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オオカミ課長の恋煩い  作者: 佳乃こはる
第二章 オオカミさんの恋わずらい

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夢の終わり

 またしても俺の企みは崩れ去り、落ち着いたたクリスマス・ソングの流れるいい雰囲気の店内も、すっかりいつもの飲み会と化してしまったワケだが……。


 それはそれで楽しいもので、あっという間に時は過ぎた。


「そう! 大神課長に叱られたあの日。直前の合コンも不調に終わって……ヒクッ。私ね『ああ今年のクリスマスもボッチだな』って、ずっと思ってたんれすよ」

 ダンッ。 

 相当酔いが回っているらしい。眠たげに目を座らせた赤野は、強めに杯をテーブルに置いた。


「ハハハ。そうだろう、そうだろう」

 良かった。あの日赤野に、難しい仕事を投げといて。

 俺は相槌を打ちながら、彼女とまだ半分残った杯に手早にシャンパンを継ぎ足した。

 そうだ、俺にはまだ、ここで赤野を酔いつぶしてお持ち帰る目が残っている。


 夢は終わらない。


 その隣では、

「おねーさん、ワインのおかわり〜」

 既に泥酔状態の熊野がテーブルに突っ伏し、ウェイトレスを呼びつけている。


 熊野、ここはワリカンだからな。

 ジロリと一瞥していると、赤野がグラスに口をつけながら話を続けている。

「それが! なんと今年は、社内ランキング『抱かれたい男ナンバー3』のオオカミさんに誘われたんですよ? 自慢もしたいじゃないですか、ねえ」  

「そ、そうか! 俺は3位なのか」


 思わぬ関心事に食いついた俺を置いて、彼女の愚痴はなおも続く。

「それでね、これみよがしに経理の実花ちゃんに自慢したら、何て言われたと思います? 『あんた一体、何やらかしたの』らって。言いましたよ、言いましたともさ。『ぶっ掛けちゃった』って。キー、悔ち~! どうせ私に色っぽい話には無縁ですよ~だ」

「とすると、1位は社長、2位は専務ってとこか……。おーい赤野、どうなんだ?」

「トーコちゃん……俺は何位だい?……ムニャ」


 酔っ払いの会話は、さっぱり対話になってない。


 と、彼女が急に、潤んだ瞳で俺を見つめだした。

「でもね私。例えお説教でも、課長に誘って頂いて嬉しかったんです。こっちに出てきてから、ずっと一人だったから。皆が楽しそうな話で盛り上がってる時、ホントに淋しくって……ぐすっ」

 そう言うと彼女は、トロリとした目をグラスの水面に移した。

「赤野」

 なんて健気な。そんな寂しさ、俺が今からすぐに埋めてやる——。

「あ、赤野! この後ふたりで……」

 彼女に向かって身を乗り出した時だった。


 ♪ピロロ~~ン♪


 ちっ、何だよこんな時に!

 スルーしようかと思いつつも、俺は胸ポケットからスマートフォンを取り出し、画面を確認した。


緊急事態発生(エマージェンシー)! Oホテル すぐきてネ。 社長』

「……」

 俺はぐっと奥歯を噛み締め、断腸の思いで席を立った。


「? オオカミ……さん?」

「赤野、誘っておいてすまない。社長から急な呼び出しがかかって……。これから出向かねばならん。支払いは済ませておくから。充分楽しんだら、悪いがそこで寝てる熊野(バカ)をタクシーに突っ込んでやってくれ」

「うわぁ、忙しいんれすね~。課長は」

「まあな」

 目を丸くする赤野に、苦い声で返事する。

「最後に、一言だけ」

「は、はいっ」  

 俺が鋭く目線を流すと、反射的に赤野はピシっと固く背筋を伸ばした。 


「社会人2年目の女として」

 ああ、クソッ。なんで電源切っとかなかったんだよ。

 俺は、彼女の肩にそっと手を掛けた。半分口を開いたまま、無垢な瞳で見上げる彼女。

 淋しく笑んで見せた後、スッと手前に腰を折った。


「その鈍さは……罪だ」

「ぴゃ……」


 それはホンの一瞬。

 俺は、掠めるくらいに、その上気した頬に口付けた。


「じゃあ、すまんっ」

 俺はさっと彼女から離れると、レジに向かって踵を返した。

 手早く支払いを済ませた後、ふと思い出して席に戻る。


「……?」

 まだポンヤリと頬を押さえていた彼女は、不思議そうに焦点の合わない瞳を向けた。

「そうだこれ。オマエなら、完食出来るだろうから。……じゃあ、また明日」

 隠し持っていたプレゼント。

 俺は大きめの白い紙袋を彼女の膝の上にポンと置くと、再び外へと駆け出した。

 ガサゴソと紙袋の音をさせながら、背中に小さく呟く彼女を残して。


「オオカミさん。7号は一人じゃムリですよ……」

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