表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オオカミ課長の恋煩い  作者: 佳乃こはる
第二章 オオカミさんの恋わずらい

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/32

オオカミさんの無茶振り

「分かったよ。じゃあ少しだけ……すまん」

 他人に、ましてや部下に弱った姿など見せたくないが。高熱の上にオンされた熱の影響か、思った以上に身体がフラつく。

 バクバクしはじめた胸を押さえながら、諦めて俺はソファに寄りかかった。


 すると、替わりに座蒲団にチョコンと座った彼女が、嬉しそうに荷物を拡げ、店開きをし始める。

「これと、それからこれ、出来上がっていたのを持ってきました。病気の時にご迷惑かとも思ったんですけど。ほら、今から長い休みに入るでしょ?」


 赤野はクリーニング屋から戻ってきたスーツと、俺が店に忘れて帰ったコートをテーブルに置いた。


「ああ、ありがと」

「それからこれ。こないだのワンホールのささやかなお返しです」

「あれ、全部食ったのか。……ひとりでか?」

「はい! 美味しかったです」


 スゲエな。

 呆れつつも、あの後彼女がひとりだったことに気を良くした俺は、少し声を弾ませた。

「そっかあ。……にしてもソレ、ちょっと多くないか?」

 このコ、どこに隠し持っていたんだろう。

 さっきから俺と話している間に、嬉しそうな様子で次々とテーブルに並べている栄養ドリンクと薬の量に、顔がひきつった。


 四次元に繋がるポケットでも持っているのか?


「いえいえ、体質によってどれが効くか分かりませんから。えーっとオロナミンPにモンスタアに、バッファリンエース……、よーし、これで最後です!」

「イヤ無理だってコレ、ひとりで消費しきれない……赤野?」

「あの、課長」

 最後の栄養ドリンクを並べ終えた彼女が、急にモジモジと俯いた。

 何か様子がおかしい。


「その、あの日、課長が仰いましたよね? 『鈍さは罪だ』って」

「え」 

 んなこと言ったっけ? 

 その時のことを思い出そうとしていると、赤野は決然と顔を上げた。


「課長、私……その『意味』がやっと分かった気がします」

「なっ……」

 ま、まさか、ここにきて愛の告白とか?

 いつかの夢は正夢か!?


「私……」

「う、うん」

 赤野がすうっと深呼吸をした。

 あわせて俺も息を吸う。


「す、すみませんっ、課長の風邪、私のせいだと思うんです! 私が総務のコ達の前で、メチャクチャ自慢したから!」


 ……は?


「あの次の日。課長が酷い水責めに遭ってましたよね。 実はアレ、私の話に尾ヒレや葉ヒレがついちゃって総務界隈に、『派手に濡らすと、大神さんに誘って貰えるらしい』というデマが広まったせいらしくって。……本当にスミマセンでした!」

 45度に頭を下げ、ピタッと留まった彼女に、俺は震えが止まらなかった。


 なんかおかしいと思っていたら赤野、またしてもオマエかあ!


 本来なら、ここは怒鳴るところだが……。


 今日はもう気力がない。


「まあ、いいよ」

 シニカルに笑うと、俺は再びソファに寝そべった。

 景色がボンヤリ霞んでいる。

 ようやく頭を上げた赤野が、心配そうにこちらを見ているのが分かった。

「課長、ちゃんと病院行きました? お薬って飲んでます?」

「……キライなんだよ、病院も薬も。ろくな思い出がない」

「そんなのダメですよ! 子どもじゃないんだから……。そうだ、せめて薬だけでも」

 赤野は慌てて卓上の薬を選び始めた。


「いいって。さ、暗くなるからもう帰れ」

 デカブツに邪魔されない千載一遇のこのチャンス、逃すのは癪だが……。

 仮にも俺は管理職。

 部下の帰路の安全には、細心の注意を払わねばならん。


「ダメですって。あ、あった。はいどうぞ」

「要らねって」

「ダメ!!」


 フン、オカンかよテメーは。


 きっと、熱のせいなのだろう。

 珍しく眉を吊り上げた彼女が、ひどく(いとお)しくって——。


 俺は少しだけ、困らせてやりたくなった。


「じゃあ、お前が飲ませてみろよ。口移しで」 

「は……はい?」

 ハハ、予想通り。円い目をもっと円くして、『聞き違いか?』って、困った顔してる。


 やっと言葉を呑み込んで、本気で困りはじめた姿に、俺はうっすら微笑んだ。

「冗談だ。さ、風邪がうつるから早く帰れ。明日は実家に帰るんだろ。……送って行ってはやれないけど」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ