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オオカミ課長の恋煩い  作者: 佳乃こはる
第一章 オオカミさんとクマさん

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オオカミさんには気をつけて

 そんな灰色の日々を過ごしていた私に、ある日さらなる災厄がもたらされた。


「ええっ、出張?」

「ああ、出張だ」

 しかも、係長と1泊2日だと!


 私にそれを告げるなり、大神(オオカミ)さんはフーッと深い溜め息を吐いた。

 憂いを帯びた表情をつくり、やれやれと首を横に振る。

「仕方がないだろ。他のみんなは忙しいし、この課でマトモに仕事してないのは、お前くらいのもんだしさ」


 うっ、確かにそれは当たっているが……。


 絶対に嫌だ、虐められるもん!

 私は、精いっぱいに抵抗を試みた。


「で、でも私、一緒に出張連れて行って頂いても、勉強どころかきっとお役に立てないですよ? そもそも会議のプレゼンならば、係長お一人の方がきっとスマートに進行しますし、出張旅費の経費節減にもなりますし」

「黙れ新人、妙なしゃべり方をするんじゃない。……こっちにはこっちの都合ってもんがあんだよ」


「うっ、急にお腹が……。もしかしたら、持病のストレス性胃炎かも知れません。明日はすみません、とても出張の御伴は出来そうになく」

「そうか、それは良かった。出張は一週間後に伊豆なんだ。分かったらとっとと手配してこーい!」

「うっへえ、は、はいーっ」


 オオカミさんの、奥歯にものが挟まったような言い方を気にしながらも、勢いで走り出そうとする私。

 すると、近くで聞き耳を立てていた水野女史が、キラリと眼鏡を光らせた。


「赤野さん。……大神君にはお気をつけなさい」

「は? ……はぁ」


 気を付ける?

 転ばないようにってことかな?

 

 どう返して良いものか分からず、私は踏み出した足を止めて半身だけを彼女に向けた。


 ちなみに、水野女史という人は、いわゆる『お局様』のようなタイプではなく、常に怜悧に事態を傍観し、達観している仙人のような女性。

 ゆえにこの職場は、女子界隈特有の陰湿なイジメには無縁で、その点ではラッキーだった。


 結局私は、愛想笑いで頭を下げて、再び旅行代理店へと走り出した。


 そしてその時、走り去る私の後ろ姿を、熊野主任(クマさん)がとても心配そうに見ていたことなど、知るよしもなかった――。


 ***


 さて、出張当日。


「お茶、コーヒー、お弁当などはいかがですか〜」

「わあぁ、大神さん、お弁当売ってますよ、どうします?」


 オオカミさんと私は、新幹線の指定席に並んで座っていた。

 仕事とはいえ、新幹線など上京した時以来だった私は、興奮気味に隣の係長に問いかけた。


「ばか、遠足じゃないんだぞ」

「む……」


 しまった、ついワクワクして、相手が誰だか忘れていた。

 さっきから黙々とモバイルPCを叩いていたオオカミさんは、チラリと私を一瞥すると再び手元に目を落とす。


 フンだ、いいもん。

 自分の分だけ買ってやる。


 私はパッと手を上げて、販売員さんを呼び止めた。


「すみませ~ん、お弁当ひとつ……」 

「ふたつ」

 何だ、本当は自分も欲しいんじゃない。私の注文にすかさずと割りこんだ彼を横目に睨みつつ、私は注文を訂正した。


「すみません、やっぱり2つください」

「かしこまりました。2つですね、2680円です」

 マスクのお顔がにこっと微笑む。


「あ、はい。ちょっと待ってね。えーっと」

 けっこう細かいな。バッグを探り、私がモタモタしていると、すっと上から万札が差し出された。


「すみません、これで」

「あ、は……はいっ」


 スマートに支払いを済ませた彼は、販売員のお姉さんに現金を手渡ししつつ、営業スマイルも忘れない。

 ホント、外面(そとづら)()()は完璧なんだよねぇ。


 お弁当ふたつを受け取った私は、販売員さんといつまでも手を振りあっている彼の背中に、イッと歯を剥いてみせた。


「何だよ」

「別に?」


 何てカンの鋭い奴。くるっと私に向き直った彼に冷や汗をかきながらも、お弁当をひとつと1340円を差し出した。


「あの、ありがとうございました」

「いいよ、それぐらい。それよりも」


 お弁当だけを受け取った彼は、静かにパソコンを閉じると、私にお礼を言う間も与えずに、さっさと説明を始めた。


「駅に着く前に、今後の予定を伝えておきたい」

「エ?」

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