垣本か蒼汰と読んでいただければ」
「では蒼汰様。私のことはアデラインとお呼びください」
「かしこまりました。アデライン様」
こうして王女様とただの一般人である僕との日常が始まったのである。




