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オオカミ課長の恋煩い  作者: 佳乃こはる
第一章 オオカミさんとクマさん

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ハッピーエンド……なのか?

「それを貴様、個室だなんて卑劣なマネを……。おい大神。おまえまさか、彼女にイヤらしいことしてないだろうな?」


「……。イヤらしいマネなんてするか。俺は常に、女性の望むことしかしない。それよりお前さ、俺らが飲んでる間どこに隠れてたんだよ」


 少しの間を置き、自信たっぷりに言い切ると彼はすぐに話題を転じた。


「おい、何ださっきの間は。電柱のウラだよっ、寒かったぞチクショー。さ、トーコちゃん。俺が来たからにはもう安心だ。宿まで()()()()送るからね」


 私に向かって差し出された分厚い手を、大神(オオカミ)さんがピシッと払った。


「なっ、何をするっ」

「あのなオマエ。さっきから偉そうに胸はって言ってるけどさ、そういうのは世間で()()()()()と呼ばれる立派な犯罪なんだぞ」

「うっ、うるさいウルサイッ。俺はそんなんじゃないっ」


「いいか熊野。これはな、大人同士の自由恋愛、合意の上のワンナイト……いやラブロマンスだ。お前にとやかく言われる筋合いは、ひとっっつもない。さあ、行こうか赤野」

 私の肩に手を掛け、再び歩きだした彼に熊野さんが追い縋る。


「彼女に触るなっ。そもそも、直属の部下に手出しするなんて、許されると思ってるのか!」

「ワーッハッハ、バーカめ。社長をはじめ、うちには社内恋愛ご法度のキマリなど、ぬぁい」


「とにかく! トーコちゃんをむざむざ、お前みたいなヤリ◯ンの餌食にさせるワケにはいかないっ。ね、トーコちゃん、こいつってば紳士なふりしてるけど、実はサイテーのーー」


「おおっと、余計な事いうなよ。誰がヤ◯チ◯だ。だいたいな。赤野に限らず女子全般、お前みたいな暑苦しいヤツの方がよっぽどメーワクなんだよ」

「黙れっ、彼女の純潔は俺が守るっ」


「はーっはっは! そいつは残念だったな熊野。彼女の純潔は大学の2年間の同棲生活で、既に喪失済みなのだよ」

「はぐぁっ。テ、テメエ……いつの間にそんな情報を」

「さっき当の本人から聞いたところだ」


 首を傾げ、にこやかに私を覗き込む大神係長(オオカミさん)。うーん、会話の内容は極めて残念だが、その笑顔だけは神レベルだ。


「くっそお、マジか……。でも、とにかく駄目だ、駄目なんだ!」

「ふーむ、仕方がない。全く不本意ではあるが、最悪3人でもデキなくはな……」

「いい加減にしろぉ! よーし、こうなったらハッキリさせよう。なあトーコちゃん、俺と大神、どっちがいい?」

「は……い?」


 突然に話を振られて戸惑う私に、二人の熱い視線が注がれた。

「トーコちゃんは俺と、ケッコン前提の真面目なお付き合いをしてくれるよな?」

「赤野は俺と、大人の刺激的な恋を始めるんだよな?」


「トーコちゃん!」

「赤野!」


 えーっと……。

 さすがの私も、さっきからのやりとりのアホらしさにすっかり酔いも冷め、既に理性を取り戻してしまっていた。

「ま、まあまあ、おふたりとも」

 ギラギラと滾る視線を一身に受け、私は女神のように微笑んだ。


「取り敢えずは、3人でもう一軒。行っときます?」


 *


 次の日。

 私と大神係長(オオカミさん)は、朝10時から支社の会議に無事出席し、夕方には帰路についた。

 

 余程疲れたのだろう。帰りの新幹線で彼は、座席に座った途端眠りに落ちた。

 今、私の隣の座席でスースーと静かな寝息を立てて眠る大神係長(オオカミさん)

 その端正な寝顔を眺めながら、私は少し感心していた。


 エライなあ……。

 あれから3人、徹夜(オール)で飲み明かしたってのに、大神係長(オオカミさん)は朝にはいつも通りパリっとして、プレゼンもしっかりキメてくれた。

 熊野(クマ)さんにしてもそう。

 これまた朝イチの新幹線で戻り、いつも通りのご出勤。バカばっかりやってるようでも、社会の先輩方はやっぱり偉い。


 それから更に時が経つと、私の生活はすっかりいつもの日常へと戻っていった。


 あんな事があった後でも、ミスばかりしている私に、係長は相変わらず手厳しい。

 でも。


「赤野、今日こそはハッキリさせて貰おう」

「ど、どうしちゃったんです? 係長」


「トーコちゃん、君は一体」

「熊野さんまで……」


「「どっちを選ぶ!?」」


「いやその……、どちらと言われましても」

 にじりよる男二人の迫力にたじろいだ私は、矢も盾もたまらず逃げ出した。

「とりあえず、また今度でっ!」

「あ、まてコラッ」

 逃げる私を追ってくる正反対のふたり。


 それでも――。

 灰色だった私の社会人ライフは、ちょっとだけ楽しくなりそうだ。



 *第一章おわり*

第二章に続きます。

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