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オオカミ課長の恋煩い  作者: 佳乃こはる
第三章 愛しのマイフェアレディ

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やっぱり3人

 燈子を真ん中にして、右に大神、左に熊野が肩を並べ、帰りの道のりをとぼとぼ歩く。

 にわか失恋の痛みに、俯き加減の燈子を支えるように、大きな男が左右に添う様は、社長が言ったとおり一見お姫様に忠誠を誓う騎士(ナイト)のよう。

 しかしその外観とは裏腹に、繰り広げられている会話には、微塵のいたわりもなかった。


「ううっ……ぐすっ」

「いい加減泣き止めよ。せっかく綺麗にして貰ったのに、化粧がハげて見れたもんじゃないだろうが」

「ううっ。だって大神さん。私ってやっぱり……フラれたんですよね」


 大神がふと切なそうな顔で燈子の方を向く。暫く考えた後、急にニマッと笑顔を作った。


「うゎっはっは~、ぅあったりまえだ〜! そもそも《《あの》》社長だぞ? お前ごときがどうにかなれる相手じゃないよーだ」

「ううっ、ヒドイ。そんなにハッキリ言わなくってもいいじゃあないれすかぁ」


「いいか赤野。そもそも社長って、一応既婚者だからな。好きになってもドロドロの不倫沼にしかならん男だからな」


「そ、そりゃあ……分かってますけど、でも!」

「いいや、分かってないね。大体、赤野が泥沼不倫ってガラかよ。今、幼稚園通ってますって言われた方がまだ納得感あるね」

「ううっ、酷いっ。それが落ち込んでる部下に言う言葉ですか」

「そうだぞ大神! 全く何て言い草だ」

 燈子に同調する熊野に、大神はもっともらしく胸を張る。


「何を言うか。俺様は上司として至極当たり前の正道、すなわち倫理を説いているのだよ」

  

 半ば呆れ気味に、熊野は眉根に皺を寄せる。


「あのな大神ぃ〜、どの口がそれを言うんだよ。大体さっきのだって、俺たちが邪魔したようなもん……あ、いや。ゲホゲホッ。ささっ、トーコちゃん、これで涙を拭いて? 君に涙は似合わないよ」


 きらりと決めポーズを取った熊野は、通勤リュックのポケットからずるずると布を引き出してきた。


「うっわ、何だよそのキッタねえタオルは。お前の汗拭き用じゃないか」

「うるさいな、(わり)いかよ!」

「いくら赤野が丈夫でも、さすがに病気になるだろう。ほら、こっちを使え」


 大神が差し出した真っ白なハンカチを見て、熊野は侮蔑の表情を浮かべた。


「……何、お前。自分用とは別に持ち歩いてるわけ? ほら、トーコちゃん見た? こいつ、ハンカチでさえ女に渡す用を携帯してるような男だぞ」

「フン、その煮しめたような茶色いタオルより数倍ましだろうが。見ろ、赤野だって引いてるぞ。そんなだから、彼女も出来ないんだ」

「茶色くないっ! それに、お前だって彼女いないじゃないか」


「そ、そんなことはない。両手じゃ数えきれないくらいいるし」

「それはただの、セッ……いや。お知り合いの異性だろう」


「え? キミハナニヲイッテイルノ? 意味わかんないなあ、可哀想にクマタン、若いのにもうボケちゃったのかなぁ?」

「なっ。この極悪人っ。なあトーコちゃん、こいつやっぱりサイテーだろ? コイツだけは絶対ないよなっ、なっ?」


 もしかすると、彼らなりに元気づけてくれているつもりなのだろうか。


 真ん中に燈子を挟み、大人げない言い合いを続ける2人を眺めていうるちに。

 燈子の顔にはいつしか笑顔が戻っていた。


「あはっ、は。まあまあ二人とも、ちょっと落ち着いて下さいよ〜。……あれ、大神さんってば背中が葉っぱだらけ! あ~、よく見たら熊野さんも」

「え」

「〝え〟じゃなくて。も~、今まで一体何処で飲んでたんですか?」


 ギクリと固まった二人の背中に廻りこみ、バサバサと払いながら。

 燈子はそっと、ハラハラと頬に流れ落ちる涙を真っ白なハンカチに染み込ませた。


 と。


「あれ! 大神課長ったら。髪にまで枝が引っかかってますよ。あ、あれ? 絡まっててとれないや、え~いっ」

「いった、引っ張るな! ハゲるだろうが。自分でやるから、もういい。ヤメロいたいっ」

「や、もうちょっとなんで。ちょっと大人しくしてて……あー!」

「ムリ!」

「ちょ待っ、待ちなさーいっ」


 たまらず逃げ出す大神の背中を追いかける燈子。 

 その様子を笑顔で眺めながら、熊野は、胸に妙なざわつきを覚えていた。


 トーコちゃん、君はもしかして——。


 赤野燈子の束の間の大人の恋の経験に、3人で過ごした2年目が、もうすぐ終わろうとしている。

 三人三様の気持ちを胸に。


 もうすぐ、3年目の春が訪れようとしていた。



 *おわり*


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