第五章 勇者ユウ、王都で便座型の勲章を授かる
紙龍ワーム撃破から三日後。ユウとミリアは王都ルクシアへ戻るため、森を抜けて舗装された石畳の道を歩いていた。森の瘴気はユウの《大解放》で完全に消え、紙魚たちは元気に紙を運ぶ健全な姿へ戻っていた。ミリアはほっとしたように微笑む。
「勇者様……本当にありがとうございました。紙龍ワームを倒したことで、この地方の紙資源は完全復活です」
「いや俺はただ……腹痛に負けただけだから……」
ユウが弱々しく答えると、ミリアはふふっと笑った。
「それでも世界を救った事実は変わりませんよ」
王都へ入ると、様子がいつもと違った。住民が道の両脇にずらっと並び、紙吹雪ならぬ“紙片”をひらひら降らせている。子どもたちはトイレットペーパーを振り回し、兵士たちまで巻き紙を肩に掛けて敬礼している。
「なんだこれ……?なんかお祭りやってるの……?」
「勇者ユウ様ーーッ!!!」
人々の喝采が爆発するように響いた。ミリアが照れ笑いをしながら耳元で囁く。
「王国が……あなたの帰還を祝うため、祝賀式を開いてくれたようです」
ユウは目を丸くする。
「いやそんな……俺ほんとにトイレしてただけなんだけど……」
王宮に着くと、巨大なホールが用意されていた。白い大理石の床に赤い絨毯。天井からは豪華な紙ランタンが吊られ、中央の壇上には金色に輝く“便座の形の何か”が安置されている。
「……ねえミリア。あれ……もしかして」
「はい。勇者様が授与される“浄式勇者勲章”です!」
ミリアが誇らしげに言う。しかしユウは戦慄していた。
「いや便座じゃん!!完全に便座じゃん!!これ胸につけんの!?胸に便座つけんの!?」
ミリアが悪気なく頷く。
「ええ、王国最高位の装飾です!」
やがて大広間の扉が開き、王・バルサミコ三世が入場した。立派なローブをまとい、頭には王冠……ではなく“金の巻き紙王冠”をつけている。
「勇者ユウよ……よくぞ戻った!」
王は声を震わせながら言った。
「そなたは“浄化トイレ技《大解放》”により、大紙危機を終息へ導いた。これは歴史に残る偉業である!」
ユウは恐縮しながら頭を掻いた。
「いえ俺、ただ腹……」
「黙れ。謙遜はよい」
ミリアが小声で
「勇者様……いまは言わないほうが……」
と制止する。バルサミコ三世は豪奢な布を捲り、金色に輝く便座型勲章を持ち上げた。幅は胸より大きく、細かい彫刻がびっしり施されている。中央には“流す”を意味する古代文字のエンブレム。ユウはガチの困惑顔になる。
「……え、これ重くない?てか付く?」
「勇者よ、胸を張るがよい!」
ユウがしぶしぶ姿勢を正すと、王が巨大勲章を首に掛けた。ずしんッ!!!
「お、おお……重っ……!首が……折れる……!!」
「似合っておりますぞ!!勇者殿!!」
会場の貴族たちが拍手喝采し、兵士たちはトイレットペーパーを高く掲げて敬礼し、町の子どもたちは
「うんこの勇者だー!!」
と無邪気に叫んでいる。ユウは涙目になりながらミリアに囁いた。
「なんかもう……恥ずかしいんだけど……」
「わたしは……勇者様が誇らしいです」
その瞬間、会場がざわめいた。王の横に立つ老魔導師が杖をつきながら言った。
「勇者ユウよ……《大解放》を使ったということは、そなたの腹にはまだ“更なる力”が眠っておる」
「いやいやいやいやいや!!これ以上出ないって!!!」
ミリアは真っ赤になりながらも真剣に言った。
「勇者様……あなたはまだ成長できます……!」
「俺の腸に成長要素求めるのやめて!!?」
式典は大盛況のまま幕を閉じ、王国中に“便座勲章の勇者”の名が広まった。だがユウは知る由もなかった。これからさらなる“腹の試練”が押し寄せてくることに――。




