第1話 王女様の部屋
家から三十分程歩いた所にそれはあった。日本の田舎に似つかわしくない西洋の御城のような廃墟があった。建物はかなり老朽化が進んでいる事から、幼い頃に友達と内緒で探検に行って親にこっ酷く怒られた記憶がある。そして僕は今、その城の廃墟の眼の前にいる。
「ここも変わらないなあ……」
かつて探検に行ってから約十年程だろうか、僕はあの時とは違い一人で探検に来た。高校生にもなって探検というのもおかしな話だと思う。でもそんな気分だったのだ。高校生活が上手くいかず友達もいない。そして学校に行くのが日に日に億劫になっていた。だから今日は学校をサボってこうして一人で探検に来たという訳だ。
廃墟の周りには柵と有刺鉄線で通れなくなっているが、子供の頃に見つけた抜け道がある方まで周ると当時のそのまま、柵がない箇所があった。僕はそこを通り廃墟の入口まで向かう。入口は御城の入口ということもありかなり大きいが押すとギギギと鈍い音をたてながらも何とか開いた。
「ゲホッ、マスク持ってくるのを忘れてた」
廃墟なので当然、ホコリまみれで目が痒いし鼻もグズグズ鳴る。ただマスクやタオルが無いので口と鼻を手で抑える。そしてもう片方の手でスマホのライトを使い、奥を照らしながら歩く。入口すぐの広いエントランスホールを抜けて奥へと進む。
「う〜ん、十年も前だからどこがどうなっているか全く分からん」
廃墟で一人、幽霊が出そうな雰囲気に当てられて独り言が勝手にこぼれる。スマホのライトを頼りにグングン前に進む。一階は食堂、厨房や倉庫などあと用途が分からないだだっ広い部屋などがあったが得に特筆するべき点もないので二階に行こうと思う。エントランスの所に階段があったのでそこから上に上がれるはずだ。エントランスまで戻り、端にあった階段を上り二階へと向かう。
二階は長い廊下が広がっていて扉が左右に何箇所もある。もうここまで来たらヤケだ。全ての部屋を周ってやろうじゃないかと心の中で思い片っ端から扉を開いていく。
そうして何個目だったろうか。部屋を開けようとした時、異様な雰囲気が漂う。この部屋は何かある……、そう直感が告げている。もしかしたら本当に幽霊でもいるのだろうか。僕は開けるか開けないか一分位悩んだ。だが、ここまで来て何をビビっているのだと思いたち勇気を出してばーんと一気に扉を開けた。
部屋の中をキョロキョロと眺めるが特に誰かいるわけでは無さそうだ。そしてふと部屋の中央にある姿見が目を引いた。これだ。直感がこの部屋にある異質な雰囲気を出しているのはこの姿見だという事が本能で分かった。
僕は勇気を出して姿見の前まで歩く。サイズとしては180センチ程だろうか。ぱっと見は豪勢な姿見といった感じだが、じっくり見ているとこのホコリまみれの建物の中で汚れやホコリなどが全く付いていない。どういう事だろうか。僕は気になってあまり素手で触らない方が良いと分かりつつも姿見の鏡面に触れた。
その瞬間、手が鏡面に吸い込まれたかのようにするっと中に入ってしまった。僕は予想外の出来事にバランスを崩してしまいそのまま姿見に方に倒れ込むような形になってしまう。
「はへ?」
僕は情けない声をあげながら鏡面に向かって倒れ込んだ瞬間、体全体が何かに飲み込まれた感覚に落ちた。僕は一瞬何が起きたのか分からなかったが自分が倒れた事を理解したので地面に手をやり起き上がる。
すると眼の前には先程までいたはずの薄暗い廃墟ではなく綺羅びやかな部屋が広がっている。
「え?」
訳が分からず僕は周囲を見回す。すると部屋の奥に人がいるのが見えた。僕はびっくりして体を支えていた手がズルっと滑りびたーんと床に倒れ込んでしまう。すると奥にいた人物がカツカツといった音を立ててこちらへ向かって来る。僕は慌てて起き上がってズルズルと後ろへ下がる。
「あなたは誰?どうやってこの部屋に……」
目の前にいたのは少女だった。しかもおよそ日本人とは思えない人形のような綺麗な女性だった。雪のように美しく伸びた白髪を靡かせていた。いや、見惚れている場合じゃない!!
「え、いや、違います!!ここは一体……」
僕はいきなり全く知らない豪勢な部屋に来てしまったようだ。そして僕の眼の前にいるどう見ても日本人では無い美しい少女が立っている。先程まで少女がいた所の近くにベッドが置いてあることからもしかしたらこの子の自室なのだろうか。
「あなた……、もしかしてこの世界の人間じゃないのですか……?」
「はい?」
何を言っているんだ。この子はあれか……、厨二病的な感じなのかと一瞬思ったが僕も違和感を感じ取った。いや、この子は先程から明らかに日本語ではない言語を話しているのに僕の耳に届いた瞬間、脳内で何を話しているか分かる。簡単に言うと脳内で勝手に翻訳機能が働いているようなイメージだ。
「僕の言葉が分かるんですか?」
「……、ええ。聞いたことがない言語のはずなのに聞いたら何を言っているのか理解できました」
どういう事なのだろう。全く意味が分からないといった僕とは対照的に彼女は心当たりがあるのか口に手をやり真剣に考え込んでいる。彼女に頼り切りというのは申し訳ないと思いつつも僕はどうすることも出来ないので諦めて周囲をキョロキョロと見渡す。すると僕の背後に姿見がある。それは先程、廃墟で見た姿見とそっくりなような気がする。
「これ……」
「!?何かご存知なのですか?」
僕の独り言を聞き、彼女ははっと僕にぐいっと詰め寄る。心当たりがあるようだけど初対面の相手に対して近すぎませんかね?と思ったが彼女の問に答えなければいけないだろう。
「いや、僕がさっきいた廃墟にこれとよく似た姿見があって、それに触れた瞬間にここにいたので……」
「……」
一瞬、廃墟という言葉にムッとしたようだが、すぐになるほどと頷いた。何か分かったのだろうか。
「これはあくまで推測に過ぎませんが……」
「え、何か分かったんですか?」
僕はウキウキで彼女の言葉を待つ。彼女は言葉を選んでいるのかう〜んと悩みながらこう言い放った。
「もしかすると、あなたは別の世界より姿見を通してこの世界に転移した転移者なのかもしれません」
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