大人なデートの誘い方とはいかなるべきか
「と、時に赤野」
「? はい」
俺は、既にドアノブに手をかけ、早々に部屋から立ち去ろうとしている彼女を呼び止めた。
「あ~、明後日の退社後のことだが……何か予定が入っているか?」
さりげなく言ったつもりだったが、不覚にも声がうわずってしまった。
「明後日……ですか、えーっと」
天井を見上げ、少しだけ考えている風の彼女は、はたと思いついたように手を打って、それから自信たっぷりに答えた。
「ああ! 明日後って確か、クリスマス・イブでしたよね?」
ぎくっ。
「そ、そうだったかな? べ、別に日にちに深い意味はないんだが。ここんとこ忙しかったからな~。そういうのは意識してなかったな〜」
焦りながら言い訳する俺に、きょとんと首を傾げた赤野だが、次の瞬間には元気に言い放った。
「勿論ガラ空きですけど?」
何て哀れな奴。
でも……良かったぁ〜!
「そそそ、そうか。ならばその日は予定を空けておけ。その~、アレだ。今回の件もあったことだし、社会人の何たるかを俺がたっぷりと教示してやろう」
「えー……、プラスでお説教ってことですか……」
沈んだ声と表情に、俺は慌てて前言を訂正した。
「いや違くて! 堅苦しいヤツじゃなくってその……日頃の慰労というか、腹を割った男と女の……じゃなくて。あれだ、プライベート感覚の、ちょっと気軽な1on1ミーティングみたいなものだ」
う、ヤバい。何だかしどろもどろになってしまった。
疑わしい目でじっと俺を窺っていた赤野だが、少しすると、きゅっと顔を引き締めた。
そして。
「え……ええっと、は、はいぃっ、分っかりました!」
「ふっ、そ、そうか。店は俺が抑えておくから……か、覚悟しておけよ」
「イエス、サー!」
謎にピシッと背筋を伸ばし、敬礼の姿勢とった。
「では、失礼いたします!」
それから、俺のずぶ濡れスーツをシワが寄るほど握りしめ、やけに神妙な顔つきで部屋を出ていった。
「ふ、ふふ、ふははははっ」
やったぞ俺。
少しもたつきはしたたものの、とうとう赤野を誘えたじゃないか。
ここまできたら、ヤッたも同然。
そうさ。
経験豊富なこの俺様が、たっぷりと教えてやろう『社会人』。
ただし、ベッドの上でな——。




